緩断の管理者 ~放棄された信仰を緩やかに断つ使命について~

天西 照実

プロローグ


 きっと色んな存在と、すれ違っている。

 でも駅の中では、目移りしていたら迷子になるから。

 案内表示を探して、行きたい場所を見付ける事で精一杯。

 スーツケースが人にぶつからないように、気を付けないと。

 周りの大人たちよりも小さいし……大人になれば、もっと視野は広くなるはずなんだ。


「……ふぅ。あぁ、やっと外の空気だ」


 駅前のロータリーに出ると、とりあえず一息つけるでしょ。

 そこで、行き交う人々に目を向けてみる。


 都会と違って、そんなに人が多いわけじゃないけど、少なくはない。

 雑多に行き交う人々と……そこに混ざる人型のもや、黒い浮遊物、カラフルなニョロニョロ。

 幽霊や魔物、思念体。たぶん、神聖な存在も。

 互いに干渉する事なく、ただ通り過ぎていく。

 通行人には、生きた人間以外の姿は見えていないだろう。

 それが普通。

 だけど、時間をかけて眺めていれば、人型の靄を避けて歩く人を見付ける事もできる。

 この地域には、そういう人が多いらしい。


 僕も、そのひとり。


 白い雲が転々と流れる青空。

 街の周りは山に囲まれ、高台からは海も見える。

 昔からある田舎町が、少しずつ人口を増やしている地域だ。

 新しく来た人たちは、この辺りが特殊な場所なんて知らないのだろう。


『タクシー乗り場の奥に見える、古い桜の木』


 聞いていた通りの場所で、着物姿の曾祖母そうそぼが手を振っている。

 久々に会う曾祖母に、僕も大きく手を振り返したいところだが、我慢しなくてはいけない。

 駅まで迎えに来てくれた曾祖母もすでに、この世の人ではないのだ。



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