異能喪失ー超能力の上手な捨て方ー
なすび
第1話平凡の難しさ
キーンコーンカーンコーン…
あまりに聞きなれた音色が鼓膜を刺激する。
受けたばかりの授業の会話が呼び起こされる。
「幸せな人生とは何だと思いますか?…一条さん」
ふと名を呼ばれ遠のいた意識が戻ってくる。
私、一条秘月はそんな哲学めいた先生からの質問に淡々と理想を語る。
「平凡な人生だと思います」
「なるほど、いいと思いますよ」
いいと思いますよ、とは何だ。もう少しひねるのあるコメントはなかったのか。
帰宅路を歩く私はそのやり取りを思い出し少し顔をしかめた。
「ただいま戻りました」
“自宅”とは呼びにくい、やたらと大きくて和風建築の象徴のような家の戸を開ける。
奥のふすまを開くと白い髪、高そうな和服を着た白い瞳を持つ凛とした美しい青年がたたずんでいる。
「おかえり秘月。今日はこれをお願いね」
まるでお使いでも頼むように紙を渡される。
ため息も嗚咽も漏れぬよう…
「謹んで。」
私はその5文字を述べるとこの和室から10個ほど離れた自室に入る。
青春の象徴のようなセーラー服を脱ぎ、黒く目立たない服に着替える。
かばんに忍ばせる鉛の感覚に虫唾が走る。足音を立てずに外へ出る。
ああ、平凡って難しい。何度でも思う。
先ほどの白い髪の御方は組織「桜」のご当主、猩々(しょうじょう)様だ。
組織「桜」とは、、、一言で言えば生まれながらに超能力を持った裏社会集団だろう。
超能力なんてかっこいい響きをしているが誰もこの能力を望むものはいないのではないだろうか。もちろん便利な力だ。
空を飛べる者、透視ができる者、触れずに物が動かせるもの…。
複数の能力を所持して生まれたものもいる。
その人間離れの能力がもたらした結果が普通社会との分離だ。
超能力の中には便利なだけでなく容易く人を殺せてしまう内容のものもある。
普通社会に生きる者はそれはそれは恐れおののいて我々は秘密裏に生かされることになった。
この望まれぬ環境は私の先祖から…、かれこれ2千年ほど続いてるのではないだろうか。
この便利な能力は普通社会のお偉いさんに利用されている。
「○○を暗殺しろ」「○○会社をつぶす助けを…」など日々命令が下される。
なぜこんな願いを聞くか、単純だ。我々には金がない。
「普通社会に生きるな」なんて命令が下された我々にお金を貰うすべはない。
もちろん一般の高校に通う私のような超能力を内緒にしてこそこそ生きる者も多数いる。
だがそれだけでは成り立たないものがある。
だから、「桜」は普通社会の言いなりになることを選んだ。
ちなみに「桜」のほかに異能を持つ組織は2組ほど存在するらしいが詳細は定かでない。
猩々様はご両親をなくしお若くして当主になられた歴代当主の座を持つ桜家のトップの御方なのだ。
そんなことを説明してるまに目的地についてしまった。
ああ、今日は何人の命を葬らなくてはならないのだろうか…。
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