第5話 トイさんの申し出
トイさんは、血の滲む腕を押さえながらも、真っ直ぐ私を見つめていた。迷うことのない強い熱意の中に不安や緊張、自信の無さが見え隠れしていた。
「強くなりたいんです……!!私、この弱いままだと、他のみんなはおろか、自分すら守ることができないんです……!そ、それで……わ、私の師匠様になってくれませんか!!」
一瞬、何を言われたのか分からず、理解するまでに数秒かかった。しかし、トイさんの表情は依然として変わることなく、ただ力強く私の瞳を見つめていた。その熱量に思わず後退りしそうになるほどだった。
「え、えっと──。」
「分かってます!!分かってはいるんですけど、強くなりたいんです!!迷惑は掛けないです!!」
「ごめん……私、自分は守れるけど、他の人は……守れない……から……。」
「で、ですよね……。分かりました……。だけど、私、諦めないですからね!!」
そう言って、トイさんは私に背を向け、少しした後、また私の方を振り向く。トイさんの口元は少し緩んでおり、目は水晶玉のように潤んでいるように見えた。しかし、急に何かを思い出したかのように、目を丸くする。
「ししょ──あ、えっと、な、名前!名前聞いてないです!!ぜひぜひ、名前教えてください!!」
──この子、「師匠」って言い掛けた……。
「くれは──
久しぶりに人に名前を名乗ったような……少し緊張した。
「良い名前ですね!!くれは先輩、よろしくお願いします!!」
トイさんは目を輝かせながら私の両手を掴み、空気を切るような勢いで上下に振り、私の手を引っ張る。
「帰りましょうか!!足元、ガラスの破片もあるので、気を付けてくださいね。正直、くれは先輩のその靴だと、かなり危ないと思いますけど……。」
そう言われ、トイさんの足元を見下ろすと、スニーカーなどではなく、スニーカーの外側に保護のコーティングを施したような、例えるなら、スキー靴あたりのツヤ感のある見た目の……安い言葉で片付けると、「スニーカーの強化版」と言えるような見た目だった。
初めてこの街に来た時はまともに外観を見ることができなかった。今見てみると、厳重な門を構え、九割がた透明のドームに覆われている他の街よりも一回りか二回りほど巨大な街であり、いくつもの外壁が聳え立っている。おそらく日光を遮断する素材でできているのだろう。
門の前に足を運び、トイさんは内側で警備を続けている見張りの男性へ声を掛け、少し話した後、人が数人通れるぐらいの扉が開く。
そして、相変わらず軋む音が聞こえない金属の階段を登り、トイさんが部屋の鍵を開けて中に入り、私を手招きする。私も後に続き、トイさんに導かれるままにソファへと座る。
「そうだ!!神波市について、門の開閉時間とか、話しておきますね!!」
そう言って、トイさんはキッチンへと向かう。
その時、棚に置かれていた置き時計から流れ出したオルゴールが部屋に静かに響く。どこか懐かしく、心落ち着く優しい音──。
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