第37話〜一夜明けて〜

「ん、んん···」


目を覚まし節々が痛む身体を起こし周囲を見渡す


「ここは···」


鼻に香るのは消毒液の匂いと湿布の痛烈な臭い、右掌や臀部に感じるのはベッドの柔らかさ、目に飛び込んでくる朝焼けの光、そして左手に感じる人の温もり


「スー···スー···」


左手の方を見やれば手を握って眠っているシノ、更に視線を床に落として行くと雑魚寝しているドッグランナーの面々


ガチャリという音と共に扉が開かれ顔を出すのはユカリさん


「おー、やっと目が覚めましたかー」


「ユカリさん?と言うことはここは」


「はいー、冒険者ギルドの医務室ですよー、あの【雷狼決死線】の後サハラさんは一昼夜眠ってたんですよー」


「一昼夜も!?」


と、ちょっと大声を出したらシノが身動ぎしたので慌てて口を押さえる


「ふふー、ドッグランナーの皆さんは目を覚まさないサハラさんの看病をしていましたよー」


「なるほど···とりあえずライトニングウルフを討伐してぶっ倒れた所までは覚えてるんですが···」


「精神の摩耗ですねー、常時最高レベルで気を張って命のやりとりをしていたから、まだ冒険者なりたてレベルのサハラさんの精神が持たなかったんですー」


「で、討伐した瞬間張ってた気がプツッと切れて一気に疲労が来てぶっ倒れそのまま一昼夜眠ってた、と」


「その通りですー、あ、サハラさんの武器のルーキーディフェンダーはテナガザルに預けてありますーライトニングウルフに噛まれたうえ電気を帯びた血液を受け止めていたのでもう元の形が分からないレベルでボロボロでしたのでー」


「ああ、なるほど···シチズンさんにどやされそうだなぁ···」


「ふふ、怒られるのも命があったからですよー」


「ん、んゆ···」


「おや、シノちゃんが起きそうですねー、私はここらでお暇しますねー」


「はーい」


と、またガチャリと扉を閉めた瞬間シノの緑色の目が開かれる


「ふぁ···あふ···」


「おはよう、シノ」


「んん···おはよう、ツルギ···」


グーッと伸びをし息を吐き1回こっちを見てもう一度伸びをして···意識がはっきりしたのかバッとこちらに向き直るシノ


「ツルギ!目が覚めたんだ!」


と、向き直った勢いそのままこちらに抱きついてくるシノ


「アタタタ···!強い!シノ、強い!」


「えっ、あっ、ごめん···じゃなくて!目を覚ましたんなら声をかけなさいよ!」


「と、とりあえず落ち着いて声落として、まだ他の3人寝てる」


「え!?あっ···」


バッと、口を押さえるシノ雑魚寝中の他の面々が目を覚ましてないのを確認してから一度大きく息を吐いた


「えーと、心配かけてごめん···じゃなくて看病してくれてありがとうかな、この場合」


「もう、どっちでも良いわよ···良かった、目を覚まして···」


ふにゃふにゃと椅子に座り直し改めて力を加減して抱きしめてくるシノ


「···湿布臭い」


「それは俺じゃなくて貼った医者に言ってくれ」


「···ライトニングウルフに向かって駆け出した貴方を見てもう帰ってこないかと思った」


「それは、あれだな、心配かけてごめんだ」


「でも、その背中に私【達】は脳焼かれた」


「お、おう···ん?私【達】?」


「つまり、何が言いたいかと言うと」


「言うと···?」


「私達全員貴方に惚れた」


「お、おう···ありがとう···で、良いのか?これ」


「そして、差し迫った問題もある」


「問題···?」


「私達、そろそろ繁殖期」


「そう、はんしょ···繁殖!?」


「ばっ、声が大きい···で、獣人の女性が男性に繁殖の時期を教える意味は分かる?」


「わ、分かんない···」


「プロポーズと同義よ、ある意味乙女の深淵を覗かせたからね、ああ、まだ応えなくて大丈夫よ、私達まだ知り合って1ヶ月程しか経ってないしね」


「お、おう」


「まだ、私達ドッグランナーと一緒に依頼を受けてくれる気があるならありがたいけどどう?」


「それは、勿論これからも一緒に受ける気だけど」


「そ、なら、覚悟しておきなさい、私達は全力で貴方と向き合って惚れさせるから···言ってて恥ずかしくなってきた···ほら、目を覚ましたんならちょっと顔でも洗ってきなさい」


「お、おう、分かった」


痛む身体でのっそりと立ち上がり医務室の外に行く扉を開けチラリと見たシノの耳は真っ赤になっていた



【シノ視点】


バタンと扉を閉めた音を聞いて今更恥ずかしくなってベッドに顔を突っ伏せる


「言っちゃった言っちゃった言っちゃった···」


今鏡を見たら真っ赤になった顔が映るだろう、それに


「聞いてたでしょ、ルビー、レン、パチュ」


と、言う言葉に釣られる様にムクッと起き上がる面々


「いやー···大胆っすねシノ」


「途中で目を覚ましたんなら言いなさいよ、全部私に説明させて···」


「いやー、いい雰囲気だったから邪魔しちゃいけないかなって」


と言うルビーの言葉を肯定する様にコクコクと首を縦に振るパチュ


「もう···これで、私達は一蓮托生だからね」


「誰が1番にツルギさんを惚れさせるかの勝負、だね、負けないよ!」


ムンッと身体の前で腕を振るルビー


「まあ、私は1番2番に興味は無いけど惚れさせる為の努力は欠かさない」


と、静かに主張するパチュ


「ん〜、アタシみたいなガサツな女の子ってツルギの好みなんすかね〜?まあ、やるからには全力っすけど」


ヘラヘラと笑いながら自虐しつつ全力を出すという宣言をするレイ


「じゃあ、皆、頑張ろう」


「うん!頑張ろうね!」


エイエイオーと結束を確かめた



【ツルギ視点】


は、入りにくい···

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