第16話 そんなに一緒がいいんだ

「よーし、じゃあ文化祭の実行委員決めるぞ~」


 席替え騒動が落ち着いた後、担任が今一度話し始める。

 うちの高校では文化祭が九月中旬にある。実行委員は、まあ体の良い雑用である。やりたい奴なんているわけもなく。定番のくじ引きが決行される。


「涼音は実行委員やるのか?」

「いやー、部活忙しいし、また成績下がったらヤバいから、あんまかも。あと普通にめんどい」

「だよなー」


 ただでさえ部活で忙しい俺らにとって実行委員はかなり負担が重い。涼音もできることなら避けたいという意思は同じなようだ。


 先程のように教卓の前に行く。まあ大体、30分の1だ。確率で言うと3%だ。前の人がくじを戻さないから厳密に言えば違うんだけど。なんにせよ高確率で外れる。当たるわけない。ない……よね?


 くじを引く。割り箸の先が赤い。――当たりだ。いや、俺からすればハズレの方。なんでやねん。


「げっ……」


 どうやら先ほどの席替えで俺の運は尽きたらしい。うわー、めんどくせー。まあでもここで駄々こねるなんて見っともないことするわけにもいかない。はぁ、やるしかないか。


「男子であたった人はー?」

「……はい」


 認めたくない現実を確認されて、声色が悪くなる。ほんとにすまん。無意識だ。でも、これくらいは許してほしい。


「女子は〜?」

「は~い」


 ここ数ヶ月で聞き馴染みになった声が聞こえる。右隣を見ると、亜麻色の髪が今日も美しくなびいた天城が控えめに手を挙げていた。

 これは俺からしてもラッキーだ。実行委員は二人で作業する時間も多いので、きちんと仲の良い人でよかった。


「いや~。よかったよ、日向くんで。他の人だと、ちょっと……ね?」

「あー、お察しします」


 学年一の美少女さんからすれば俺は当たりの部類なのだろう。気心知れていて、自分の幼馴染にぞっこんな男だから、万が一にも自分に言い寄ってくることもない。

 先ほどのとおり、二人で作業することも多くなる。だから身に危険を感じるのは当然だ。自意識過剰などではなく、実際にこういった危機感を持っていないといけなかったのだろう。


「こ、琴花さん、もしよければ替りましょうか? なんて」

「ダメだよ、すーちゃん。また忙しくして成績悪くなったらどうすんの?」

「ごもっともです」


 なんだかしょげていて悔しそうな涼音がいた。実際、彼女は部活の多忙で成績を落としたことがあったから何も言えないのだろう。

 そんなことを考えていたら、つい10分ほど前に見た光景が広がってデジャヴを感じた。


「おい、ずるいぞ! 日向!」

「もういいって、そのくだり」

「いいわけあるか! お前だけずるいぞ! 替れって!」

「少なくともお前らとは替らん!」

「なんでだよ! さっきまで嫌そうだっただろ!」

「事情が変わったんだよ、事情が」


 実際、ここで誰かと変わるのは心象が良くない。天城が人畜無害な俺とペアになって安心しているのであれば誰かと変わるのは迷惑だろう。それは、駄目だ。天城は涼音の大切な幼馴染。それに、涼音との関係を後押ししてくれる恩人だ。恩は返さなければ。


「そんなに琴花と一緒がいいんだ……」

「そ、そうじゃないって……」

「ふーん……」

「なんだなんだ痴話喧嘩か?」

「いいぞ、夏原、やっちまえ!」


 てんやわんや。……これもうさっきやったよな? 再び収拾がつかなくなった教室を放置して、担任は形式上のホームルームを終えるとさっさと退室。絶対、面白がってほっといただろ。

 結局、今回も辰也と天城が場を鎮めた。ただ、先ほどと違うのは――やや不機嫌な涼音の溜飲を下げる役割が、俺に回ってきたことだった。






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