第5話 雨の声
「ハク〜!ウィンド!遅いよ〜!」
「すまない。待たせてしまったな。それで、何をするんだ?」
「まぁ見てなって!絶対みんな驚くぜ!」
「じゃあサン、始めて」
「はーい!じゃ、いくよー!」
サンは両手を空へ向かって突き出し、左腕はそのまま、右腕を自分の目の前に下ろした。
その瞬間
「…!」
「これは…すごいわね…」
「すごいなんてもんじゃないぞ…」
「雨が…やんで…」
「キレイだなぁ…」
「この子ら…マジで何者だよ…」
南に向かって一気に雨がやみ、空に光の道ができた。
「これでOK!あんまり長くは続かないと思うから、サーくん、ウィーくん、お願い!」
「っしゃぁ!やっとオレの出番が来たぜ!」
「ここまで大人数を運ぶなんて初めてだから、腕が鳴るね!」
「あのー、2人とも?くれぐれも安全にね?」
クラウドが心配そうな、呆れているような顔をしている。
「安全…。クラウド、2人のことを疑っている訳ではないのだが…」
「ハクさん…君、勘がいいんだね…」
「ということは…この悪い予感は…」
「多分、当たると思うよ…」
「分かった…。覚悟しておこう…」
ハクとクラウドが顔を見合わせ、苦笑いしていると…
「じゃあ、始めるね」
「覚悟しとけよ!」
「頼むから安全運転で!」
クラウドの祈りは、果たして届くのだろうか。
ウィンドは手を内側に向け、風の塊のようなものを作った。
サンダーがその風に触れ、少しずつ電気を流していく。
風の塊がバスケットボールほどの大きさになると、ウィンドはニヤリと笑ってからそれを地面に落とした。
ドォン!!!
とたんに凄まじい音がして、次の瞬間にはもう、ハクたちは空高くに吹き飛ばされていた。
「なっ…!」
「すごーい!空の上だぁ!」
「ひぃぃぃ…!たっ高いっ…!」
ランディが涙目でぎゅっと目を閉じる。
ランディは重度の高所恐怖症で、2階よりも高い場所では目を開けることすらもできなくなってしまうのだ。
怯えているランディの手を、ルオンはぎゅっと握って引き寄せた。
「ランディ、大丈夫大丈夫。ほら、手を繋いでるだろ?何も怖くないぜ」
「ル、ルオン様ぁ…!」
「ランディって高所恐怖症だったんだなぁ。知らなかったわ〜」
「ランディは重度の高所恐怖症でよ〜。ランディ、目、閉じとけよ〜」
「はいぃ…」
「サンちゃん、これからどうするの?」
「大丈夫だよ!クーくん!お願い!」
「分かってる。…ウィンド、サンダー、ホントに安全運転で頼むよ?」
「「分かってる分かってる!」」
「ふ、不安しかない…」
「クラウド、諦めて。2人は大ざっぱな性格。今は2人に頼むしかない」
「そんな夢も希望もないこと言わないでよ…」
そんなことを言いながら、クラウドは手を広げた。
その瞬間、クラウドの手から一気に大量の雲が出てきたのだ。
雲は船のような形になり、ハクたちを包み込むように乗せる。
「おっしゃ!超特急で行くぜー!!!」
「ぼくも負けないよ!」
「ウィンド!サンダー!頼むから安全運転でぇぇぇぁぁぁあああ!!!」
…どうやら、クラウドの祈りは届かなかったようだ。
ウィンドとサンダーは一気に力を放出し、雲の船は光の速さで目的地に到着した。
到着したのだが…
「「「うわあぁあぁぁ!!!」」」
あまりに勢いがつきすぎてしまい、船が止まった瞬間11人は船の外に投げ出されてしまった。
急なことで、サンたちは何もできない。
ハクが1番始めに、難なく着地したものの…
「うっ!ぐっ!ぐあぁ!!!」
あとから落ちてきた10人に、なす術もなく押し潰された。
「ハ、ハク!ごめんなさい!」
「ハク兄さん、大丈夫!?」
「ハーくーん!しっかりぃ!」
「うーん、やっぱり力加減難しいなー」
「雷に力加減とかあんのか?」
全員が口々にしゃべっていると、下から絞り出すようなかすれた声が響いた。
「は、話は後に…。早く…どいてくれ…」
「ごっごめんなさい!ハクさん、大丈夫!?」
「あぁ…。にしても…本当に今日は運が悪い…うぐっ…」
「おっ、おいハク!しっかり!?」
「ちょっとハク!ホントに大丈夫!?」
「うぅ…。大丈夫だ…。そんなことより、ついたのか?」
「そんなことってレベルじゃないでしょ!」
グレイシアの言葉に苦笑いしながら、ハクは辺りを見回した。
見渡す限りは白い砂浜と海が広がっていて、弱い雨が辺りを濡らしている。
「台風の中心って、雨とか風とかそんなに強くないんだね」
ピュートが空を見上げながら言った。
「そうだな。台風の中心は雨や風が弱く、時には晴れることもある。が、その中心から出てしまえばひどい暴風雨に見舞われてしまうからな。気を付けるんだぞ」
「「「はーい!」」」
「あのなぁ…」
「ふふっ。ハク、なんだか学校の先生みたいね」
「グレイシア…からかわないでくれ。私が教えられるのは、ありとあらゆる不運から逃れる方法だけだぞ」
「それはそれで教えてくれよ。オレ、めちゃくちゃ気になるんだけど」
「デュネルは大丈夫だろう。大抵のことは気合いがどうとか言ってるイメージがある」
「お前の中のオレ、いくらなんでも脳筋すぎんだろ!」
「君がいつも気合いで物事を乗り越えているからだろう。毒を盛られてもまだ動こうとしていた時には、さすがにこちらも怒ったぞ」
「んなこと言われたってなぁ。それがオレの性格なんだ。仕方ねぇだろ?」
「もっと自分の身体を大事にしてくれ」
「その言葉、そっくりそのままお前に返すぜ。いっつも一週間徹夜してフラフラになってんだからよ」
「うぐっ…。さて、そんなことはさておき…本当にこの場所で合っているのか?」
「おい、話そらすなよ」
「でも確かにハクの言うとおり、見渡し限りはなんもないなぁ」
「え?あるよ。ルーくん、上を見てみなよ!」
「へ?上?上にはなんも…」
そうは言ったものの、よくよく目を凝らすと遠くの空に何か見えるような気がする。
「ほら、あそこだよ。ルオンさん」
「…もしかして、空の上にあるというの?」
「そうだぜ!ここからじゃちょっと見えにくいけどな!」
「…1つだけ、思ったことを言ってもいいか?」
「なに?なんでも言って」
「ここで下りず、そのまま上に行けば良かったのではないか?」
「「「…あ」」」
ハクの冷静なツッコミに、5人の空彩者が顔を見合わせた。
「「「確かに!」」」
「あのなぁ…」
ハクが手で顔を覆ったのは、言わないでおこう。
なんやかんやあり、11人はやっと目的地にたどり着いた。
「すげぇなぁ…まるで神殿みたいだぜ」
デュネルは感心したように周囲を見回している。
「うん…間違いないね。ここに、レインがいる」
暗い通路が、サンが灯した光で照らされる。
「でも、レーくんの気配がちょっとずつ弱くなってる…。早く、早くレーくんを見つけないと…!」
「まぁ焦るな。大丈夫。レインは無事だ」
焦るサンの頭を、ハクは優しく撫でた。
「ハーくん…。ハーくんは、どうしてそんなに落ち着いていられるの?」
「私も、人生何もなかった訳ではないからな。こういう時に焦ると、大抵ろくなことがない。落ち着いて、冷静に物事を受け止めなければ」
「ハク…お前、人生何周目だよ…」
ルオンが尊敬半分、呆れ半分といった顔でハクを見つめる。
そんな視線を完全スルーして、ハクは落ち着いた声で言った。
「全員、焦りすぎないこと。精神が不安定だと、戦いの時にも影響が出てきてしまうからな。不安に押し負かされるな。常に希望を追え。いいな?」
「わ…分かりました…」
全員が目を丸くしているのに気がつかないフリをして、ハクは前を向いた。
と、その時
ポツッ、ポツッ
「わ!冷た!」
「雨…?どうして、こんな室内に…」
「…!この雨、ちょっとだけレインの力感じるぞっ!」
天井に向かって手を伸ばしながら、サンダーが叫んだ。
「これはっ…!レインの雨言葉…!サン!光を消すんだ!」
「分かってる!」
サンが光を消した瞬間、辺りが暗くなると共に少年のか細い声が静かに響いた。
『サン、クラウド、ウィンド…サンダー…スノウ…頼む。ここから、出ていってくれ…』
「レーくん!レーくんだよねっ!?どこにいるの!?」
『頼むから…オレは、大丈夫だから…。早く、ここか、ら』
まるで通信が途切れるかのように、少年の声が聞こえなくなった。
「レーくん、レーくんっ!」
「サン、落ち着いて。雨言葉が途切れた。レインに何かあった証拠。多分、意識がなくなったんだと思う」
「早く、早く探しに行かなくちゃ!」
パニックになりかけているサンをぎゅっと抱き締め、スノウはクラウドたちと顔を見合わせ頷きあった。
「ハク、君たちはここに」
「残れってんのか?」
「おいおい、今さらそれはないだろ〜」
ルオンとデュネルが、不敵に笑う。
「ここまで来たのにこんな中途半端なところでお別れなんて、ちょっとひどいわよ?」
「ぼくらは、レイン様を助けると言いました」
「今さら引き返すなんて、もうありえないよ!」
「グレイシアさん、ルオンさん…!」
「ランディ、ピュート…。ありがとな!」
「ほら、ハクも何か言ってあげたら?」
グレイシアにつつかれ、ハクはこちらの方を向いた。
その顔には、特別な表情は何もない。
ただ…彼がサンたちに向ける瞳はとても優しく、落ち着いていた。
「そうだな…。前の5人に言うことは全て奪われたからな…。どうしたものか」
「「「それはごめんって」」」
「まぁ、大層なことは何も言えないが…乗りかかった船だ。今さら下りる気は微塵もない。私がこの船を下りるのは、この件が片付いてからだ。何があろうとも、最後までいさせてもらう。…こんな感じでいいのか?」
「くっそー!!!ムダにかっこいいのなんなんだよマジで!」
「これを無自覚で言ってるのが腹立つぜ!おいデュネル!この件が片付いたら2人でハク倒そうぜ!」
「賛成!同盟成立だぜ!」
「…なにやら、一瞬にして厄介な同盟が組まれたのだが」
「いやー、今のは完全にハーくんが悪いよ」
「あんなにカッコいいこと、どうやったら無自覚で言えるんだい?教えてほしいくらいだよ」
「えぇ…これは私が悪いのか…?」
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