第11話 世界樹の7日間[中編]

狼型亜人達とゴブリンの混成部隊が帰ってきたのは、出発してから3日経過してからだった。


リュウオウの深追いは無用と言う言葉を信用して真っ直ぐ帰路についていたが、途中、飛竜に襲撃され、はぐれた仲間の救出に手間取ったという。


アッシュ「ゴブリンは全滅。うちからも二人。やられました。」


狼型亜人達はボロボロだった。とてもすぐにレポートを作成できるような状況ではなかった。

しかし、彼らが運ばれた村の病室に魔女の集団がやってきた。


狼型亜人A「おい、なんなんだ、あんたら。」


狼型亜人B「こっちは二、三日休養の命令が出てんだ。」


病室で安静にしていた亜人が抗議する。


魔女達はアッシュのベッドに集まった。魔女達はアッシュを見て淡々と話す。アッシュはそれが恐ろしく思えた。


魔女A「彼が隊長です。」


魔女リーダー「イギギ共は?」


魔女C「このあたりには居ないようです。」


魔女リーダー「カーテンを閉めろ。部屋の外にも見張りを立てろ。」


アッシュは魔女がどうするつもりなのかベッドから見ているしかなかった。


魔女リーダー「狼。これから起こることは口外するなよ。」


アッシュ「……一体、あんたらは、ッ!」


アッシュは脳をたくさんの手で弄られてるような感じがした。痛くはないが気持ちが悪い。


魔女A「……これは。結界?」


アッシュ「う、あ、あ。」


魔女リーダー「……チャームの類だ。厄介だ。……よし、撤収する。端末に出力は後でいい。」


他の魔女たちが短く返事をすると、全員、素早く撤収していった。狼型亜人達は何が何やら分からず困惑した。


アッシュは頭の違和感から急に解放されたが、どっと疲れて、体が重かった。


狼型亜人A「……なんだったんだ?」


狼型亜人B「上の奴らはやっぱり、俺等とは違うんだ。」


アッシュ「そう、だな。」


狼達は身近にいる上位種に戦慄した。




キーリスは自分の個室にこもってお気に入りの魔女たちとともにデスクトップのレポートに目を通していた。


メガネ魔女A「……猫型亜人は使えますね。」


キーリス「うーん、巡回経路が変わってるのか……」


狼型亜人達が戻らない間に、キーリスはもう一度、猫型亜人を世界樹に向かわせていた。


メガネ魔女A「帝釈天、マオチームの安全な世界樹到達は難しそうです。」


キーリス「そのためのマフだ。だった。」


メガネ魔女B「ここにきて地上徘徊型が増援にくるとは……」


キーリス「対策され始めた。もう、我々には時間がないぞ。」


キーリスはたった。


キーリス「1部隊増やそう。ゴブリン達を使う。今日中にリーダーを選出してくれ。」


メガネ魔女A「わかりました。」


そこへ魔女リーダーが帰ってきた。


魔女リーダー「お父様。…………」


魔女リーダーはキーリスに耳打ちする。女の人の吐息は格別だ。


キーリス「……ふぅ。」


母船のキーリスはアヴァターラ操作室が個室でよかったとつくづく思った。

キーリスはアヴァターラ操作をしている机のティッシュを数枚取った。


キーリス「……帝釈天は大変な任務になるな。チャーム対策は今度だ、今は時間との勝負だ。」


魔女リーダー「では、対策物の作成はコチラでやらせときましょう。」




マフ「コレで10匹目。」


眼下の密林に穴だらけの飛竜が血を撒き散らしながら墜落していく。


マフ『こっからでも、でかいわねぇアレ……』


密林の入り口上空付近にいるというのに、


世界樹ははるか遠くにあるというのに、密林から空に伸びるその巨木はとんでもスケールで存在感を放っていた。てっぺんの方は大気の層を超えてるのではなかろうか?


マフ配下の魔女「来ました。マフ様。新手です。」


巡回の飛竜がやられ遠くから続々と飛竜達が集まってきた。


マフ「どんどん、いらっしゃいな。相手してやるわ!」


マフと魔女はツーマンセルで迫りくる飛竜の相手をしていた。時間でもう2人の魔女達と交代。


ハチノヒレ=光弾の散弾、八柄の剣=時空割断を、

連射する、疲れたら交代すればいい、簡単なお仕事に思えた。


マフ『私はまだまだ平気だけど、他の魔女達がへばってきてるわね……』


時間を稼ぐは損な役回りだ。マフは心底そう思った。




ヤシャ「上にも注意しろ!飛竜が降ってくるぞ!」


ヤシャはゴブリンとオークの混成部隊を率いて地上徘徊型の竜種の相手をしていた。


ゴブリン「駄目だ!奴の突進を抑えられねー!」


大きな角を振り回す地上徘徊型竜はオーク達を薙ぎ払っている。


ヤシャ「耐えろ!俺たちで引き留めるんだ!」


マオと帝釈天のチームを損害なく世界樹のもとに送り届けるには自分たちが頑張るしかない。


ゴブリンとオークは消耗したら逐次投入されるがジリ貧である。


ヤシャ『もしかして、我らの父(キーリス)はわざとゴブリン達の数を減らしているんじゃないのか?』




マオ「アニキのところにはラセツとかカルラとかいっぱい付くのに、俺は一人?!」


キーリス「そりゃそうだ。お前はワンマンアーミーで今回の作戦の切り札、要なんだから。」


めったに天空神殿から出てこないキーリスが地上に降りてきて、今回の作戦に投入される面々の見送りに来た。


と、思ったらマオだけ一人にされ、それまでついていた狼型亜人やゴブリン達を剥がされた。


マオは不満に思った。なんで俺だけ。


不公平だ、と。


キーリスは俺のことを嫌いなのか?そう思った。


キーリス「頼りにしている。」


キーリスはマオの方をポンと叩いて、マオの目を見てそういった。マオはうれしくなり飛び跳ねそうなのを抑えた。


マオ「しゃーねーな!俺が要(かなめ)なんだからよ!」


照れ隠し。腕を組んで、赤くなる顔をキーリスに見られないように背けた。




先行したマフやヤシャ、は世界樹へと続く密林の入り口付近で既に交戦している。


マオ「俺が急がないと。」


マオは昼間でも薄暗い密林を進んだ。マントなんて考えられない。上着も脱いでるのに暑さと湿気で汗びっしょりだ。


猫型亜人のニーアが文句をレポートに載せた理由にもこれなら頷けた。

このスピードだと到着は日没くらいだろうか?

もし、自分が空を飛べたのなら、そこまで、かからないかもしれない。


世界樹を守るリュウオウに確実にクサグサノモノノヒレの超高加速質量弾を当てれる距離まで接敵する。


マオは想いだけが焦っていった。こんな時、誰か話す相手でも居てくれれば、少しは、気も和らいだのかもしれない。


その時、暗い密林が木々の隙間から差す光もなくなって真っ暗になった。上空に巨大な何かが居るのだ。


マオは空を見上げた。


マオ「リュウオウ級……」


ソレはマフ達のところへ急行している。


マフは女には思えないが、(なんですって!?)


魔女は可愛い系も、キレイ系もいる女性だ。


マオが、自分が秘匿されてなければこの作戦は失敗するかもしれない。しかし、リュウオウに魔女が対抗できるだろうか?


インベントリでリュウオウの時空割断を防いだマフでも負傷していたというのに。


マオ「俺がやらなきゃ……」


女子供を守るのは男の仕事だ。

マオは腰のペレット弾ポーチから鉄球を一つ取り出すと密林の空に放り投げた。




密林の入り口で暴れている奴らがいる。

伝令の飛竜からその報を受け取ったリュウオウは現場に急行していた。

その下にマオがいることにも気づかずに。


リュウオウ『どれ、外来種を軽くもんでやるか。』


後ろの密林から光が漏れてるのを見つけたリュウオウは訝しがった。


リュウオウ『アソコになにかいるのか?』


振り向いた瞬間。


ズドォォォン!


密林を切り裂くような音と同時にリュウオウの首は体から取れ、密林に落ちた。




マオはクサグサノモノノヒレを当てて有頂天になった。


世界樹攻略編、完!


そう思えた。


ほんとにそうか?


キーリスの声が聞こえてきた気がした。暗い密林で1人、暑さで参っているのもあるのかもしれない。が、

その言葉は心のなかでどんどん膨らんでいく。不安。


マオ「世界樹に確かめに行けばいい。」


空は赤くなっている。世界樹まで後少しだ。

マオはニーアが脱ぎ捨てたマントを通り過ぎて、

先へと進んだ。

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