『君に殺される未来しか、視えない。』

なすび

第1話僕が見た未来

僕はわかりきっていた。

君が僕を好きなことも。君が僕を大事にしていることも。君が僕を殺すことも。

僕が君を大好きなことも。僕が君を大切なことも。僕が君に殺されることも。

ぜんぶ、ぜんぶわかってたのに…君はどうしてこうも愛おしいのだろう?




セミが鳴いた。

初夏の始まりを感じた。教室の窓にはキャンパスに描いたかのような澄み切った青と白い入道雲が浮かんでいた。

その風景に「綺麗」とも感じることはなくただ「暑いな」と思った。

担任が「転校生を紹介するぞ。」という声を僕は頬杖を突きながら聞いた。

夏休み前に転校なんて物好きな奴もいるんだな。


転校生…彼女が教室に足を踏み入れた瞬間喉がひきつったのが分かった。

言葉にできないどろどろとした感情が喉から肺につたう。

この光景を夢で何度も見た気がした。

さらっとした黒髪のボブがなびく猫目で口角をあげた彼女の姿を。

一般的にかわいいというのだろうか。何か惹かれてしまうものがあった。



「橋田くん?」

気付けば自己紹介は終わっていたらしい。

僕の隣の空席に腰を掛けようとした彼女がこちらをむいて名を呼んでいた。

ジャージに縫い付けられた苗字を読んだのだろうか。

「あ、…どうした?」

「いーや、ぼーっとしてたから気になって!」

初対面のわりに人懐っこそうに笑う彼女は窓に映る青空がよく似合っていた。




その日はいつもより時間が早く過ぎた気がした。

転校性の存在のせいだろうか?彼女は第一印象と変わりなくコロコロ変わる表情でよく笑う可愛らしい年相応の女子だった。

彼女と話すのは楽しい、素直にそう感じた。これが特別な感情なのかそうではないのかはわからないまま。


「橋田くん!」

ちょうど頭をよぎっていた彼女の声が後ろから聞こえてきた。

本日2回目の名字呼びだ。

「帰り道同じなんだね!!」

語尾にビックリマークがつくような明るい声に思わず口角が上がってしまう。・

「そうだね、こっち側の人は珍しいね」

そんな何の変哲もない返事をして彼女の横に並ぶ。

こちら側を通学路とする生徒は珍しい。

「今日緊張したけど楽しかった~!変じゃなかった?」

変じゃなかった?とは自己紹介のことを指しているのだろうか。

「変じゃなかったよ、みんなともう馴染んで凄いね」

つくづく僕は面白みのない人間だと思う。

もっとひねりのある返事はできなかっただろうか。

「えー!ありがとう!あ、私こっち側なんだけど…」

そんな僕の鬱憤を気に留めた様子もなく彼女が返事をしてくれる。

「僕はこっちの道だ。また明日ね。」

別れに少しの寂しさを感じるような緊張が解けるような。

「うん、またね!」

彼女が手をパーにして広げてくる。タッチだろうか?ずいぶんあざといことをする。

女子慣れしてない僕はぎこちなく彼女の手にパーを広げた手を軽くたたく。


「あ…」

僕はたぶん間違えたのだろう。見てはいけないものを視てしまった。

彼女の背が見えなくなったのを確認してじわじわと汗が流れしゃがみこむ。

ああ、また視てしまった。

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