ファイナル筋肉ファンタジー~屈強なマゾヒストにヒーラーはご褒美です~

穴の空いた靴下

第1話 超回復

 生きるためには戦わなければいけない。

 戦うためには力がいる。

 魔法が存在するこの世界においても、肉体的な力は必須であった。

 魔物は人間よりも巧みに魔法を扱い、脆弱な魔法を跳ね返すからだ。

 やはり物理、力は全てを解決する。

 人間たちは己の肉体を鍛え上げ、今日も戦いへと赴くのであった……


「おいっ! ササッと治せよ!」


「す、すみません!」


 黒髪の青年が手を添えると淡い魔力の光が男性の太ももの傷を包み込む。

 長剣には魔物の血がべっとりとつき、鎧にも返り血が跳ねている。その血の匂いにすこし気分を崩しながらも必死に回復魔法をかけていく。

 

「ぐうっ、痛え……」


「すみません、すみません」


 回復魔法は対象者の回復力に干渉し傷口を治癒していく、そのためゆっくりじっくりと傷が盛り上がって塞がっていく。


「があ、遅いし痛えし、ポーションより役に立たねぇじゃねーか!」


「すみません!」


 一方で回復ポーションは体内に取り込んだ回復薬が傷口を補填するように治すために痛みもなく治療が早い。この世界での傷の回復に魔法ではなくポーションが用いられる理由がそれであった。

 それでも傷口はゆっくりと塞がっていく。

 しかし、多くのゴブリンが攻め立ててきて前衛の開いた穴をカバーしている他の冒険者にその回復の時間はしわ寄せが来る。


「早くしてくれ! 敵の数が多いっ!」


「わかってる! おいっ! まだか!」


「あと少しです! すみません! ……大丈夫です!!」


「よし、わりぃ!! 遅れた!!」


 魔物たちを抑えている仲間のもとへ合流していく男性の背中を見送る青年。

 それからは一気に敵を押し返しゴブリンを殲滅していく。


「……俺に戦う力があれば……」


 剣と盾を持って魔物たちと勇敢に戦う戦士たちを羨望の眼差しで見つめる青年の名はテリル=ライオネル。回復魔法使いだ。

 この世界における回復魔法使いは……戦場ではお荷物扱いだった。

 街で冒険者が集う場所に滞在して、ポーションを買えない層を相手に小銭を稼ぐ所謂不遇職という立場に有る。

 ただ、魔力を持ち回復魔法に適正がある者は少ないため、希少では有る。

 戦いに向いていない回復職でもテリルは冒険に強いあこがれを持ち、出来ることなら今回のように共に冒険の旅に出たいと考えていた。


 しかし……


「ポーション代の節約になると思ったら、とんだ役立たずだった!」


「だから言ったじゃないの、回復魔法なんて役に立たないって」


「実際に見たことも受けたこともないから知らなかったんだよ!

 お前、今回の報酬はこれでいいよな」


 チャリンと数枚の銀貨がテーブルに放り投げられる。

 それは冒険者の集う場所で回復魔法を数回かける程度のあまりにも少ない報酬だった。


「魔物一匹も倒せないくせに皆と同じ報酬をもらおうなんて言い出さないよな!?」


 身体も大きく強い口調の男の言うことにテリルは言い返すことなど出来なかった。


「は、はい、これでいいです……すみません……」


「ちっ……ただのゴブリン退治がとんだ手間になっちまったぜ!」


「ってことで、ごめんねー、パーティは今回限りってことで」


「指定席で小銭稼いでろよ、あーあ、とんだ期待外れだぜ!!」


 回復職は冒険者ギルドの端っこに座って客を取る。その物陰を指定席と揶揄するものもいた。


 テリルはトボトボと冒険者ギルドを後にする、回復術者の役立たずがまた追い出された。他の冒険者の今日の酒の肴になるだろうどこの街でも起きているありふれた物語だ。しかし、テリルにとっての変化は突然訪れた。

 

「すまない!! 回復術を使える者はいるか!?」


 バーンっ! とギルド内に響くほどの音を立てて開け放たれた扉から大きな影が入ってきた。それが人を抱えた人、そしてふたりとも巨躯の人物であることがギルドの灯りに照らされてわかる。


「ポーション中毒が出てしまったんだ! 頼む、回復術を!!」


「あ、あの、ぼ、僕ができます」


「ありがたい!! 礼はする!! 頼む、バステッドを助けてやってくれ!」


「は、はいっ! こ、これは酷い……」


 寝かせられた人物には大きなキズが左の肩口から横腹に抜けて巻かれた布から滴るほどの出血をしている。分厚い筋肉が内蔵を吐き出さずに絶えているが、このままでは危険な状態なのはひと目で分かる。身体はビクビクと痙攣しており、傷だけではなくポーション中毒による痙攣だとテリルは判断した。


「行きます! 内なる癒やしの力よ彼の者の傷を癒やし給え……回復術・序。

 続けて、高鳴れ癒やしの力、命を救う手となりて、傷を直し給え……回復術・なか、重ねて、奇跡を請う、人を救い、命を救え、傷を癒せ! 回復術・きわめ!!」


「さ、三段詠唱……!」


「初めて見たぞ、あいつ、なんて使い手だ!」


「ぐわっ!! ぐっふーーー!!」


「だ、大丈夫かバステッド!!」


 傷口がミチミチと音をたてながら塞がっていく、それと同時にバステッドは苦悶の表情で身を捩らせている。


「あの傷だ、相当な痛みだろう……ポーション中毒とはついていない……」


 ポーションは非常に素晴らしい物だが、使いすぎや状態によって拒絶反応を起こすことがある。身体が痙攣し受け付けなくなる。これをポーション中毒と呼ぶ。

 こうなると傷を癒す方法は回復魔法しか無くなる。


「これだけ傷が大きいと悪しき物が入る可能性があるので、さらに行きます。

 汚れよ、不浄なるもの、彼の肉体から去り給え……解毒術・中」


「ぐっはー! ぬはーはー!」


「バステッド-!! がんばれー!!」


 傷口から黒い粘液のようなものが滲み出しそして魔法の光で霧散していく。

 傷が塞がってから内部で膿が溜まることがポーションでの治療ではたまに起こる。

 これを防ぐには解毒剤や薬草などを利用するのだが、回復術はより強力にそれらの要素を除外することができる。

 出血が消え、そして傷も埋まる、皮膚が閉じてまるで傷がなかったかのようにキレイな肌に戻っていく。ポーションにおける最大の弊害は大きな傷の瘢痕化、傷が無理やり治ることによる古傷になることだが、回復術は苦痛は伴うがそれがない。

 回復術は、非常に優れた魔法なのだ。

 苦痛が伴わなければ……


「はーはーはー……こ、ここは?」


「バステッド!! 目が覚めたか!!」


「ハチューじゃねーか……デスライオネルはどうした!?」


「ああ、お前があの一撃を防いでくれたお陰で倒せた。

 他の奴らが裏の解体所に運んでいる。

 良かったなぁ……! お前死ぬとこだったぞ!」


「そ、そうだったのか……まるで上質なトレーニングを終えたような清々しさ、これが生まれ変わったってやつか……」


「こちらの回復術師様がいなければお前死んでたんだぞ、ああそうだ、回復術師様俺の友を救ってくれてありがとうございます!

 お支払いいたします、おいくらお払いすれば?」


 バステッドの生還を涙を流しながら喜んでいる同じくはち切れんばかりの筋肉の男はその身体に似合わず丁寧にテリルに接する。こんな扱いを受けたことがなかったテリルは喜びから思わず涙が溢れてしまった。


「こ、これは回復術師様なにか無礼でもはたらきましたか?

 も、申し訳ない……」


「ちがっ、違うんです……嬉しくて、人の役にたてたことが……」


「回復術師様!! 俺の命を救ってくれて、ありがとうございます!!」


「うわーーーーん!! 良かったよ---!!」


 そのまま男3人ギルドの一角で大粒のナミダを流すのであった。



 テリルの冒険者としての人生は、ミチミチと音をたててパンプアップし始めるのであった……

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