第3話 千年を迎える日③


 見知らぬ森の中で記憶を取り戻し、私は慌てて叫んだ。


「ねぇ、リリアン?!」


 急いで辺りを見回してみたが、リリアンの姿はどこにもなかった。私は自然と涙が溢れて、悲しみのあまり腰が抜けて顔を手で覆って泣き出してしまった。


 もしかして、離れ離れになっちゃった?

 もうリリアンに会えないの?


「り、リリアン……っ!リリアン!」


 と嗚咽混じりにリリアンの名を呼んでいると、私の頭上から声がした。


「うぅっ……。なんで泣いてるの、フェルン……」


 はっと上を見ると、木の枝に引っかかっているリリアンがいた。


「リリアン!!良かった、無事なのね!うぅ、うぅ、うわーーん!!あいたかったよぉ!!」


 私は安心して、逆に滝のような涙を流して喜んだ。リリアンはそんな私に引き攣った笑顔を見せて、「そんな泣くようなこと?」と笑った。それからリリアンは、今起きたばかりらしく、目だけを動かして辺りを見回した。


「まぁ……この状況を無事って言っていいのかな。うげぇ、めっちゃ気分悪いし。ねぇ、フェルン……。ここどこ?」


「分かんない。咄嗟に転移魔法を使ったんだけど、術式に行き先書き入れる時間なかったから……」


「そう……。ってか、ごめん。それより一旦私のこと降ろしてくれない?ぐわんぐわん世界が回って気持ち悪い。転移酔いかしら?自分で降りたいのだけど、なんか力が入らなくて……」


「いいよ!……でも、どうしよう?」


 私は首を傾げた。リリアンは頭上三メートルくらいの高さの枝に引っ掛かっている。紐や丈夫なツタでもあればなんとかなると思うけれど、私のちからオンリーでは簡単に下せそうになかった。


 こういうときは、リリアンの方が私よりも頭が良いし、機転が効くから、リリアンに任せようと思った。


 だけど、リリアンも辺りを見回してから、うーんと首を捻った。何もアイディアが出ないらしい。どうも本調子ではなさそうだった。


 なので、私は一つだけ降ろす方法が思い浮かんでいたので、その方法でいいかを確かめたくて、一応リリアンの目的を確認することにした。


「降りたいんだよね?」

「……えぇ。そうだけど?」


 リリアンが意図を測り損ねたように首を傾げて答えた。私は念押しをした。


「一刻も早く?」

「……えっ、まぁ、そりゃ具合悪いし、早く降りたいけど……」


 リリアンは多少言い淀んでいる気もしたけれどそこは無視して、私はコクリと頷き、リリアンの決意に応えることにした。


「……分かったよリリアン!私あなたを早く降ろす!!」


 私は鼻息荒くそう言って、木に登り始めた。


 「ん?」とリリアンは目をパチクリさせて、何故か不安そうな顔をして私を見た。


「ちょっ、なに?今ので何が分かったの?!何しようとしてる?ねぇ、待って!なんか勘違——」


 枝に辿り着いた私はリリアンに安心して欲しくて暗黒微笑を投げかけた。


「大丈夫だよ。安心してリリアン?」


 瞬間リリアンの顔面が蒼白となり、リリアンは何かを言おうとしたが、私はその前にリリアンを——






 ……突き落とした。



「ゴボォッ!!」


 まるで女性のものとも思えない野太い声を出した後で、リリアンは地面に落下した痛さでのたうち回った。


「痛い、痛い、いたぁーーい!ちょっと!いきなり何すんのよフェルン!!」


 私はリリアンが何故そんなことを聞くのか不思議で首を傾げた。


「えっ?ごめんね、リリアン。痛かったよね?でも、リリアンの希望通り最も早い手で降ろしたの」


「サイコパスか!降ろすにしても方法や手順があるでしょう!?なんでいきなり突き落としたのよ!」


「えっ……?リリアンが早く降りたいっていうから……?」


「そうだけど!そうなんだけど、もうちょっとなんかワンクッションちょうだいよ!

 友達を落とすのに躊躇ちゅうちょなさすぎない?!ライオンの親でもちょっとは迷うわよ!フェルンの顔、覚悟が決まり過ぎだったからね。私殺されるのかと思ったわよ!それでノータイムで落とされたもんだから、私の方は覚悟決めれず、変な落ち方して、今まで出たことない声出たよ!!」


「えっ、あぁ、ごめん!そういうことか!」


 私は合点がいって、手をポンと叩いた。リリアンは「今かい!」となけなしのライフを振り絞って突っ込んだ。私は多少申し訳なさを感じて、リリアンから目を逸らしてゴニョゴニョと言い訳を言った。


「でも、現状ではこれ以外方法なかったし、早くするのが目的だって思ってたから……」


 リリアンは悔しそうに唇を噛みながら思い出した。フェルンが気になる論文があると、周囲の目も気にせず他の大学に乗り込むことから「ルノワールの狂戦士バーサーカー」と恐れられていたことを……。



「くっ、謎の行動力っ!!一つに集中すると周りが見えなくなる憎き研究オタのさがめ……っ!」


 それから私も木から飛び降りた。リリアンは私が落ちたあとで、やっとそれを理解したみたいで、数秒してから悲鳴を上げた。


「ぎゃーーー!うそっ?!なんで、何で?今なんで落ちてきたのよ!?」


 私は痛みでのたうち回って、すぐに答えられなかった。しかし、なんだか痛がるリリアンを見て自分も経験したくなったのだった。

 少しして私は死ぬ寸前みたいな声でこう言った。


「ど、どれくらいの負荷が掛かるか……数字では分かっていたけど……経験できる機会ってあまりないから……つい。なかなかのダメージだね……。これ、数式化できるかなぁ……」


 リリアンはまた「謎の行動力……!!憎き研究オタのさがめっ!」と悔しそうにしていた。


 こうして、私たちはようやく同じ地面の上で落ち着くことができたのだった。私はリリアンと一緒でひとまず安心した。……しばらくリリアンは「しんじらんないっ!」って怒っていたけれど。


 そして、落ち着いた頃、私たちは今後の作戦会議を開いたのだった。



***———作者コメント———***


ここまでお読みいただきありがとうございました!

もし、少しでも二人を気に入ってくれたり、続きが読みたいと思ってくださいましたら、☆や♡、ブックマークで応援いただけると幸いです!


フェルンとリリアンの異世界生活がここから始まります。まだもうちょっとモフモフと出会うまで二人のお話にお付き合いください。



今後もよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る