第25話 交流

「――よし。これだけあれば、かなり対策も進む」


 さすがにホーリー・ランタンを商品化しようというだけあって、かなりの量だ。

 正直、これを使い切るほうが難しいだろう。

 対アンデッドに対して、これほど心強いこともない。

 

「ほほ……この数のディバイン・リーフを集めるのはなかなか苦労いたしましたぞ」


「あぁ、これは見事という他ない。よくやってくれたな」


「いえいえ、顧客の願いに応えるが商人というものですから」


 商魂たくましい、とはよくいったものだが。

 しかし、今この危険な状態でもしっかりと商売をしてくれるからこそ、繋がるものもある。

 案外、この街を救うのはこの商魂たくましいイゼデン――とすら言えるのかも知れない。

 と、俺が感心していた時。


「では! 約束通り! ホーリーランタンを! お願いいたします!! いっぱい!!」


「わ、わかった。もちろん、約束だからな。やっておく」


 イゼデンの暑苦しい顔が迫ってきた。

 もう少し、この圧だけはなんとかならないものかな……。


「しかし、こうモンスターが活性化する中、よく来てくれたものだ」


「あぁ、それについては以前、ヴィトルム様からいただきましたホーリーランタンでかなり襲われることは減りましたな」


「とはいえ、ゼロではあるまい?」


「えぇ。まぁなので、私もこの街までは護衛を雇いました。帰りについてはホーリーランタンが山ほどいただける予定なので、あくまでこの街にたどり着くまでですが」


 デクラウスと会話していたイゼデンがちらっとこちらをみる。

 だいぶ圧を感じる……。

 まぁ、ホーリーランタンも実際スタンピードの対策には有効だ。作った内のいくつかは俺達のほうで使っても良いという話になったし、さっそく作ってしまうとするか。


「――それでは、錬金に行ってくる」



   *



「……ふぅ、さすがにこれだけ作ると結構疲れるな」


 馬車の中には、大量のホーリーランタンやら聖水やら何やら。

 対アンデッドのアイテムがひたすらに溢れかえっている。これを襲うゴーストは相当な勇者だろう。

 一応、イゼデン用のホーリーランタンもいくつか作っておいた。


「――うん、エンチャントもいくつか載ってるな」


 馬車の中のアイテムはいくつかは、キラキラと光っておりエンチャントが載っていることが確認できる。

 ホーリーランタンなんかは効果範囲が広がるし、聖水は対アンデッドに対して大きなダメージを与えうるダメージリソースとなりうる。


「――シロゴ! クロゴ!」


 ――ズズ、ズ!

 ――ジ、ジジ。


 馬車の中にいたゴーレムたちが反応する。


「シロゴ、お前はここにある聖水を町の入口に撒いてきてくれ。クロゴ、お前はモンスターカウンターを持って、外の調査に」


 ――ズズ!

 ――ジジ。


 二体のゴーレムがそれぞれのアイテムを持って、馬車の外へ。

 町の入口に、聖水を撒いておけば侵入してくるアンデッドを減らせる。そして、モンスターカウンターで計測すればある程度中心地も割り出せるはず。


「……よし」


 デクラウスの持ってきた地図を広げる。

 このハルティバの街の近くで、大量のモンスターが潜伏できる場所は限られている。


 それは、北東方角に広がる森林地帯――。


「バリケードを作るとするなら、北東か……」


 ハーマンのこともあるので、街の入口に作れないのは少々やりづらいといえばやりづらいが、それでもそもそも戦場はハルティバから離したいのも事実だ。

 とすれば、まぁハーマンの話がなかったとしても、似たようなポイントを陣取っていた可能性が高かったかもしれない。


「……そうだ、バリケードの前に一つやっておかないとな」


 今話したのは、あくまで外の守り。

 しかし、現状の街がどうなっているかは確認しておく必要がある。


(……まぁ、ハーマンも別に壊れた部分を補修したりする分には文句は言わないだろう、きっと)


 そんな事を思いながら、聖水をいくつか腰に差し、馬車を降りた。



  *



「――【シェイプ】!」


 壊れた石の壁を、【シェイプ】を発動し補修していく。

 転がっていた欠片が、時間が逆巻くように自ら崩れた場所に収まっていく姿はなかなか面白い。


「……どれ」


 補修した部分を小突いてみるが、崩れる様子はない。


(――どうやら、【シェイプ】の性能もだいぶ上がってきているみたいだな)


 最初実験した時は、ほんの少し指で押しただけですぐに砂のかたまりも崩れてしまったものだが。

 今は、そこそこの衝撃なら耐えられるほどに頑丈になっている。


(これもゴーレムの影響か……あるいは、【シェイプ】自体が成長してきたか)


 【シェイプ】も成長し続けるスキルではある。

 最近の錬金術の多用で、俺の錬金術を扱うエネルギー自体が高まっている可能性もあるかもしれない。


「えっ……!?」


 後ろから、女性の声が聞こえてくる。

 しまった、怪しまれたか……?


「ああいや、これは――」


「すごい! 直ってる!! キミが直したの?」


「ん? あ、あぁ……。まぁ、ある程度簡単に、だが」


「すごいわっ! さっき歩いてたら壊れた場所がいつの間にか直っていたのを見たんだけど! キミのおかげだったのね!」


 手をパンと叩き、喜びの声を上げる女性。

 よほど嬉しかったのか、かなり声が大きい。その声はあっという間に周囲に響き渡り。


「なんだ?」


「この子が街の壊れた場所を直して回ってくれてるの!」


「なんと! それは本当か! おぉ……たしかに直っている! とすると、もしや道がきれいになっていたのも……」


「ん? ちょっと、何の騒ぎー?」


 みるみる人が集まり、黒山の人だかりとなってしまう。

 しまったな、まさかこんなことになるとは……。ひっそりと抜け出してしまおうかと思ったが、すでに道は完全に塞がれてしまっている。


 ……どうしたものかな。


「ところで、キミは何者なの? ハルティバの人じゃないよね?」


「ん? あ、あぁ」


 まぁ、この流れになれば、当然聞くことになるか。

 しかし、正直騎士団のいざこざやらハーマンのこともあって、「アルトラス家のヴィトルムです」とバカ正直に答えるのはリスクだろう。

 まぁ、別になにかまずいことをしたわけでもないが、あんな状態だ。悪しざまに解釈されると非常に話が面倒になる。


 ……さて、どう答えたものか。



「――俺は、ヴィーノ。まぁ、大工見習いだ」



 我ながら、もう少しうまい誤魔化し方はなかったかな、と思う。


「……大工? 今の大工って道具なしにできるのね」


 さすがに、『アイリス』でも道具を使う大工が基本だと思う。

 ちょっとさすがに、口からでまかせを言い過ぎたかな……。


 と、その時。ある考えが降ってきた。

 ――どうせ、こうしてでたらめを話してしまったのなら。


「実を言うと、大工の修行の一貫で作ったものがあるんだ。まだ、俺は見習いだから売ることは出来ないんだが、みんな良かったらもらってくれないか?」



「ホーリーランタン。師匠ほど、いい出来ではないかもしれないけど、自分ではうまくやったと思うんだ」


 馬車の中から大量のホーリーランタンを抱えて、人だかりの前に見せてみる。

 ……もちろん、師匠なんていない。こうなってくると、もはやペラペラとありもしないことが口から流れてくる。

 100%嘘。多分きっと、俺は詐欺師には向いていないだろう。


「わぁ……! きれいな模様! 本当にもらっていいの?」


「あ、あぁ。たくさん作りすぎてしまったからな。これだけあるのに誰も使ってくれないのはさみしくて」


 まぁ、イゼデンに売り物としてわたす分を相当作っているから、数は相当なものだ。

 ディバイン・リーフ的にもまだまだストックはある。

 この人だかりに捌いてしまっても、まだまだ作れるだけの量はある。


「じゃ、じゃあ! 俺も欲しい!」


「ワシもじゃ! ちょうど、使ってるランタンが壊れてしまっての……!」


「わかった、一人ずつちゃんとわたしていくから、きちんと列になって並んでくれ」


 ホーリーランタンは、アンデッドの認識を阻害する効果がある。

 街の人がこれだけ持っていれば、いざスタンピードになってもホーリーランタンの認識阻害で逃げる時間を稼ぐことができるはずだ。

 それに、街の中で戦闘が起こったとしてもやりやすくなるだろう。


 俺は一人一人に、ホーリーランタンを手渡していく。

 数にして、数十人ほど。なんだか、気がつけば最初の集団より増えている気がするが、ホーリーランタンを手渡しているうちに自分ももらおう、という人が更に増えたようだった。


「――ありがとう! 大切に使わせてもらうよ!」


 最後の男性が手を振って帰っていく。

 そんなこんなで最後の一つをきちんと捌き切る。

 ……これだけの人の手に渡れば、かなり街全体がホーリーランタンの灯りで覆い尽くされるはずだ。


「……ふぅ、これで街の中は終わりだな」


 予想外に、街の中の守りを固めることが出来た。

 正直、街灯をホーリーランタンに変えてやろうとでも思ってはいたが、さすがに街の景観をいじると反発を受けかねないのでやらずにいたのだが、こういう形でうまく渡すことができるとは。

 と、その時。


「ほほう、ヴィトルム様に、大工の憧れがあったとは」


 物陰から、デクラウスが茶化しながら現れる。


「フッ……。まぁ、それも案外悪くはないのかもな」


 俺も軽く笑ってデクラウスに返す。


 ……これで、いよいよ残るのは街の外のバリケード。

 それが終わる頃には、おそらくスタンピードがやってくるはずだ。


 ――スタンピードは近い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る