釣り出し成功
「………アァ、気に入らん臭いがすると思ったら」
「よう、仕える物も縋る物も失ったのに何で生きてんだお前ら?」
『ッッッ!!! シネェェッッッ!!!!』
「死なんよ、お前らが一番知ってるだろ?」
釣り出し作戦開始から三日目。
深夜の誰も活動していない大通りのど真ん中、失った武器の代わりに注文していた武器を受け取りにタンナが行って一人になったタイミング。
月の光が雲によって遮られて、ぬるい暗闇が訪れたその瞬間に歩いている後方から相変わらずの耳障りな声が聞こえて来て、振り返ってみれば鼻を摘まんで目を覆いたくなるようなクソッタレな魔族がそこにいた。
軽く煽ってやれば油に火を点けたかのように、一気に激情で顔を染め上げて理性を溶かしたように叫びながら俺へ向かって飛び掛かってくる。
こざかしく全身を覆い隠すローブにナイフなんていう目立たない装備で、種族的な特徴の角と爪を徹底的に隠しているその姿を投げ捨てながら、怒りと殺意ばかりの眼と声で殺すための攻撃を仕掛けてくる。
当然ながら俺はそれを回避するための身体能力を持っていないし、受け止めてカウンターを行うための実力も装備もない。なので真正面から受け止めて、顔面を貫かれたり心臓を抉り取られたりする。
まぁ、死なないんだがな。
というか、相変わらず沸点が低いな。俺を見ただけで取り繕っていたものを投げ捨て始めるし、話し掛けただけで激情に染まって飛び掛かってくるし。
魔王討伐前も大概だったが魔王が死んでからは余計に酷くなった……考えていれば基本的に本能で動くばかりの奴らだから、統率されなければ感情を抑制したり出来ないのだろうかね。もっと言えば俺は魔王の怨嗟を受けている訳だし。
『シネッ! シネッ!! シネェェッッッ!!!!』
「うーん、どうしたものか」
魔族の攻撃を受けて、肉体を弾けさせたり血を撒き散らしながら思案する。
釣り出しが成功できたのは御の字ではあるのだが、問題として魔族を殺すための要因が到着出来ていないということ。二日も経てば誰かしらは到着していると思っていたんだが、残念ながら出発したという連絡のみで誰も到着していない。
幹部相当じゃない木っ端の魔族だからそこまで脅威という訳でもないから絶対に必要という訳じゃなさそうなんだが、無駄な犠牲とか被害を出さないことを考えるとやはり必要な部類になってく。
切り札を切る程ではないけどな。
まぁ、疲労させればタンナでも殺せるか? どのみち攻撃がタンナに当たることはまず起こり得ないんだし、攻撃が当たるようになるまで疲れさせれば何とかなるか?
「さてはて、お前はどのくらい持つのかね」
『!!!!!!!!!!!!!!!!』
「……早くないか? その状態になるの」
相変わらず顔色の変化が凄いな。青と黒を混ぜ合わせたぐらいの色だったのに、熟れたトマトとかリンゴみたいに真っ赤だぞこれ。
やっぱ人間じゃねぇや、こんな面白い生態の人間なんて……いや居たわ。赤どころか緑とか黄色とか虹色とかになる奴が居たわ。何処で何してんだろ、サーカスの一団に拾われたから楽しく生きてるとは思うんだけど。
「……手出ししてええんか?」
「ん? あぁ、問題ないぞ。無理とか無茶だけはしないようにな」
「いや、自分が……まぁ、言うてもしゃあないか。巻き込まれへんようにな、ウチも出来る限り気を付けるけど」
「あぁ、大丈夫だから気にしなくていいぞ」
「ほなら、やるでな」
「おう、任せた」
『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「
「
「……ほう」
中々に珍しいのを使ってるな。
***************
タンナの持つ二振りの曲刀が光を帯びる。
一振りは赤、もう一振りは緑、それぞれがそれぞれの色をその刀身に纏わせていく。
魔法の一種のエンチャント、その中でも珍しく使い手が少ないとされている
「どないしたらええ?」
「首やらを落としたところで無駄だ、胴体を切って血を流させていけ」
「了解や」
『!!!! !!!!!!!』
「無駄だ。殺すなら俺を殺してからにしろ、殺せるものならな敗残兵」
『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
魔族の殺し方を教えられればそれが一番なんだが、残念ながら俺はその手段というか手順を知らないので弱らせるための指示をタンナに出す。
対して目の前で荒れ狂っている魔族はというと、タンナの存在を認知してそちらに攻撃を飛ばそうとしたので割り込みながら適当に言葉を放り投げる。
さて、これで俺の役目は完遂出来るはずだ。
此処からいきなり魔族が大規模な殲滅魔法を使ったところで、俺はその被害の全てを受け止めるだけの手段を持っているしな。
想定外なことがあるとすれば、魂だの何だのに干渉して妙なことをされた場合だ。殺した人間の魂を全部レイスに変えてそれを無差別に放流するとかな。実体がある相手ならば多対一だったとしても立ち向かえるし役目を完遂出来るんだが、実体がないレイスとかの場合はヘイトを集められないから完遂出来ん。
だからこの場合で最悪なのはレイス系の存在を大量に生み出されることと………あぁ、あと殆どありえない話だが死者の再誕をされるのも不味い。特にやっていた行いから繋がって、魂ごと滅ぼした奴を再誕させられた場合は誰が来たとしても絶望に近い。勇者パーティの誰かが来るならそこまでではないが。
とまぁ、それは置いて俺の指示を受けたタンナ。
流石はゴブリンの巣の調査に一人で向かえるだけの実力を持った冒険者と言うべきか、的確に暴れ回る魔族の隙を突いて的確に魔族の胴体を切り裂いてその紫色の毒のようなドロドロとした血を流させていく。
斬り落とせと言わなかった理由を把握してくれているのか斬り落とせそうなところで無理矢理動きをとどめたりといった感じで少々動き難そうにしているが、それでも的確にそして着実に魔族の体力を削っていっている。
『!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「おーおー、随分と頑張るなぁ? さっさと死んじまったほうが色々と楽になるし、そもそもテメェらが頑張る理由なんてもうねぇのにさぁ」
『!!!!!!!! !!!!!!!!!!』
「そうかい、まぁ足掻きたきゃ足掻けよ。俺一人も殺し切れねぇ惰弱っぷりでさ」
魔族の動きは衰えずに苛烈さを増していく。
弱っているようには見えないがこれはかなり順調に進んでいる。動きが激しくなったということはそれだけ体力の消費が大きくなったということ、大きくなったということは追い込むために攻撃を受け止める時間が減るということ。
爪や腕力での物理攻撃ばかりだから魔法や能力を使った時のような大きな消費というのは見込めないが、このまま進んで行けば到着したその瞬間に殺すことが出来る程度には削れるだろうな。
「ほら、気張れよ。死にたくなければな」
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