ほんわか和菓子屋さんの一人娘の恋物語②チョコレートの白薔薇

荒井瑞葉

第1話 スバル先輩との放課後

 9月6日放課後、スバル先輩と熱海サンビーチで待ち合わせてた。スバル先輩とわたし(花宮アユ)は、ズボズボと靴がはまる砂浜を、ちょっとの時間、無言で歩いたよ。

 

 スバル先輩はおしゃべりな人だと、わたしはずっと思ってたんだよ。

 でも、夏休みの半ばごろから、先輩はすごく無口になった。

 わたしたちは夏休み中も変わらず、いつものメンバーで遊んでたよ。桃子や無量くん、そしてスバル先輩とわたしでね。


 桃子と無量くんは、二人きりで出かけたこともあるみたいだった。なぜか、桃子がその「恋の進展」を話してくれないから、わたしはちょっとだけ、置いてきぼりにされた感覚を持ってた。


「アユちゃん、あのさ」

 夏休みも終わりのある夕方だったよ。

 熱海銀座で四人で遊んだ後に、スバル先輩が真剣な目をして、「二人だけで話そうよ」とわたしを呼び止めたよ。


 桃子と無量くんとはサヨナラして。

 その時に、熱海サンビーチをこうやって、二人で無言で歩いてたよ。


 二学期に入ってからも、どういうわけかその「日課」は続いてたの。


 夏の始まりより少しだけ日焼けしたスバル先輩を、横目でチラチラ、わたしは見てた。肩幅も広いし、なにかスポーツでも、部活動でやってるのかな。


 聞けたらいいのにな。桃子と無量くんみたいに話せたらいいのに。明るく朗らかな仲じゃないね。わたしたち。


「アユちゃんさ、最近、全然しゃべらなくて。なに考えてるかわからない。俺には」


 その日の帰り際にそんなことを言われたから、心底驚いてしまった。


「スバル先輩こそ、最近、全然わからないよ!」


 先輩なのにタメ語で、言い返してしまう。

 わたしは泣きそうになってた。


 そしたら。


 スバル先輩がわたしの肩にそっと触れてきたの。

 肩についたゴミでもはらってくれてるのかな、とこちらが思ってしまうような、自然な仕草だったよ。


「俺はさ。こうしたいけど。嫌だったら言って」


 スバル先輩は、わたしの肩をそっと左手で引き寄せて、そのまま、なかなか離してくれなかった。


 でも、不思議だね。

 嫌じゃなかった。


 その9月6日の夜に、スバル先輩とメッセージのやりとりをしたよ。


「なんか、彼氏っぽかったですよ」

 と、冗談めかしてわたしが送ったら、


「そのつもりなんだけどな」

 って返ってきた。


「アユちゃんが嫌じゃなければさ。また、ずっと、サンビーチ歩こうよ!」


 スバル先輩はそう送ってきた後、どういうわけか「真っ白犬」というキャラクターがワンワンと吠えてるスタンプを送ってくれたよ。


「嫌じゃないよ」

 そう、スマホで返信した時、世界の色が少しだけ変わった。確かに変わったの。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る