第38話 伝説の幕開け、語り部の歌
謙信の死後、越後には「越後の龍」の伝説が語り継がれていく。
しかし、その輝かしい伝説の裏には、名を失った一人の姫と、
人となった神の、秘められた愛の物語が隠されていた。
謙信の死から
数年の月日が流れた
越後の地には
彼の「義」の精神が深く根付き
民は
平和な日々を送っていた
春日山城の城下町は
活気に満ち溢れ
人々の笑顔が
そこかしこで見られた
しかし
謙信の突然の死は
いまだ
人々の心に
深い喪失感を残していた
彼の「義」は
越後を救ったが
彼自身の死は
多くの謎を残したままだった
謙信の死後
越後には
「越後の龍」の伝説が
語り継がれていくようになった
彼の武勇と「義」は
民衆の心に深く刻まれ
やがて彼は
神格化されていった
人々は
謙信を
毘沙門天の化身として
崇め
その偉業を
語り継いだ
しかし
その輝かしい伝説の裏には
名を失った一人の姫と
人となった神の
秘められた愛の物語が
隠されていた
その真実を知る者は
ごくわずかだった
直江兼続は
謙信の死後も
彼の遺志を継ぎ
越後の政務に
尽力していた
彼は
謙信の「義」の理念を
忠実に守り
民の安寧を
第一に考えた
兼続の働きにより
越後は
謙信の死後も
安定した治世が続いていた
兼続は
謙信の最後の言葉を
心に深く刻んでいた
「義は…
己で…」
その言葉は
兼続の「義」の根源となり
彼を突き動かしていた
彼は
謙信の「義」が
もはや
謙信一人だけのものではないことを理解していた
それは
綾姫の願い
そして
兼続自身の使命へと
確かに繋がれていたのだ
静は
謙信の死後も
彼の傍らを離れなかった
彼女は
謙信の遺志を
何とかして
後世に伝える方法はないかと
模索していた
彼女の心には
綾姫の最後の願いが
強く響いている
「この犠牲が、あなたを縛る鎖であってはならない…!」
姫は
謙信が自由であること
そして
彼自身の意志で
「義」を貫くことを願っていた
静は
謙信の寝所で
綾姫が残した詩歌の断片を
繰り返し読み返していた
「御胸の白雪、幾夜に積もらば
安らかに 民の寝息が 降る世こそ
私が見たき 春の夢なれ」
この詩こそが
謙信の「義」の根源であり
彼が真に願ったことなのだと
静は確信していた
静の心には
絶望の淵に沈んでいたが
その中に
かすかな使命感が
芽生え始めていた
彼女は
姫の詩歌を
後世に伝えること
それが
自分の残された
唯一の務めだと感じた
彼女は
自らの筆で
綾姫の詩歌と
謙信の物語を
記し始めた
それは
歴史には記されない
もう一つの物語
「声なき歴史を記す語り部」としての
彼女の新たな旅路の始まりだった
越後の里では
謙信の伝説が
語り継がれていく一方で
密かに
「雪に咲く白椿」と
「影姫と毘沙門の契り」の物語が
口承されていった
それは
歴史の表舞台には
決して現れない物語
しかし
人々の心には
深く刻み込まれていく物語だった
里の老巫女が
雪の降る夜に
子供たちを集め
その物語を語り始めた
老巫女の声は
優しく
しかし
どこか神秘的だった
子供たちは
目を輝かせながら
老巫女の語りに
耳を傾けていた
老巫女と娘巫女の会話
老巫女:「雪の降る夜には、聞こえるんだよ、遠い昔の歌が。白椿が咲くたびに、誰かの願いが、また一つ、この世に生まれるんだ。」
娘巫女:「どうして、そんな歌が残っているの?誰も覚えていないはずなのに…。」
老巫女:「さあね。けれど、それは、心に響くから残るのさ。名なき祈りが、魂に宿っているからね。」
その物語は
静かに
しかし確実に
越後の民の間に
広まっていった
人々は
謙信の偉業を称えながらも
その裏に隠された
秘められた愛の物語に
心を奪われた
それは
「記録されない愛」
「記憶から消される愛」
しかし
人から人へと
口承によって
手渡されていく
より強靭な物語だった
白椋の木が
雪の中で
静かに佇んでいる
その姿は
名もなき祈りを
天へと捧げているかのようだった
謙信の「義」の光は
消えることなく
越後の地を
照らし続けるだろう
彼の死は
越後のみならず
日本の歴史を
大きく変えることになるだろう
夜明け前の空は
まだ暗い
しかし
その暗闇の中に
謙信の「義」の光が
確かに輝き始めていた
それは
遥か未来へと続く
希望の光だった
そして
その光は
やがて
この乱世を
照らすことになるだろう
春日山城の庭の白椿が
雪の中で
ひっそりと咲き誇っている
その白い花びらは
綾姫の魂の輝きのようだった
その輝きは
謙信の遺志と共に
永遠に
越後の地に
生き続けるだろう
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