勇者パーティ一番の無能は役目が終わったので去りました

黒淵カカ

物語のプロローグとエピローグ

 自分が転生したと自覚するのは何時だと思う?

 赤ん坊としての生活にデジャブを感じた時? 子供としての生活にデジャブを感じた時? 聞いた言葉にデジャブを感じた時?

 まぁ、何れにしても何かしらのデジャブを感じた時に、転生した人間っていうのは自分自身が転生した側の人間だっていうのに気付く。要するに二週目の人生、前回よりも楽しく生きよう、良く生きようと考え始める物だ。


 俺もそうだった。

 デジャブを感じた瞬間にはそう考えた。


 風俗に行く勇気も無ければ出会いを求める勇気も無く、結局童貞のまま無為に死んでいった俺は今度こそモテたいとか考えた。

 なんなら前世よりも法律的な方面で緩かったから、いっそのことハーレムでも築いてやろうぐらいに考えてた側面もあった。

 男だったからな。前世も今世も、しかも割と性欲はしっかりあったしな。



 ま、結局そんなことは出来なかったんだが。

 何でかっていうと転生した世界それと俺が転生した人間が原因だ。

 詳しく話せば面倒なことになるから簡単に言うが、一歩間違えれば世界が滅ぶし仮に救えたとしてもとんでもない被害が出るような世界。で、転生した人間の方はと言えば使えない無能で、ぶっちゃけると被害の起点になる人間だった。

 それで、デジャブを感じた瞬間ていうのが世界の現状と俺の名前を聞いた場面。物の見事に俺が知っている物語が始まる導入の部分で、俺の名前は何度も見聞きしたから良く知っていた名前だった。


 それで、俺がどうしたかというと、少しでも世界がより良い未来へと進む可能性に掛けて自分自身の命を使うことに決めた。

 そんな気になれるなら風俗ぐらい行けただろと思うが、個人的に女性と一対一でそういう雰囲気で対面する方が遥かに緊張する。だから思い返している今でも、前世から続いている童貞を守り続ける羽目になってるんだが。

 まぁ、それは置いといて、どういう行動に移したのかという話。

 命を使うといっても無駄に使ったところでそれはただの自殺行為。必要になるのは自殺ではなくするための条件、要は簡単に死ななくて済むようにそれでいて全力を尽くせば間違いなく役に立てるようになること。

 それを実現できるのであれば脳が焼き切れようが問題ないんだが、生憎なことにこの転生した人間にそれを実現できる力は無いし中身はもっとない。

 だから所詮はただの夢物語、夢想しながら訪れる滅びの時間を待っていましょうかという話になって来る。


 まぁ、そんなことにはならないんだが。

 というかそれを認めたくないから命を使うんだが。


 まともな手段では手に入れられないので、まともではない手段で手に入れることにしたのである。簡単に言ってしまえば祈ったし願った、簡単には死なないようにしてくれ、簡単には傷付かないようにしてくれって。



 神様じゃなくて悪魔にだけどな。



 差し出せる命以外の対価で俺が持っていたのは記憶だけだったけどな。

 でも呼び出した悪魔にとっては価値があったみたいで、前世の俺という個人が持っていた記録の中から二種類ほどを捧げて力を貰った。

 何を捧げたのかは思い出せないけど、転生した世界の流れとか力の使い方とかに関しては忘れてなかったからそれ以外の記憶なんだと思う。

 ちなみに童貞喪失とか恋人とかの記憶ではない。はっきりとそんな人間はいなかったし、そんな経験はなかったと言い切れるし思い出せるからな。何か余りにも惨め過ぎて悲しくなってきたから置いておこう。


 取り敢えず、悪魔に祈ったことで力は貰った。

 『不死身』に『無敵』なんていう字面だけ見れば最高の力をな。

 まぁ実態はクソほど重いデメリットを抱えなきゃいけないのに、得られるリターンがゴミとかいう最低最悪な力なんだけどな。隠すことでもないし言ってしまうけど、使う度に寿命が延びるなんていう訳分からん契約込みでな。

 何で寿命を延ばすんですかって? 知らん。悪魔も特には言ってこなかった、ただその方が面白いことになるって言われたよね。



 これが俺の、転生者エルドゥアのプロローグ。

 未来はきっとよくなると信じて、命を使い潰すという役目を果たすために足掻き続けるようになった物語の始まり。



***************



 それで、ここからは物語のエピローグ。

 世界を破滅から救うまでの話。

 俺の足掻きが辛うじて完遂出来た瞬間のこと。



***************



『有り得んッッ! 我が死がッ! 我が滅びがッ!! 貴様如き矮小な木っ端一人すら殺せぬなどッッ!!!!』

「……いや別に、死んで無いわけじゃないけど?」




 滅びの危機に瀕していた世界を救うため旅路。

 勇者として讃えられる少年、聖女として崇められる少女、賢者として慕われる女性、聖騎士として敬われる男性。

 何人もの英雄として名を遺す人間たちが一堂に会した勇者パーティ、その一団に想定通りの因果として混ざってしまった俺の役割。


 それは死に物狂いで時間を稼ぐこと。

 俺一人では世界を救えないし、俺一人では世界を滅ぼそうとする大敵に打ち勝つことなんて出来ないから。

 だから勇者パーティの誰かが世界を救ってくれることを、大敵に打ち勝ってくれることを信じて、世界を滅ぼそうとする相手に対して時間を稼いだ。



 一番最初は勇者の故郷を滅ぼした大魔族。この時に死ぬのは勇者以外の全員で、ただの人間の無力さを証明するかのような相手。

 魔王の腹心にして一番槍、自身を出し惜しみすることなく魔王の世界を滅ぼすという願いを叶えるために進む先の全てを根絶やしにしていく化け物。

 それが初めて人間社会に牙を向いたのが勇者の故郷で、俺はそれを知っていたので先回りをするような形で出向いて逃げられるだけの時間を稼ごうとした。

 一人でも多くの生き残りが出てくれるように、あわよくばこのタイミングで勇者が力に目覚めてこの魔族を殺してくれるのを考えてた。


 結局稼げたのは二十数分程度で、勇者以外の生き残りは勇者の幼馴染と妹の二人だけしか増やせなかった。

 それも五体満足とはいかずに、勇者の幼馴染は片目に深い傷を残して視力を低下させたし、勇者の妹の方は足の自由を奪われてしまった。

 これに関しては原因は敵の強さじゃない、俺自身の無力さが原因だ。もっと力を洗練させて、立ち向かうよりも時間を稼ぐことに注力しするべきだった。そうしていればもっと多くの人間を救うことが出来ていた筈だ。

 あとこの時はまだ痛みに弱かったし死を恐れていた。だから立ち上がるのに時間を掛かっていたし、もう一回立ち向かうのに時間を掛け過ぎていた。



 それからは何度も時間稼ぎをした。

 無駄といえば無駄だったし、何回も止められた。

 けどまぁ、それが俺に出来る唯一だったから止まれなかった。


 勇者が戦いの反動で崩れたから前線を引いて回復するために魔物を相手に。

 皆が力を継承するためにいない状況で襲い掛かって来た魔族たちを相手に。

 片方を退けて皆が無事に合流できるように、正反対の二方向から襲撃を仕掛けてくる大魔族の片方を相手に。

 聖女、賢者、勇者の三人が力を合わせて絶技を放つ、その準備の時間を稼ぐために大魔族とドラゴンを相手に。

 仲間たちが窮地を打破するために最奥の黒幕を打ち倒す、それまでの間に王城を落とされないように大量の魔族と魔物を相手に。


 ちょっとしたズルを重ねて、無理矢理時間を稼ぎ続けていたから体としては途中からガタが来てたけど、また悪魔を召喚して補ったりもした。

 六回目くらいに聖女に見つかって、仲間に囲まれて説教&泣き落としで悪魔を召喚して力を貰えなくされたけども。

 なんなら夜中に一人で動かないように、毎日誰かしらが俺の近くか一緒のベッドで手か体を捕まえた状態で寝るようになったけども。

 まぁ、必要最低限は手に入れてたから問題は無かった。少なくともその時の最終目標である魔王を倒すまでは動けなくなるって事はなかった。



 それで対魔王戦。


 実を言えば俺と仲間の皆とでは突入のタイミングが違って、一緒に戦ってたわけじゃなかったりする。具体的には俺一人だけ先行する形で魔王と対面して、先に向こうが動き出さないように足止めの時間稼ぎをしてた。

 その間に仲間は魔王の残っていた部下たちを打ち倒して、んで俺を排除しようと躍起になってた魔王に不意打ちをぶつけて、有利な状況で魔王との戦いを始めて進めて終わらせることが出来たらしい。

 俺は始まったタイミングで魔王城の奥の方に吹き飛ばされて、戦いの方には合流できなかったから具体的にどんな形で戦いが進んだのかってのは知らないんだがな。


 これで魔王は打ち倒されて終了。世界は救われました、ハッピーエンド。



 とはならなかった。

 何か俺も知らない邪神を名乗る訳分からん奴が出て来て、邪神の眷属とか言う魔王クラスの化け物を世界中にばら撒いて、その上で俺たち全員別々の場所に飛ばされて、再び世界の危機と対面する羽目になった。


 かくいう俺も飛ばされて、戦うことも出来ないのに孤軍奮闘を強いられる羽目になったんだけども。

 ちなみに合流した後で聞いた話だけど、俺だけやたらと遠くで辺鄙なところに飛ばされてて、それで俺が動き回ってたから合流が遅れたらしい。

 まぁ、仕方ないけどな。その付近で待っていてもどうしようもなかったし、というか最悪何も出来ずに死んでいくだけだったからな。


 だから、俺に出来たのは動くことだけだった。

 誰かのために時間を稼ぐ、それが変わらない俺に出来る唯一のことだったからな。



 ということで、皆と離れた後も命を賭けていた。


 飛ばされた先にいた魔物に襲われていた獣人の少年を助けるために、魔物の前に飛び出して八割くらい死に掛けながら少年が逃げ切るだけの時間を稼いだ。

 獲物を逃がした怒りで荒れ狂う魔物に吹き飛ばされた先で拾われた獣人の村に危機が迫っていたので、住居を捨てて逃げられるというので全員が逃げられるだけの時間を邪神の眷属を相手に稼いだ。


 興味を失った邪神の眷属に投げ飛ばされた先が森で、偶然その瞬間に人間に襲われているエルフがいたので死に掛けの体で庇って逃げるだけの時間を稼いだ。

 その後、紆余曲折あって助けてもらったエルフの若い族長が邪神の眷属に立ち向かうというので一宿一飯の恩を返すためにもその話に乗って、エルフたちが邪神の眷属を打ち倒せるまでヘイトを集め続けた。


 離れ離れになった皆と合流するために放浪していたところで、魔族の残党に襲われている山賊がいたので助けを求められたのもあって、魔族たちの前に飛び込んで山賊たちが魔族を退けられるだけの時間を稼いだ。

 その後、山賊が拾った貴族の令嬢を遠くの街の領主に届けるというので、何かしらの金以外の事情と目的があると判断して道中の安全を確保したりもした。まぁ、襲いかかって来ようとした奴らの前に飛び込んでヘイトを集め続けただけなんだが。


 その後も色々と放浪していたら、邪神の居城があるというのでそちらに向かっていたところで邪神の眷属に殺されかけてるザ・天使みたいな人を見つけたので、殺されそうになっている所に飛び込んで一緒に逃げた。

 まぁ簡単に振り切れなかったので、意識が朦朧としてた天使を胸の中に抱え込んで攻撃を受け止めながらひたすらに走り続けて、そこが真っ暗闇の亀裂の中に飛び降りたら追いかけられなかっただけなんだが。

 それから天使の事情を聞いて、俺の力を使うなというのを無視して、天使の上司がいる場所に送り届けて、その道中で再会した天使たちを滅ぼそうとしていた邪神の眷属を相手に七日七晩時間を稼いだ。

 そこでようやく、天使たちとの合流を目的にしてた勇者を筆頭にした皆と合流することが出来て、吹き飛ぶ意識の中で勇者に後を任せながら邪神の眷属が放った範囲攻撃を受け止めて意識を飛ばすことになった。



 で、邪神との戦い。

 眷属が続々と倒されていくことで慢心を捨てて、自分から動き始めているということで誰かが足止めに行く必要が出て来た。

 だけど邪神の眷属は倒さないといけないし、それを実行するには勇者と聖女の力が必要で何方かが欠けた時点で失敗する可能性が跳ね上がることになる。


 ということで、俺の出番というわけ。

 最近、脳のリミッターがぶっ壊れたおかげで、何と無限に時間を稼げるようになったから皆が倒して合流するまで邪神の足止めに立候補した。

 まぁ、死ぬほど止められたけど出来るのが俺しかいない、正確に言うと確実に死なないで時間を稼げるのが俺だけなのである。

 それでもと食い下がられて、決まりそうになかったから会議が解散して皆が眠り始めたタイミングで拘束を抜け出して単身で移動したんだけども。




 そして、今。


『我は神だッッ!! この世界を滅ぼす神だッッ!!! 神を排斥しッ!! この世界の心臓に手を掛けているッッ!!! 貴様如きッ!! 劣等なんぞをッッ!! 殺せぬ存在ではないッッ!!!!』

「いや、だから死んで無いわけじゃねぇんだけど?」


 邪神が閉じこもってた空間の中で邪神と二人きりで怒りを真正面から受け止め続けている。死んで無い理由は三つ、悪魔から貰った力と、悪魔から貰った力と、そして悪魔からおまけで貰った力の三つのおかげである。

 実質一つだな。まぁそのおかげで死なずに、こうして怒り狂った邪神の攻撃を受け止めながら無限に時間を稼げているという訳よ。


「んーー、ま、いいけどな。さぁ俺を殺してみろよ神様? 世界を滅ぼせるっていうのに、こんな勇者でも何でもない人間くらい殺せるよなぁ?」

『ッッッッッ!!!!!! 死ねッッッッ!!!!』

「はい、残念」


 どれくらい、時間稼げばいいのかね? お腹は減らないというか、多分空腹を感じなくなってるし水分も一緒。必要なんだろうけど、この時間稼ぎを続けている間はそれで死ぬこともないから問題ないけど。

 無断で走って来たから何も分からないんだよな。あとどれだけ邪神の眷属が残っていて、俺はどれだけ此処で時間を稼げばいいのかっていうのも、そもそも何処までこの邪神を相手にしなければならないのかっていうのもな。

 生憎武器なんて持ってないし、毒とか呪いを使えるのかって言われれば別にそんな事はないし、まぁそもそも口以外は動かせないし動かせたところで何が出来るかってなにも出来なんだけどさ。


 あぁ、いや、一個だけ出来るわ。

 俺の力の源の悪魔を呼べるわ、頼むこともないから呼ばないけど。


『貴様はッッッ!! 貴様だけはッッッ!!! 我が殺すッッッ!!!!』

「なら、早く殺せよ。出来ないんだろ?」

『!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

「真っ赤じゃん、おもろ」


 やっぱり呼ぶか? 暇だし。

 でも、巻き込まれて殺されて俺の力が無くなりましたー、死んじゃいましたーってなったら目も当てられないし止めとくか。


「んーーーー、ん?」

『特別サービス。あと七日と半日だよ』

「そうか、感謝感謝」


 あと、七日と半日耐えればいいらしい。

 時間の感覚が無くなってるから、今何時であとどれくらいで一日が経過するのかとか分からないから判断は出来ないけど。まぁ言うてすぐ経つだろ、どうせ変わらずに邪神を煽り散らかしてるだけだしな。

 てか、邪神の顔が真っ赤で笑えてくるな。肌とかは青いというか黒いというか、変な色をしてるっていうのに顔面は真っ赤。唾も撒き散らしてるし、目も血走ってて俺しか見てないから届いた特別サービスも見えてないし。


 踊るか! 暇だしな!!


『!!!!!!!!!!!!!!!!!』




 と、こんな感じで時間を稼ぎ続けて、邪神の動きが疲労で鈍り始めたぐらいのタイミングで全部の準備が終わった勇者たちが飛び込んで来て、魔王の時と同じように不意打ち気味で必殺の一撃が突き刺さって邪神は打ち倒された。

 シリアスさの欠片もない序盤から終盤に掛けての戦いの割には、打ち倒された直後は空が綺麗に晴れて心地良い太陽の光が降り注いで、あぁ全部終わったんだなというのが心の底から実感できる光景だったな。

 まぁ、勇者が飛び込んできたぐらいで安心して地面に崩れて、晴れた空を眺めて満足して眠ったんだけどな。喜びの瞬間を共有できなかったことへの後悔はないよ、寧ろ怒られる前に意識を失えて万々歳くらいだわ。


 いや、まぁ、目覚めたら死ぬほど怒られるだろうけどな。もっと言えば聖女には泣かれるだろうし、賢者とかは軟禁に拘束を普通にしてくるだろうし、勇者とか聖騎士あたりは首輪でも付けてくるかもしれんが。



 だが、取り敢えずこれで世界は十全に救われたな。

 邪神の残党に魔王の残党はまだいるかもしれないが、少なくとも世界の存続を掛けて戦う程のことではないだろう。



 ということは俺の役目は終わりだ。

 十分働いたし、辺鄙な田舎で隠居しても良いだろう。恋人でも見つけて結婚して童貞を捨てられたら最高ってところだな。

 もう性欲なんて殆ど湧かないというか、あるのかどうかすら分からない状態が随分と長続きしてるけども。

 あとは皆が何とかしてくれるさ、俺なんかよりずっと優秀だしな。

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