いじめ返し~shadow puppet~

早坂 実

第1話 design

―日出づる処―


と申したのは、多利思比孤(倭国の王)つまり、聖徳太子である。

「明ける」と「沈む」は、対でもあり、組でもある。


彼は、わが国が「こうなること」を予期していたのか。


バブル崩壊

デフレーション

教育格差に始まり、学力低下。

他国の技術者スカウト

日本人口の減少


沈みゆく国。


日本は、豊かであった。

太平洋戦争後、高度経済成長期を経て、日本は回復。


日本人の絶え間ない努力が、今の日本を作っていた。


しかし、現代の日本は、教育格差が存在する。


経済格差によるものと、その点にだけ注目されるが、重要なのはそこではない。


富裕層は、"気づき"を求める。

それ以外の層は、”気づき”を求めない。

—否、気づきが重要だと、そういう教育をなされていない、教わる機会もない。


その点から、目を背けるかのように


ひたすら”知識”を埋めることが重要だと洗脳される。


それが、”教育格差”である。


”気づき”を知らない故なのか、学力が低下している。現代の日本においては最重要課題とされている。


あるビルの部屋の一室。

黒いドレープカーテンから漏れるわずかな光が、薄い青を含んだ白く長い髪をした女性を照らしていた。


彼女は、遠くを眺めていた。


「理事長、学力が順調に低下しているとのです。順調に進んでいけば、次のフェーズに移行することができます。」


そのように話すその男性は、軽いパーマでセンターパートを施した黒い髪で、背筋を立たせ、銀縁の眼鏡をかけ、鋭い眼光をしていた。


彼女は、偏差値60以上の日本技術大学付属高等学校の私立高の理事長である。


「血は、順調に集められそうですか?」


窓の外を向いたまま、その男性に聞く。


「血は、順調に集められそうですが、次のフェーズに移行するにあたり、問題があります。」


彼女は、ほんの少しだけ男性のほうへと顔向ける。


「何の問題です?」


「情報です。」


「情報管理ですか?」


「―はい。大学の研究室に、ほぼ毎日といっていいほど、サイバーアタックされているとの報告があります。こちらも優秀なホワイトハッカーを雇い入れ、対策を練っているのですが、どれだけ対策をしても、情報の漏洩の危険度が変わらない状況です。」


「……確かに。研究、分析をコンピュータで行っている以上、情報漏洩の危険性はありますね。たとえ、こちら独自の回線で、情報伝達をしていたとしても、その危険性は拭えません。」


彼女は、振り向いた。


その姿は、ブルーフォグのパンツスーツを身に纏い、細身の体形をしていた。

カーテンから漏れる光が、背を反射し、部屋の一部を照らしていた。


「……それを伝えに、斉藤、あなたはここに来たのですか?」


冷たい…。冷気などの類ではなく、何か鉄のような、人間独特のような温もりがなかった。


男性の名は、斉藤 司。彼女の秘書である。


「いえ……。対策の提案があり、ここに来ました。理事長、モニターをご覧ください。」


モニター画面に映し出されたのは、一人の女子高生。


「桜井 美鈴。この方に、情報を埋め込みます。」

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