第7話
教室の窓際。午後の光が差し込む中で、私はぼんやりと空を眺めていた。
授業の内容なんて、頭に入ってこない。
黒板の字も、先生の声も、クラスメイトの笑い声も、遠い場所の音みたいだった。
代わりに、**“ある顔”**が何度も脳裏に浮かんでくる。
ララの笑顔。
そして、タクマの笑顔。
(ララ……は、私の親友……だよね?)
考えた瞬間、ズキンと頭の奥が痛んだ。
同時に、あの“写真”が浮かぶ。
手をつないで歩く私と、男の子。
楽しそうに笑っている、私と――タクマ。
そのはずなのに。
(……いや、違う……あれは……)
その“記憶”は、たしかに脳に焼きついているのに、どこか違和感がある。
それでも、疑う余地がなくなるくらい、はっきりとした映像。
私とタクマが、手をつないでいた。
私とタクマが、映画を観ていた。
私とタクマが、カラオケで笑っていた。
(ちがう、ちがう……私が手をつないでたのは、ララ……)
けれど、そう言いかけると――
「……あれ? ララと……そんなこと、したっけ……?」
ついに、口に出した自分の言葉に、自分自身が凍りついた。
*
放課後、廊下を歩いていると、誰かが手を振るのが見えた。
「おーい、サナちゃん!」
タクマだった。
その声に、心臓がドクンと跳ねた。
嫌悪、怒り、恐怖……そのはずなのに、なぜか胸がざわつく。
「ちょっと、顔貸してくれない?」
「……なんの、用?」
「んー……ただの確認? ほら、君の中にどれくらい“俺との思い出”が浸透してきたかなーって」
冗談めかして笑うタクマに、背筋がぞわっとする。
「……ふざけないで」
「ふざけてないよ。だってさ――」
そう言って、タクマはスマホを取り出した。
「この前、君が“俺と観に行った”映画、覚えてる?」
「……だから、それは……」
「ほら、ポップコーン食べてたじゃん。こぼして、俺が拾って、君が笑って」
「……っ……」
その“記憶”は、あまりにもリアルだった。
匂いまで、思い出せる気がした。
(……でも、なんで……ララの顔が、思い出せないの?)
あんなに一緒に笑ってたのに、
あんなに大事だったはずなのに、
どうして――
「――もう、どっちが本当か、わかんない……っ」
気づけば、涙が頬を伝っていた。
「うんうん、いい感じ。そろそろ“君”ができあがってきたかなぁ」
タクマは、にこりと笑うと、スマホ画面を軽くタップした。
「……なに、それ?」
「ん? ああ、これ? “好感度パラメーター”ってやつ」
ふざけたような口調。けれどその指先は、とても冷たい。
「今まではね、ロックかかってて君のはいじれなかったんだよね。でもさ、今なら――」
ピッ、と音がした。
タクマが何かを操作する。
「……ほら、ちょっとだけなら“上げられる”ようになったんだ」
「は……?」
「サナちゃんさ、俺に会うとちょっとだけ胸がドキッとするでしょ? それね、“パラメーター31”って状態。さっきのタップで“42”まで上げといた。どんな気分?」
その瞬間――。
なにかが、内側からじわりと変わっていくのがわかった。
嫌悪していたはずのタクマの声が、なぜか心地よく響く。
視線が、妙に優しく感じる。
そして、彼の言葉を信じてみたくなる。
(……まさか、こんなの……)
混乱した頭では、否定する言葉が出てこなかった。
怖くて、悔しくて、涙が止まらないのに、
それなのに――タクマの笑顔に、少しだけ安心している自分がいる。
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