飲みの終わりと予期せぬ出会い
「……すー、すー」
「寝姿は随分と静かだな」
昔の勇者パーティの一員だった時にあった馬鹿話。純度百%で最初から最後までの全てが馬鹿話で済むような話ではなかったが、それでもクッソタレなカス共が関わる話に比べれば十分馬鹿話で済む話だ。
と、そんな馬鹿話をタンナに酒を飲ませながら話していると、聖騎士の婚約騒動の半ばに差し掛かったところでタンナが崩れ落ちた。毒でも入っていたのかと思ったが、どうやら酔いと眠気が合わさって崩れ落ちたらしい。
まぁゴブリンに殺されかけ、その後二回に渡って全力で人を背負ったまま走り、情報量の暴力で殴られながら酒が入る。うん、まぁ、寝落ちしても仕方ないな。
仕方ないんだが、
「このままで良いんだろうか?」
生憎なことに此処は宿じゃない。
寝落ちするのが悪いことじゃないが、そんなに長時間居座れないだろうし、出ろと言われた時の支払いはタンナがしてくれるはずだからな。というか俺の手元に金なんて存在しないから支払いなんてできないんだがな。
あとこのまま一晩を過ごしたくない、物凄く嫌な予感がするから。
どうしたものか
「お困りですか、お客様」
「………誰だ?」
「失礼しました。私、こちらの出入り口におりますルームサービス的な何かでございます」
「……そうか」
「おや、酔っていないお客様であれば突っ込みをなさる私の小粋なトークなのですが」
「似たようなのは見たことがある」
「そうでしたか。それでお客様、お困りですか?」
不意に聞こえた声の方向は酒と食事が出て来ていた窓側の小さな出入り口。人間サイズの生命体が入れるようなスペースではない気がするのだが、普通に聞き取れる程度の声を出せる生命体。
おそらくゴーレムの一種か小人、もしくは妖精辺りでも中に入っているんだろう。おそらくゴーレムか妖精のどちらかだろうな、中にいるのは一人だけな感じがするし。
まぁ、隠すようなことでもないし話すか。
「友人と呼べる程親しくはない会ったばかりの異性が眠ってしまってな。支払いもしてくれる約束だったから出るに出れず、かといってこのままというのも少しな」
「なるほどなるほど、では此方に参られますか?」
「……此方?」
「従業員用待機室的な部屋ですね。お客様の性分的にこのままというのは避けたいようですし、従業員としては食い逃げを許容する訳にもいきませんからね。残念ながらこの店はツケというシステムを導入していませんことですし」
「……問題ないのか?」
「えぇ、まぁ、今日は私だけですし個室利用のお客様も、今日はお客様方だけですから」
「……そうか」
それはそれで良いのかと思うところがないと言えば嘘になるんだが……まぁいいか。
正体に興味があるのはあるし、仮に小人やゴーレムであれば知ってはいるが出会った経験は少ないので、出会っておきたさはある。
妖精は妖精で興味がないこともない。根本的に悪戯を好んでいるような連中が、何故こうして真面目に仕事をしているのか気になるしな。
「なら、招待を受けようか」
「おぉ、ありがとうございます。では目を閉じて耳を傾けて下さいませ」
「分かった」
「はい。では、
…………妖精、だったか。
***************
妖精、或いはフェアリーと呼ばれる生命体。
人間とも亜人とも呼称しないのは肉体の内部構造が異なっていて、具体的に言えば心臓を始めとした内臓とか血液とかが存在していない種族。
分類で言えば精霊とかに近いのだが、精霊は精霊で独自の内臓を持っている上に生殖活動が出来る。対して妖精はサイズに関わらず、そう言った活動が出来るような内部構造をしていない。
だからこその生命体という呼称。性格とか趣向とかからしても違うしな。
最大の特徴はその特有の魔法と趣向。
チェンジから始まる魔法は未だに全容が判明しておらず、使用者である妖精たちですら何が出来るのかを全部理解出来ていない。ただ、賢者クラスの実力が無ければ自在に扱えない生命体の転移及び転送が可能であり、妖精たちはそれを理解して自らの趣向や悪戯のために利用する。
ちなみにその趣向というのが悪戯好きだということ。普通の範疇では考えられない幼児の入れ替えや転送、あと人間の精神だけを入れ替えたりとかそういった大きな混乱を引き起こすような悪戯を好む。
だから、妖精が真面目に働くというのが想像出来ないのだが……
「ようこそ我が居城へ、歓迎いたしますよお客様」
「……思ったよりも普通だな」
「まぁ、一応職場ではありますのでね。さぁ、そちらにおかけ下さいませ、お飲み物と摘まめる物をご用意いたしましょう」
「……あぁ」
妖精独自の魔法で連れて行かれた先は、特別奇抜な要素とかを感じられない普通の従業員が作業をするための部屋といった感想が浮かぶ。
魔法とかの検知が出来ないから分かっていないだけかもしれないし、窓とか扉とかの出入りが出来そうな場所が無いのが異常だと言えば異常かもしれないが。
声の主で部屋の主でもある妖精だが、俺の目ではぼんやりとした人型の輪郭しか認識出来なかった。なのでおそらくだが上位の妖精、それも数千年単位で生存し続けていて生まれ変わったりもしていない純粋種で長齢個体。
こうした上位個体の姿がはっきりと見えないというのはよくあること。精霊とかも物語に名を遺したりしているような奴は見えないし、ゴーストとかのアンデッドも力を身に付けた個体は専用の装備や対策が無ければ見えなかったりする。
「どうぞ、グラン・ディ・エレになります」
「……なんだそれは」
「古い妖精たちの間で至上の品、世界が怒り狂った後にその怒りが収まったことへの祝い事で嗜む妖精の朝露になります」
「……聞いたことがあるな。人間には劇毒じゃなかったかそれ?」
「資格無きものが飲めばそうなるでしょう。ですがお客様は資格があるようですので、折角の出会いを祝してお出しさせて頂きました。甘く艶めき、お客様の体に染み渡るはずです」
「……そうか」
胡散臭い、胡散臭いが飲む以外にない。
渡されたカップの中身は普通に飲み物という感じだし、普通の毒とかであれば耐性を考えれば多少であれば問題はないだろうしな。多少でなければ、まぁ死ぬ前に不死を起動するぐらいの時間はあるはずだ。多分な。
迷っていても仕方ない、飲むか。
「………美味いな。それに何ともない」
「そうでしょうとも、お客様はそれを飲むことが出来る資格をお持ちなのですから。それにこの辺りからほんのりと力が湧き上がってきませんか?」
「……なんとなく感じられるな。これは?」
「生命エネルギーとでも称しましょうか。お客様がこれまでに死を越えて動くために消費されていた生きるためのエネルギー、その燃え尽きかけていた炉心に新たな薪と火を与えて再び湧き上がらせているのです」
「……そうか」
「そうです。外から見ている限り些かチグハグでありましたので、資格をお持ちであるようなので丁度良いと判断させていただきました」
………いや、言われてみればその通りか。
何のデメリットもなく死んだ状態か元通りという訳にはいかないし、寿命が延びているとはいっても生きるためのエネルギーが枯渇するのは当然の話か。
「感謝する」
「いえ、お気になさらず。誘いに快く乗って下さいましたお礼という物です」
「いや、それでも感謝はさせてもらう。ありがとう、助かった」
「……では、こうお返ししましょう。どういたしまして」
「あぁ……ところで、資格とは具体的に何なんだ?」
「抽象化されない物ですが………世界を知り、怒りに触れ、それでも生きることを諦めていない者が持ちますね。我々妖精たちでは総じて平常時には持ち得ない物です」
「……そうか」
「そうです。詳しい話が知りたいのであれば女王陛下にでもお会い下さい、紹介状をお書き致しましょうか?」
「そこまではいい。知りたくなった時に、頼らせてくれ」
「えぇ、お任せください。私は基本的に此方に居ますので、お近くに参られましてお呼び頂ければすぐに力を御貸し致しましょう」
「あぁ、必要になればその時は頼りにさせてもらおう」
「えぇ……そういえば、名乗りを忘れていましたね」
「別にいいぞ?」
「いえ、世界を救われた御方に名乗らなければもう自ら名乗る機会などありませんからね。是非ともお聞きください」
「……そこまで言うのであれば」
名前から無理矢理隷属させられたりするから、妖精の名は聞かない方がどっちにとっても都合が良いはずなんだがな。いやまぁ此処は、本人の意思を大切にしよう。
俺としては無理矢理妖精を隷属させるつもりなんてないし、というかしたら最後どうなった物か分からないからやりたくないしな。妖精側としてもこんな得体の知れない人間に隷属したくないだろうし、あとそもそも実力差があり過ぎて名前だけじゃ確固たる隷属は結べないしな。
俺の名前は存在しないし。
「では改めまして。私の名はオベロン、オベロン・ルギス・ファータと申します。一応数百年ほど前はこの名を掲げて妖精たちの王をしておりました」
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