第7話 料理への感銘

 トイさんは床に座り、テーブルの上に並べられている料理を見つめ、顔は怯え、体は震えている。



「くれは先輩……え、えっと、何を使ったんです……か……?」



「ゴウヤとみかんとか、胡椒にニンニクだよ。バランスも彩りも完璧。早く食べないと冷めてしまうよ。」



「あ、は、はい……じゃ、じゃあいただき……っます。」



 そうしてトイさんは震えながらもおかずをゆっくりと一口食べる。すると、震えがさらに激しくなり、無言になり、目には涙を浮かべている。どうやら、感銘を受けているようだ。よく、私の料理を食べた人はこんな風に目に涙を浮かべて感動していることがある。



「どう?美味しい?」



「う゛あ゛っ、え、えっと……す、すごく……おいしい……です……う゛がっ──」



 ──美味しい。今回も上手くできた。



 しばらくトイさんは味の余韻に浸っているように無言で小さくうずくまっていたが、突然顔を起こし、一気に残りのご飯をかきこむ。そのせいで途中咽せていたけど、水を何杯も飲みながら私よりもかなり早く食べ終わり、急ぎ足でキッチンの流し場のところへ食器を持っていく。



「ごぅ゛っ、ご、ごぢぞ、う゛さま……でしだ……。」



 私はお風呂を済まし、トイさんが用意してくれたパジャマに着替え、リビングのソファに座ってテレビを見ているトイさんの方へ向かう。トイさんは左手首に着けているた"セリオン"をぼんやり見つめていた。


 私の足音に気づいたのか、トイさんはすぐ私の方を振り向き、目をキラキラと輝かせる。



「くれは先輩似合ってます!すっごく!」



「ありがとう。」



「あ、くれは先輩!!やっぱり明日、グレイさんの所へ行こうと思うんですけど、行けそうですか?体調とか……。」



「全然大丈夫。」



 ほっと胸を撫で下ろしたトイさんは、ソファの席を2回叩き、私に座るように誘う。私はその誘いに従って、トイさんの隣に座る。トイさんは付けているテレビを指差す。


 テレビでは明日の天気予報が出ており、明日は日光が強くなるので、街の出入りはなるべく避けるようにとのこと。



「最近、シュレク多いんですよ。やっぱりもう春だからですかね?ですから、最近は街の出入りが厳しくなっているんです。」



「夏に近づくと、多くなりますよね。」



「くれは先輩は──、いや、何でもありません。それよりも、高校。明日グレイさんに言ってどこか、ここら辺なら神波高校ですが、転入出来るように話をしておきましょうか。」



 そうか、そう言えば高校にしばらく行けていなかった。私はふと周りを見渡し、壁に掛けてあるカレンダーを発見する。



「今日は5月17日ですよ!!土曜日です。」



「あ、ありがとう。高校、お願い。」



 そう言うと、トイさんは微笑み、壁に掛かっている時計の方へと目を移す。



「少し早いですけど、寝ましょうか。明日は少し早く出ても良いですし。」



 トイさんの言う通り、時計はまだ零時半を指しており、まだ寝るには早い時間だったけど、トイさんは私の手を掴んで奥の部屋へと連れていく。



「さ、寝ましょうか。どうぞどうぞ。」



 トイさんは私をベッドの上に引っ張り、自分もそのまま私の隣で寝始める。



 ──え、一緒に……?

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