第50話 最高の防御力

「――【シェイプ】!」


「――――【シェイプ】!】


「――――――【シェイプ】!」



 ブラズニールの外周――入り放題だった状態から、一体一体ウォール・ゴーレムを形成し防壁を形成していく。

 ものがゴーレムを作る事がメインなので、「防壁作り」という壮大な響きとは裏腹にかなりハイスピードに「防壁作り」は進行している。これがレンガやら何やらを積み上げる、という形ならいくら錬金術を使ったとしてもこの何倍も時間はかかっただろう。


 まさに、革命的な工法――我ながらとんでもないことを思いついたなと思う。

 ただし、このウォール・ゴーレム作戦には一つ致命的な弱点があった。



「はぁ……はぁ……や、やっと……終わった」



 俺は体を地面に投げ出す。

 清々しい青空が、視界いっぱいに広がる。


(さ、さすがに街全部囲える数ってのは――無茶だった、かも)


 そう、死ぬほど疲れる。

 薄い土壁を作る程度なら大したことはないが……一応街を守る以上、ある程度の厚さは必要。

 ゴーレムの数が増えれば増えるほど、錬金術師の力も上がる――その意味では作れば作るほど、一回一回のゴーレムを作る労力は減っているはずなのだが、これだけの数を作るとなると減った労力よりも、遥かに労働量が上回りすぎて実感が薄い。


(……とはいえ、時間がかかりそうな部分を今のうちにできたのは大きい)


 時間をかければこなせる、という状況はだいたい後回しにするといつまで経っても完成しない。なので、今のうちにこうして防壁を終わらせたのは――なかなか、我ながらナイス判断だったのではないだろうか。


 ……正直、全身が棒のようになっていて、軽く死相が見えなくもない気がするが。

 せっかく、あのスタンピードを乗り切って、死因が『過労』というのは正直避けたいところだ。


(ヴィトルムが、防壁作りで過労死……)


 字面にするとすごいインパクトだ。原作をプレイした人間からするとこんなふざけたフレーズは早々ないだろう。

 そんな事を考えていた時だった。



「――ヴィトルム!! いないか、ヴィトルム!?」



 遠方から、マグノリアの声が聞こえてくる。

 その声はかなり大きく、かなり興奮気味だ。


「……ここだ、マグノリア」


 俺は寝たまま右手を上げ、手首をぶんぶんと振ってみせる。


「む! ここか! いやぁ、探したんだぞ、ヴィト――ヴィトルム。……何をしているんだい、こんなところで」


 マグノリアが呆れ調子に言う。


「……防壁作りに疲れてな。少々人間をやめていた」


「つぶれたスライムだぞ、それでは……。しかし、すごいなこれは。全てキミがやったのか……? 下手な魔導師より、魔法使いだな、これでは」


「錬金術はこういう事は得意でな。――それで、俺のところに来たというのは」


「おっと、そうだった! ――ヴィトルム、『アルバイリス』の性質がわかったぞ」


 アルバイリス――!

 俺は、その言葉に疲れた体を起こし、立ち上がる。


「――アルバイリスには、かなり面白い性質がある」


 マグノリアがニヤりと笑みを浮かべ言った。



「よし、ここならちょうどいいか」


 マグノリアが大きな切り株の上に白色の合金――アルバイリスを置く。


「では、まず結論から述べよう。――アルバイリスは『防壁』には最適の合金だ。おそらくこれがあれば最高の防壁が作れるはずだろう」


「おぉ……!」


 その言葉を聞き、俺は体に溜まっていた疲れが一気に引くような気がした。



「――ただし、アルバイリスは最高・・の防御力であっても、最硬・・の防御力ではない」



 そういうと、マグノリアは手のひらで拳を受け止めるジェスチャーを入れる。

 ……最高の防御力であって、最硬の防御力ではない?


「まぁ、『防壁』としては問題はないが……他の使い方は少々工夫が必要かもしれん」


「ほう……」


 他の使い方、か。


「では、本題に。まずはアルバイリスの強みから話していこう。アルバイリスは、極めて高い魔力耐性がある。特に属性魔法については圧倒的だ。魔法攻撃による突破はまず不可能といっていい」


 魔法耐性が高いのはありがたい。

 この世界にはルサルカの「タイダルウェイブ」のような凄まじい威力の魔法がいくつもあるからな……。スタンピードを凌ぐ上で魔法耐性が高いことはかなり大きい。


「そして、次。アルバイリスは物理攻撃にも強い。今、この切り株の上にあるアルバイリスだが……実験用に切り分けようとして、再び火入れしたんだがな。私のタガネがまったく通らなかった。この小ささにこの薄さでこれだ。一度安定すれば、魔物の牙は当然として鉄も鋼もアルバイリスには通用すまい」


 そういって、マグノリアが鍛冶用の大きなタガネを見せてくれる。

 たしかに、これを打ち付けた割には、このアルバイリスには一切タガネによってつけられた傷がない。


「だが――。そうだな、ヴィトルムこれを」


 マグノリアが懐からナイフを取り出し、俺に渡してきた。

 

「ナイフでアルバイリスをひっかいてみてくれ」


「……ほう?」


 俺は言われた通り、マグノリアからもらったナイフの刃をアルバイリスに当て、ひっかいてみる。

 あの巨大なタガネの刃が通らなくて、こんな薄いナイフの刃が通るとは思えないが――そう考えていたが。


「――傷ついた」


 アルバイリスには灰色の引っかき傷が浮かび上がる。


「あぁ、アルバイリスはかなり柔らかい。それこそ、鉄や鋼のようなメジャーな金属でも容易に傷がつく」


「何? だが、さっきは鉄や鋼は通用しないと……」


「あぁ。通用しない。――ヴィトルム、思い切りアルバイリスにその刃を突き立ててもらえないか?」


「……まぁ、わかった」


 要領を得ないが――なにか意味があるに違いない。試してみよう。

 そう思い、ナイフを手に取り勢いよく、アルバイリスに振り下ろしてみると。



 ――ガギィィイインッ!



 ナイフは甲高い音を立てて、アルバイリスにぶつかったかと思うと、衝撃でナイフが割れる――!

 

「なっ、なに――ッ!?」


 先ほど引っ掻いた時は、硬めの粘土をひっかく感じだったのに――!?

 俺が振り下ろした一撃は、まるで分厚い金属の塊のような硬く重たいものによって受け止められ――そして弾かれた。


「アルバイリスは、表面はとても柔らかい。しかし、芯はとても硬く――特に衝撃を受けると凄まじい硬度を発揮する。たとえていうなら、生き物のように表面は柔らかい皮膚だが、内部は硬い骨がある――そんな感じだ」


「……そんな金属があるとは」


 少し違うかもしれないが、ダイラタンシーを思い出した。

 普段は水の性質を持つが、衝撃を受けると硬化するという――。


(……いや、待て)


 ふと、俺はあることに気づいた。


「――なぜ、タガネの傷がない?」


 そう、ナイフで傷がつくほどアルバイリスは柔らかい。

 ならば、タガネはもっと刃が太く、それにタガネ自体も大きい。アルバイリスは現時点でここにあるものしかないはずだ。となると、傷がないのはおかしい。


「さすが、ヴィトルム。ふふ……気づいたか」


 俺の疑問に、マグノリアが笑って答える。

 まさか――!


 俺は、先ほどナイフで傷つけた箇所を探してみるが――。


「なくなっている……!?」


「そう、アルバイリスには自動修復機能があることもわかった。表面は柔らかく変形しやすいが、自動的に傷が補修され元に戻る。硬化した時の形を思い出し、アルバイリス自身がその形に収まろうとするんだ。受けた衝撃はおそらく変形したり魔力として逃がすことで破壊されないように振る舞おうとしていると考えられる」


 形状記憶合金――というやつか。

 いや、それにしてはかなり『アイリス』ライクというかなんというかだが……。


「総合して、アルバイリスは最高の防御性能を誇る。ただ、一方で柔らかく非常に重たい。――つまり」


「防壁には最適――しかし、武器には向かない、というわけか」


「そうなる。質量兵器にするのもな、正直もっと適任はいるだろう」


 なるほど――これはかなり防御寄りな合金だ。

 とはいえ、目的にはそれで問題はないといえばないのだが……。


「ただ、防壁を作るのも少し難しさはある。アルバイリスは一度硬化すると、熱の影響もまともに受けなくなってしまう。大型化はもしかすると少し難しいかも知れない」


「大型化か……」


 防壁ということを考えれば、巨大なパネルにして防壁に重ねられるのが一番だが……。

 まぁ、ウォール・ゴーレムも高くも設定しているし、あのサイズのパネルを一度に作るのは元から不可能ではあった。

 そう考えれば一枚のパネルの大きさは小さくして、ウォール・ゴーレムに張り合わせるのがベスト――。


(……ゴーレム)


 ウォール・ゴーレムは俺が勝手に呼んでいるだけで、種族はサンド・ゴーレムだ。体は基本的に砂で構成されている。

 そして、彼らにアイテムを渡すと、そのアイテムは体の中に収納していることがある。

 モンスターカウンターを持たせたクロゴがそうだった。


 あるいは――。


「……ウォール・ゴーレム!」


 ――ゴゴ。


 俺の言葉に、小さく反応するウォール・ゴーレム。


「このアルバイリス、少し借りるぞ」


「えっ? あっ、あぁ。……一体、何を?」


「実験だ。――受け取れッ!」


 俺は手に取ったアルバイリスをウォール・ゴーレムに投げつける。

 たしかに、これは重い。見た目は手のひらにも満たないが――まるでレンガのようにずっしりと来る。

 俺の手から放たれたアルバイリスは、やがて――。


「なっ、土の壁の中に吸い込まれた……! ヴィトルム、キミは何を考え――」


「ウォール・ゴーレム、それを防御に使えッ! ――行くぞ!」


 ――ゴ、ゴゴ。


 俺は先ほど折れたナイフを手に取り、ウォール・ゴーレムに飛び込んで行く。

 勢いよく、俺は振り上げたナイフをウォール・ゴーレムの体に振り下ろす――。


 ――ガギィィンッ!


 ナイフの一撃は、なにか硬いものに阻まれる。

 

「なっ――!? か、壁からアルバイリスが生えてきた……!?」


 俺のナイフの一撃は、ウォール・ゴーレムの体から飛び出たアルバイリスの延べ棒によって防がれていた。

 

(やはり――!)


 サンド・ゴーレムの体は変幻自在。そして、砂の体にはどこに何を移動させるかも自由。

 つまり、的確に体の中にあるアルバイリスを移動させることができれば、ウォール・ゴーレムは盾を扱うように、敵の攻撃を防ぐことができる――。


「こいつらはゴーレムだ。一度に作れるアルバイリスの量はまだ小さくとも――数を揃え、的確に攻撃箇所に移動させることができれば、結果としてアルバイリスの壁と同じ防御力になる。――そして、コイツらにはその制御ができる」


「なっ、なるほど……! たしかに小型のシールドを並べることができれば、衝撃吸収能力も上がる! それに、これなら――数が揃わない内でも十分に防御力が発揮できる。非常に合理的だ……!」


 マグノリアがウォール・ゴーレムに近づき、ふんふんと鼻を鳴らす。

 そして。


「よし、ヴィトルム! そうとなれば――!」


 目をキラキラと輝かせながらこちらに問いかけてくるマグノリア。

 その続きは、言わずともわかる。

 きっと、彼女も形にしたくてしょうがないのだろう。それは俺も同じ。


「あぁ、もちろんアルバイリスの増産を。――完成すればブラズニールの防壁は、世界で最強の防壁となる」


 体にのしかかっていた疲れも、出口も見つけ、少し軽やかになったような気がする。

 すでに、ウォール・ゴーレムは展開済み。となれば、あとは最硬の防壁都市に向かうだけだ。


(……ただ、倒れないようにしないとな)


 俺は小さく笑い――工房に向かった。






 ――ギロリ。


 ウォール・ゴーレムの上にたたずむ黒いコウモリ。

 その青いレンズはかなたの景色をじっと見つめる。


 そうして、しばしその景色を眺めていたと思うと――そのコウモリ、クロゴは主であるヴィトルムを追い飛び去っていった。

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