第11話 推しに呼び出されました。終わったかもしれません

この日もアキはアレンの存在に神経を尖らせつつ、完璧に業務をこなしていた。


日ごと濃くなる推しの気配に、アキは「歓喜」よりも「恐怖」を抱いていた。


(マジで、辞めさせられるのだけは勘弁…)


この数日の奇行は、確実にアキを騎士団から追い出すための「ネタ」探しをしているに違いなかった。


女嫌いな帝国一の騎士団長が「女だから辞めてくれ」とは言えない。

だから、こうして私が「ミス」する瞬間を狙っているのだ。


あの目は、つまりそういう目だ。

何かを狩る者の目。



「……絶対、ヘマだけはしないようにしなきゃ…」



そもそも、目に入らないように避けないと。なのに。




(……うわ、今日もいる)



最近昼ご飯になると、必ず団員と共に食堂でご飯を食べているのだ。しかも、チラチラこちらを見ている。


つい先日なら「推しを観察できてラッキー!」とか「推しがこっち見た!死ねる」と思っただろうが、今は違う。

こっち見ないで欲しい。


だが、ここで炊飯業務を放棄すれば相手の思う壺だ。

隙を見せてはならない。


できるだけ彼の視野に入らずに「空気」に徹することで乗り切るしかない。


おかわりに近付いて来ても、ナチュラルにヴォルトに配膳係をタッチし、自分は食器の片付けに回る。

その瞬間、明らかにアレンの視線が鋭くなるが、飽くまで気付かない振りで食器と共に台所へ逃げ込んだ。



「……本当、何だっつーの……」



扉を閉めると同時にボヤく。

推しに追いかけられるという最高のシチュエーションのはずなのに、内容が内容なだけに地獄だ。


実際、ここ数日神経を張りすぎて胃がキリキリしていた。



(このままだと…今度はストレスで早死にするわ)



アキが大きなため息を吐き、食器を置いた瞬間だった。



「……おい」

「ーーーひっ!?」



ガチャリと音を立てて入って来たのは、まさかのアレンハルト本人。

アキは思わず悲鳴を上げてしまった。



「……ひ?」

「あっ…や、何でしょう、団長?」



眉を顰め、思いっきり不機嫌そうな表情でこちらを見てくるアレン。

ーーーヤバい。遂に直接対決に来たのだろうか!?


アレンは暫くアキを見つめ、そしてため息を吐いて「ついて来い」とだけ言って踵を返した。



(……嫌なんですけど)



どう考えても、碌なことはない。

このまま付いて行ったら、何かが起きそうな気がしてしまう。


(……もちろん悪い意味で)



しかし、一端の雑用係に拒否権はない。

アキはため息を吐くと、重すぎる足を引きずって嫌々アレンの後を追うのであった。

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