終末世界をチートで生きる私の日常

権汰

今日までの私



『……は?』


携帯片手に呆然と立ち尽くす私


感じた事のない喪失感……と怒り


頭を過ぎるのはさっきまで愛し合っていた

婚約者の顔


「…な、おい!何勝手に見てんだよッ!」


シャワーを浴びて戻ってきた婚約者に

携帯を取られ突き飛ばされる


「あ"ーマジ気分わりぃ…」

『…気分悪いのこっちなんですけど?』


体勢を直しソファに座り婚約者を睨み言う

『それ…どう説明してくれんの?』


恨めしく感じる携帯を指差し

見てしまった内容を問う


本当はもっと大きな声で怒りたいし

泣きたいが見た事が事実なら

負けた様でムカつくから怒りも泣きも

我慢しようと心に決め、ただただ耐える。


「いや、これは…その」


しどろもどろしてる婚約者を見てたら

ふと今までの記憶が頭をよぎった



私、宮野満みやのみちるは不動産王と呼ばれる父

……の愛人の娘で

このタワマン最上階を与えられ

10歳から一人で暮らし

たまに来るお手伝いさんに家事の仕方を学び

今日まで減りもしないお小遣いを

眺めながら過ごしていた。


たまたま出来た子供で自分には愛する妻と子供達がいるからお前はいらないんだと

昔から言われ続け、早いうちから愛される事に諦めはついていた。


だからこそ自分の家族を作る憧れは

人一倍あったと思う。


この婚約者に出会ったのは

憧れを強く抱いていた、そんな時だった。


親友の茉耶まやからの紹介で知り合い

恋に落ち、付き合って3年…

つい先日プロポーズをされて婚約者になったのだが

さっき見たのが事実なら

どこに怒りを向ければいいか…


「じょ、冗談に決まってるだろ?」

目を泳がせながらやっと口を開いたかと思えば

馬鹿みたいな言い訳を言う婚約者、大地だいち


『結婚してこの家とお金を貰う…そんな計画が冗談?』

そう、さっき見てたのは茉耶とのチャット


そこにはもうすぐ手に入るね、という言葉から

始まり…ここまでどう頑張ったか二人語り合っていた


『とりあえず頭冷やしたいから…出てってくれる?』


「ち、ちがうッ!本当に冗談なんだって!!」


必死に弁明を始めた大地にもう一度言う


『出てってって言ってるの、聞こえない?』


ちゃんと話し合おうと言われたが

後日ね、と一先ず出て行かせ

再びソファに深く座り気分を落ち着かせる


…が、全然落ち着かない。


(とりあえず茉耶と大地とは縁を切ろ……落ち着くのはそれからね)


―prr.prr.prr.prr…はあい?どした〜


まだ大地から聞いてないであろう態度に

一瞬殺意が湧いた


『3年間お疲れ様』

―え?


『茉耶と大地のチャット、見たよ。長い計画お疲れ様。』

―っ…ちょっ、ちょっと待ってよ!何の話!?


『シラを切っても無駄。私は知っちゃったし、茉耶達の計画に乗る気もないの』

―………はぁ、あの馬鹿


溜息から始まった罵詈雑言


―ほんとお前うざい。なんなのブスのくせに。その家とお金の持ち主がいらないって捨てたんだから私にくれても良くない?3年間だけでも私のお陰で幸せだったでしょ?少し分けてよ。


『もうないよ?大地が持って行ったから』

(嘘だけど)


―え、大地が?よっしゃ!ありがとう満♡!もうあんたいらないわ♪


『……はぁ、もう金輪際関わらないでよ?』


―もちろん!その家は残念だけどお金あればを育てるのにも充分だし?


『は……こども?』

―あれ?これもバレてるのかと思ってた♪


(呆れてものも言えないってこういう事か……)


『まぁいいや、それじゃお幸せにね?』

―うん!ありが『これ以上』


―え?

『乞食の様に人に集るのはやめてよ?乞食でもちゃんと身綺麗にすれば働けるんだから』

―はぁ!?私が乞食!?しかも汚いって!?


他にも何か言っていたが

無視して電話を切った


ソファに身を沈めていくと

ふと涙が流れている事に気づいた


(好きだったのよ…本当に…。)


どこが好きだったか、言葉で説明は

出来ないけれど

それでも本当に、ちゃんと…好きだったのだ。


『ふっ…ぐすっ……』

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