放課後の探偵〜古都の迷宮事件:高校生探偵と見えざる犯人

兒嶌柳大郎

第1話 古都の夏、密室の報せ

夏の京都は、うだるような暑さに包まれていた。

一ノ瀬莉子は、母方の実家があるこの地で、いつもの夏休みを過ごしていた。

京都市内の祖母の家は、古い町家造りで、庭に面した縁側からは、手入れの行き届いた苔庭が見える。

蝉時雨が降り注ぐ中、莉子は冷たい麦茶を傍らに、愛読するミステリー小説の世界に没頭していた。


「りこちゃん、またそんな難しい本読んでるの?」


祖母の澄んだ声が、静寂を破った。莉子は顔を上げ、微笑む。


「うん、面白いんだ。このトリック、どうやって解くんだろうって」


莉子の好奇心は、常に謎に向けられていた。

特に、一見不可能に見える密室殺人や、完璧なアリバイを持つ犯人の心理を読み解くことに、この上ない喜びを感じるのだ。

東京にいる親友の佐伯航汰からは、「莉子は本当に変わってるよな」と呆れられることもあったが、それが莉子の個性だった。


その日の夕食時、テレビのニュース速報が、莉子の耳に飛び込んできた。


「速報です。本日未明、京都市上京区にある老舗和菓子店『京菓庵 杉村』の若旦那、杉村宗一郎氏(35)が、自宅の離れで遺体となって発見されました。現場は密室状態であったと見られ、警察は殺人事件として捜査を開始しました」


箸を持つ手が止まった。

老舗和菓子店。

密室。

殺人。

莉子の胸が高鳴る。

これは、小説の中だけの出来事ではない。

現実で、今、目の前で起こっている事件なのだ。


食後、自室に戻った莉子のスマートフォンが震えた。

画面には「父」の文字。


「もしもし、お父さん?」


「莉子か。今ニュース見たか?」


父、一ノ瀬孝太郎の声は、いつになく真剣だった。


「うん、見たよ。杉村さんの事件だよね」


「ああ。京都府警の神崎っていう刑事から連絡があったんだ。どうにも捜査が行き詰まってるらしくてな。お前のこと、少し話したら、一度会ってみたいって」


莉子の心臓が、ドクンと大きく鳴った。

まさか、自分が事件に関わることになるなんて。


「私に、ですか?」


「ああ。お前、密室トリックとか好きだったろ? まあ、無理にとは言わないが、もし興味があるなら、一度話を聞いてみてもいいんじゃないか」


父の言葉は、莉子の背中をそっと押した。

ミステリー小説のページをめくるように、現実の謎に挑む。

その誘惑に、莉子は抗えなかった。


「分かった。会ってみる」


莉子の返事に、父は少し安堵したようだった。

電話を切った後、莉子は窓の外に広がる京都の夜景を見つめた。

古都の静寂の中に、今、一つの大きな謎が潜んでいる。

そして、その謎を解き明かすのは、高校生の自分かもしれない。


翌朝、莉子は神崎刑事と会うため、指定された場所へと向かった。

古都の迷宮の扉が、今、静かに開かれようとしていた。

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