第7話 救出大決戦!
「悲しいですね…。そんな風に、敵扱いをされてしまうなんて…。ですが…そちらが引いてくれないというのなら仕方ありません」
ハリーは片手を上に向け、広げた。
ハリーの手から、小さな台風がいくつもできる。
「全力で、追い返させてもらいますね」
言い終わるか終わらないかの内に、ハリーは片手をサンたちの方に向けた。
小さな台風が、サンたちの方に向かう。
サンがとっさに炎の壁を作り、防御した。
が
バァン!
炎の壁は複数の台風の力に耐えきれず、一瞬で壊れてしまった。
「…!つ、強い…!」
その様子を見ていたハクは、グレイシアたちを近くに呼び寄せた。
「5人とも、聞いてくれ」
「ハク?一体どうしたの?」
「ハリーの力は絶大だ。天気1つと台風が戦うとなると、必ず天気は敗れるだろう。サンたちが全員で総攻撃をしたとてほとんど互角…もしくは、あちらの方が強い。このまま戦闘に持ち込まれれば、かなり厄介なことになる。おそらく、レインの救出どころではなくなってしまう」
「ハク、ぼくらは何をすればいい?」
「どうすれば、レイン様を助けることができますか?」
「あれを科学戦力といっていいのかは分からないが…科学戦力で太刀打ちできないのなら、物理戦力も加われば良い。ということで、グレイシアはスノウに、ルオンはクラウドに、ランディはウィンドに、ピュートはサンに、デュネルはサンダーについてくれ」
「それは分かったけどよ…ハクはどうするんだ?」
心配げに見つめてくるルオンを見て、ハクは少しだけ目を細めた。
「私は1人で行動する。今回ばかりは、1人の方が行動しやすいからな。ターゲットがこちらに向かないようにしてくれれば十分だ」
「お前が強いのはオレだって知ってるけど…ホントに大丈夫か?」
「問題ない。心配してくれるのなら、私の不運が出ないことを祈っていてくれ」
「それは本気で願っといてやるよ。でなきゃお前、ひどい目に遭いそうだかんな」
「それを冗談にできないから言ってるんだ…」
おかしそうに笑いかけてくるデュネルに、ハクはため息をついた。
それぞれが、割り当てられた者の元に行く。
サンたちは、何が何やら分かっていないようだ。
「ハリー…だったな。もう一度聞く。レインを、返してくれないか?」
「何度聞かれようと、答えは同じです。オレは彼を、手放すつもりはない」
「そうか…残念だ」
ハクは少し落ち込んだように目を伏せてから、ハリーに向かって指を動かした。
『かかってこい』と。
「ずいぶんと余裕そうですね。オレのことを見くびっているんですか?」
「悪いな。そういうわけではないんだが…こちらとしては、早くレインを助けてやりたいんだ」
「ふっ…その余裕、すぐにかき消してあげますよっ!」
ハリーが放ってくる雷電や火の玉をバク転や宙返りで避けながら、ハクは静かに、けれど全員に聞こえるほどしっかりと言った。
「全員、攻撃開始」
ハクの言葉を聞き、ハッとしたサンたちは一気に技を出した。
…ハリーの後ろにいた、ハクの方へ。
まず目にも止まらぬ早さのからっ風がハクを切りつけ、ひるんだところにクラウドの雲が視界をさえぎる。
完全に視界を奪われた中でハクは、勘だけで迫り来るスノウの氷柱とサンの炎の玉をよけた。
が、そのよけた先で…間一髪で身をひるがえしたハクに、雷が落ちた。
これにはさすがにハリーも目を丸くして、攻撃をしてこない。
「「「ごめんなさーい!!!」」」
息も絶え絶えに立ち上がったハクに、サンたちが平謝りしている。
「あのなぁ…私に恨みがあるのなら、物理ではなく言葉を使ってくれ!これではいくつ命があっても足りないだろう…」
「わはははは!なんでお前雷に打たれてんのに意識あんだよ!普通は即死か気絶だぞ!」
笑い転げるデュネルを横目に、ランディとピュートは心配げにハクを見つめた。
「ハク様…今日は一体どうされたんですか?」
「いつもに増して運が悪いね…。お払い行く?」
「行っても無意味だろうさ。あぁ、ハリーすまないな。私に構わず戦闘を続けてくれ」
「なんで敵に攻撃をうながしてるのよ!」
「お前は敵か!?味方なのか!?」
「えっと…大丈夫ですか?絆創膏いります?」
「ありがとう。だが大丈夫だ。多分外傷はないはずだから」
「…ぼくらは一体、何を見せられているんでしょうか…」
さすがのランディも遠い目をしている。
「ハクはいつも、あんなに運が悪いのかい?」
「いやー…これはさすが今日だけかと…」
「やっぱそうだよね〜…」
「あ!デュネ兄、その背負ってるやつ抜いてくれよ!」
「え?これか?まぁこれから戦闘になるからいいけど」
デュネルは、背負っていたサーベルを鞘から抜いた。
大きくて傷だらけなものの、デュネルはずっとこのサーベルを使い続けている。
サンダーはサーベルの刃に人さし指を当て、一気に電気を流した。
バリバリバリ!!
「うわぁ!!ビックリしたぁ!」
「おっしゃ!できたぜ!」
デュネルのサーベルは、電気をまとった武器に早変わりしていたのだ。
「うおぉぉぉぉ!!!めっちゃカッケー!!」
「だろだろー!?」
「なるほど!その手があったか!ランディくん、その短剣、借りてもいいかい?」
大喜びで戦いに突っ込んでいるデュネルとサンダーを横目に、ウィンドが加わり、ランディの短剣にも風がまとった。
「これで、もっと素早く動けるよ。さ、ぼくらも行こう」
「はい!ってうわぁ!これちょっとこれちょっと速すぎませんか!?」
「大丈夫大丈夫!」
「サン!ぼくにもやってよ」
「分かった!とりゃ!」
「わあぁぁぁ!すごーい!ファイアースピアだ!」
「ルオンさん、ごめんね。ぼくにはあんな力はないんだ。でも、向こうからの攻撃は全部防ぐから思いっきり暴れてね!」
「んな
「グレイ姉さん、私も矢1本1本にはすごい力はつけられない。でも、援護と攻撃、両方できる」
「えぇ。私にとってもそれが1番ありがたいわ。頼むわね」
デュネルのサンダーソードが、ミニ台風を切り裂き、サンダーがハリーに雷を打ち込む。
ハリーはサンダーの雷を飛び退いてよけ、サンとピュートに向けて水の塊を飛ばした。
ピュートのヤリの先端は水の塊を一気に蒸発させ、ハリーに向かう。
それと同時進行形でサンの炎とウィンドの風がハリーの視界をおおい、2人に完全に隠れたランディがハリーを狙う。
その死角に、グレイシアの矢とスノウの氷柱、ルオンのグローブが迫る。
ハリーはその攻撃を全てよけてかわして防御して、一気に反撃した。
グレイシアとスノウに炎の玉を飛ばし、ルオンとクラウドに雷を落とす。
デュネルたちがそちらに気を取られているスキを突きデュネルとサンダーに水の塊を、サンとピュート、ウィンドとランディに突風をぶつける。
クラウドはハリーから繰り出される無数の攻撃を全て一瞬で見極め、防御の雲で全員を守った。
ハリーが次の攻撃を繰り出そうとしたその時、
ハリーの視界の隅に、銀髪の青年が映った。
彼はレインが入っているカプセルの前で、じっとレインのことを見つめている。
ハリーは危機を感じ、ハクの方に向かって炎の玉を飛ばした。
けれど、遅かった。
ガシャンッ!
炎の玉と共に、カプセルが切られた。
「「「物理!?」」」
これにはさすがのグレイシアたちやサンたちでさえも驚いたようだ。
全員、目が丸くなっている。
切られたカプセルの中から、大量の水と支えを失ったレインが崩れ落ちる。
倒れこんできたレインを受け止め、ハクは誰に言うでもなく言った。
「やはりか。サンたちの力がダメだった以上、もう物理しか道はないと推測していたが、どうやら読みは当たったようだな」
「一体、何を言って…」
ハリーの顔には、怒りと戸惑いが浮かんでいる。
ハクはレインを抱え、戦闘から離れた場所に飛び退いた。
「すまないな。あんな場所で、彼をそのままにはしておけなかった。とはいえ、勝ち逃げはしないから安心してくれ」
ハクはレインを下ろし、ハリーに向き直った。
「勝った方が、レインを連れて帰る。どうだ?白黒ハッキリついていいだろう?」
「…いいでしょう。全員まとめて、かかってきてください。返り討ちにしてあげますよっ!」
ハリーの口角が不自然に上がり、目が一瞬だけ赤く光った。
その瞬間
バリバリバリィ!!!
四方八方に雷が落ち、火や水の塊が不規則にハクを襲った。
「ハーくん!!!」
「ハク兄よけろ!危ねぇ!」
「…」
ハクはゆっくりとした動きで刀を抜いた…。
と思った瞬間にはもう、全ての攻撃を跳ね返していたのだ
「…え?」
「今…一体何が起こったんだい…?」
何が起こったのかを正確に見ていた者は、その場にはいない。
なぜなら、目視することさえもできなかったのだから。
「みんな、何を呆然としているんだ。避けきれない攻撃からの防御は私とクラウドでする。だから、何も心配せず戦いに集中してくれ」
ハクの強さを知っているグレイシアたちにとって、その言葉1つがあるかないかはかなり大きかった。
「お前言ったな!?じゃあ思いっきり行かせてもらうぜっ!行くぞサンダー!」
「行くぜー!」
デュネルとサンダーの突撃に続き、グレイシアたちも次々と再戦していく。
ハクの言葉かレインの無事のお陰か、全員の技の精度はかなり上がっていた。
心なしか、ハリーも戦闘を楽しんでいるかのように見える。
すさまじい数の攻撃が、ハリーやサンたちの間を飛び交っていた。
…一体どれくらいの時間が経ったのだろう。
レインは、静かに目を開いた。
視界のはしに、何か写っているような気がする。
明らかに、今まで見えていた景色とは違っていた。
(サンたちは…帰ってくれただろうか…)
ぼんやりと、そんなことを思う。
サンたちがこの神殿に来た時点で、オレにはその気配が伝わっていた。
そして、サンたちが危険な目に遭うということも分かっていた。
きっと、ハリーにサンたちは勝てない。
それを見越して、最後の力で雨言葉を送った。
けれど、中途半端に力が足りなくなって、途中で意識を失ってしまったのだ。
あんな中途半端な内容で、サンたちは言うことを聞いてくれたのだろうか。
(それにしても…ここは、一体…?)
身体を動かそうとしても、ほとんど動かない。
力が、ほとんど失われてしまっている。
なんとか辺りを見回そうとしたその時、急に視界の中に銀髪に右目を隠した青年が写った。
まだ視界がハッキリとしないせいで、彼の輪郭くらいしか分からない。
「目が覚めたか。よかった。どこか、具合が悪いところはないか?」
「ここ、は…?」
「この場所の正式名称は知らない。君はずっと、囚われていたんだ」
ハクの助けを借りてなんとか起き上がったレインは、目の前の光景を見て目を見開いた。
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