第10話 工房の日常と最初の来訪者:ルナリア姫
工房が完成して数日。ミオの工房は、王都の「風薫る丘」に、まるで絵本の中から飛び出してきたみたいに建っとる。
石造りの壁は太陽の光を浴びてきらめき、屋根の煙突からは、焼きたてパンの香ばしい匂いが漂ってくる。工房の周りには、ミオが植えた珍しいハーブが風に揺れ、心地よい香りを運んでくるんや。
工房の中は、言うまでもなく最高や。
自動給湯魔法風呂はいつでも温かい湯が出るし、魔法水洗トイレは清潔そのもの。湯気一つ立たへんから、掃除も楽ちんや。
魔法電子レンジで冷めた料理も瞬時に温められるし、魔力式空調装置で年中快適や。真夏の暑い日でも、工房の中はいつでも春みたいに過ごしやすかったんや。
(完璧やん!これぞ、うちが夢見てた引きこもりライフやで!)
ミオは、ふかふかのソファに埋もれて、焼きたてパンをモグモグしながら、至福の時を過ごしていた。
周囲では、色とりどりの資材スライムたちが「ぷるぷる~♪」と楽しそうに跳ね回っている。
茶色のスライムは、庭の木をかじって木材を生産しているし、銀色のスライムは、地中から掘り出した鉱石を精錬済みのインゴットに変えている。
時々、ミオが「ねー、ちょっと鉄ちょうだい」と声をかけると、銀色のスライムが「ぷる♪」とお腹からインゴットをポロンと出してくれた。まるで、おもちゃのブロックで遊んでいるみたいやったわ。
(あー……平和やわぁ……)
ミオは、スライムが幸せそうやったら、自分も幸せな気持ちになった。
「ミオさん!お昼ご飯ですよ!」
フィオナの声が響く。
冒険者パーティ「暁の剣」は、ミオの工房を拠点にして活動していた。
ライオスとシエラは、工房に必要な希少素材を求めてダンジョンへ出かけているんや。最近は、ミオが作ってくれた高性能な武器のおかげで、以前は苦戦してたBランクの魔物も、サクッと倒せるようになってきたらしい。
フィオナは、工房の管理や、ミオの身の回りの世話をしてくれている。朝には、工房の周りのハーブを摘んで、淹れたてのハーブティーを用意してくれるんや。
(ほんま、みんな優しいなぁ……。こんな楽園、誰にも教えたくないわぁ)
ミオは、ご満悦やった。
その日の午後。
工房の自動検知システムが、来訪者を知らせた。ピピッと、小さな音を立てる。
「えぇ~?誰やろ?まさか、もうバルトロはんの差し金とか!?」
ミオは、慌ててソファの陰に身を隠そうとした。引きこもりたいミオにとって、突然の来客は最大の敵や。
やけど、工房の扉が開いて現れたんは、見慣れない人物やったわ。
薄紫色の髪に、大きな瞳。どこか人間離れした、端正な顔立ち。肌は陶器みたいに白い。
黒を基調とした、優雅な衣装をまとっている。腰には、見たこともない細工が施された剣が下げられていた。
その頭には、小さな角が二本、ちょこんと生えていたんや。
「もしや、ここが『眠りの魔女の工房』か?」
透き通るような、しかしどこか幼さを残した声が響く。
魔族や。
魔族の姫君、ルナリアがお忍びで工房を訪れたんや。彼女の目は、好奇心でいっぱいやった。
ミオは、ソファの陰からそっと顔を出す。
「え、あ、はい……そやけど、何の御用で……?」
ルナリアは、ミオの姿を見ると、目を輝かせた。
その視線は、ミオではなく、ミオの手元にあった、食べかけの『異世界風味のロールケーキ』に釘付けやった。ロールケーキからは、甘い香りがふんわりと漂ってくる。
「ああ、それだ!噂に聞く、この工房の『絶品スイーツ』!」
ルナリアは、目を爛々と輝かせながら、ミオに駆け寄った。その勢いに、ミオはちょっと後ずさりしたわ。
魔族の姫君が、絶品スイーツに釣られて工房を訪れるなんて、ミオは想像もしとらんかったんや。
「そのロールケーキ!ぜひ、私に分けてはくれぬか!?」
ルナリアは、瞳を潤ませながらミオを見つめる。まるで、お腹を空かせた小動物みたいや。
その熱烈な眼差しに、ミオはたじたじや。
「え、あ、はい、どうぞ……」
ミオが差し出したロールケーキを、ルナリアは一瞬で平らげた。一口食べた途端、その瞳がさらに大きく見開かれる。
「な、なんという甘美な味……!これこそ、魔族の至宝に相応しい!」
ルナリアは、感動に打ち震える。そのリアクションに、ミオはちょっと引いたわ。
(いや、ロールケーキやで?そんな大袈裟な……でも、こんなに喜んでくれるんやったら、まあええか!)
自分の作ったもので、こんなにも喜んでくれる人がいるのは、悪い気はせえへんかった。
「もしかして、うちの工房に来たんは、これ目的やったん?」
ミオが聞くと、ルナリアは素直に頷いた。
「もちろんだ!この甘い香りに誘われて、はるばるやってきたのだ!それに、お主の工房の噂は、魔族の里でも有名だぞ!『食べると幸せになるパン』や『寝顔で癒される魔女』、それに『ぷるぷる光る不思議な生き物』の話も聞いてるぞ!」
ルナリアは、工房の隅でぷるぷる跳ね回る資材スライムにも目を輝かせた。
その後も、ルナリアはミオの工房に入り浸るようになる。
ミオが作る『魔力プリン』や『七色クッキー』、『幻のベリータルト』など、工房の絶品スイーツの数々に、ルナリアは完全に虜になったんや。
資材スライムたちも、ルナリアが珍しがり、一緒に遊ぼうとするが、スライムたちは「素材を食べる専門なので……」と困惑。ルナリアが「あ、この黒い石、食べられる?」と魔石スライムに魔石を食べさせようとして、ミオが慌てて止める、なんて一幕もあったわ。
平和な工房の日常に、魔族の姫君という新たなドタバタ要素が加わったんやな。
ミオは、「ま、いっか、可愛いし」と、今日も資材スライムをモフモフするのであった。
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次回予告
王都を賑わすうちの工房に、依頼が殺到!?
引きこもりたいのに、毎日大忙しやん!
魔族の姫君ルナリアはんの悩みも、うちのチート能力でサクッと解決できるんやろか!?
王族まで動き出す、うちの工房の噂とは!?
次回、チート生産? まさかの農奴スタート! でも私、寝落ちする系魔女なんですけど!?
第11話 工房への依頼殺到とルナリアの悩み
お楽しみに!
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