第31話 その笑顔に圧はないとでも?


「アキちゃん、大丈夫?」

「大丈夫です。」

「そうは見えないんだけど……」

「しつこいですよ」



アキはウィルから渡された氷嚢を目に当てながら、カインと一緒に王宮の回廊を歩いていた。


ウィルは、会った瞬間直ぐに氷嚢を用意してくれ「無理しなくて良いよ」と言ってくれた。

でも「お給金欲しいので」とキッチリ仕事(雑談)を済ませて今に至る。


特に深く聞かないでくれたウィルは、さすが察し能力の塊だ。この国の皇太子ができる男で良かった。


カインもカインで、見た目通りの優男らしく、変に事情を聞く事は無かった。

……しつこいけど。


ーーーここは小説の世界。

やはりアレンとミアは不思議な力で惹かれ合う運命なのだ。

……だったら、自分がその運命を壊してやれば良い。

こんな事でへこたれてる場合ではないのだ。



「この後仕事もないし、気分転換に街でもブラブラする?」

「え?奢りなら行きますけど」

「! あはは!面白いねアキちゃん」



「俺にそんな事言う子、初めてだよ」と笑うカイン。

が、次の瞬間、その笑顔は凍りついた。



「ーーー確かに面白そうですね?その話」



冷たく、低い声が背中から響いた。

決して面白そうと思ってないその声は、聞き間違えようもなくアレンだった。

驚いて振り返ると、真正面からアレンと目が合ってしまった。



「ーーーっ」



目を見開き、固まるアレン。

その顔は、酷く動揺していた。

なぜそんな表情になるのかと思い……ようやく、自分の腫れた目元を見られていることに気付き、アキは咄嗟に顔を背けた。


(ーーーいや、ダメだ。せっかく決心したんだから)



「っ団長、少し、お話が……」



そう言った瞬間、ガシリと肩を掴まれた。



「うぇっ…」

「ーーー丁度いい。“私”も君に用事があるんだ。……デートを邪魔するようで申し訳ないが、この女性を連れて行っても良いかな?」



カインに対し、ニコリと笑い「紳士」に聞くアレン。

ーーーだが、その目は据わっていた。


(………圧)


低くドスの効いた声で言われたカインは、あっさりと「あ、どうぞ」と了承した。

逃げたなこの野郎。


チラリと横目で見たミアは、泣きそうな顔で……でも、その奥に悔しそうな表情も浮かべていた。


(……そうだよね。でも、ごめんは言わないよ)


せっかく作れたチャンスなのだ。

掴まれた肩はちょっと痛いけど、そのくらい我慢してでも、今ここで自分の想いをぶつけてやらなければ。



「では、少し散歩でもしよう。……すまない。そちらの姫君を厳重に警護してくれるかな」

「あ、了解です」



見事な敬礼をしたカインを尻目に、アレンはアキの手を引いて歩き出す。

アキも一つ息を吐くと、覚悟を決めてその背に付いていく。


もう、覚悟を決めるしかない。フラれたら、ウィルに言って王宮で働かせてもらお。

タダで転ぶ気はない。アキはそう心に決めると、静かに拳を握るのであった。

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