水瓶座のおはなし

 昔々、森の小さな泉にひとりの水の精霊が棲んでいました。

ある時荒れ地の国の王様が訪ねてきて、自分の国に雨を降らせてほしいと頼みました。

心優しい精霊は、王様の願いに応じて城の尖塔に移り住み、塔の上で雲の糸を紡ぎ、雨を降らせました。


 しかし小さな泉の力では国全体に行き渡るほどの雨は降らせません。

身を寄せ合って暮らしていた荒れ地の国の人々は、わずかな水をめぐって言い争いを始めてしまいました。

悲しんだ水の精霊はそれを見て塔から身を投げてしまいます。


 それを天上の宮殿の主が見とがめ、すくい上げて宮殿に連れ帰りました。

きらきらした虹色の涙をこぼす精霊に心奪われて、主は手を差し伸べます。

「何か一つだけ願いをかなえてあげよう」

水の精霊は喜んで、荒れ地に持ち帰る水を所望しました。

主は少し考え、水瓶に精霊の望むだけの水を入れて渡しました。


 精霊は急いで国に帰りましたが、荒れ地の国では戦争が起こっていました。

慌てた精霊はつまづいてしまい、水瓶を落としてしまいます。

水瓶は、すべての大地に降らせる水が湧き出る魔法の水瓶でした。

精霊は慌てて水瓶を抱え直しましたが、小さな瓶から水が一度に流れ出し、荒れ地の国は水底に沈みました。


 精霊は誰もいなくなった尖塔のてっぺんに腰掛け、水瓶の水を均等に大地に流す仕事をしています。

誰にも心を傾けぬよう、塔は固く閉ざされているということです。

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