第一巻「トロイの灰と回帰の命運」


 トロイの城壁は赤々と燃え上がり、プリアモス王の壮麗な都は灰と化していた。イリオスの聖なる丘には、アカイア※の英雄たちが集い、血と汗にまみれた鎧が勝利の輝きを放ちつつ、十年にも及ぶ戦の重みを背負っていた。

※アカイア:古代ギリシャの地域名、現在のギリシャ共和国のペロポネソス半島北部


 空を裂くゼウスの雷鳴が響き、オリュンポスの神々は地上の混乱を注視していた。この戦争は、神々の意志と人間の欲望が絡み合った試練だった。


 アテナは知恵の瞳でオデュッセウスを見つめ、彼の狡智を愛しつつ、トロイの陥落を導いた自らの策に満足していた。


 ポセイドンは海の深淵で怒りを秘め、アカイアの船団が自らの領域を冒すことに不快感を抱いていた。


 ヘラはメネラオスとヘレンを守るため、トロイの滅亡を望み、その美貌を巡る争いが自らの威信に関わると考えていた。


 アポロンはトロイの守護者として敗北を悔やみ、捕虜カッサンドラを通じて人間に報復を企てていた。


 神々がトロイ戦争を注視したのは、単なる娯楽ではなく、宇宙の秩序と人間の運命を定めるための闘争だった。ゼウスは全能の父として、神々の対立を均衡させ、トロイの陥落を自らの意志と宣言していたが、その後の英雄たちの帰還には試練を課すことで、人間の傲慢を試そうとした。


 アテナはオデュッセウスを愛し、彼の知恵を高く評価したが、ポセイドンは彼がトロイの神聖な領域を冒したと非難した。ヘラはヘレンの美を自らの恩寵と見なし、彼女とメネラオスの再会を望んだが、アフロディーテはトロイのパリスを支援した過去を悔やみ、ヘレンに冷淡だった。


 アルテミスは、アガメムノンが戦の前に娘イフィゲネイアを犠牲にした罪を忘れず、彼の帰還に呪いをかけた。


 この複雑な神々の思惑が、オリュンポスでの会議を必然とした。ゼウスは雷鳴と共に神々を招集し、「トロイは陥ち、わが意志は果たされた。されど、英雄たちの帰還は試練に満ちる」と宣言した。神々の会議は、英雄たちの運命を定める天秤であり、その対立が地上に暗雲を投じた。


 アカイアの軍勢は浜辺で戦利品を分け合い、船の準備を急いでいた。トロイの金銀の器や織物は陽光にきらめき、捕虜たちの嘆きが響いた。しかし、勝利の喜びは束の間だった。神々の対立が嵐を呼び、カッサンドラの叫びがその象徴だった。


 彼女はアポロンの呪いを受け、トロイの滅亡とアガメムノンの死を予言したが、誰も信じなかった。アポロンは彼女を通じてアカイアに警告を発し、神々の怒りが英雄たちの帰還を阻むことを示した。


 アガメムノンはミケーネの栄光を夢見、オデュッセウスはイタケの岩岸を思い、メネラオスはヘレンの手を握りスパルタを望んだ。トロイの灰の中、帰還の旅が始まったが、神々の思惑が運命の嵐を呼び寄せていた。



 アトレウスの子アガメムノンは、アカイア軍の総大将として浜辺に立った。黄金の王笏を握り、威厳ある声で宣言した。「我らはトロイを打ち砕き、ゼウスの意志を果たした!戦利品を分け、故郷へ凱旋せん!」この言葉は、単なる勝利の宣言ではなかった。


 十年戦争の始まりは、ヘレンの奪還とアカイアの名誉だったが、アガメムノンは自らの指導力を神聖なものと位置づけ、ゼウスの加護を強調することで、部下の不満を抑え、団結を強めたかった。彼はトロイの陥落を、自身の王権とアカイアの覇権の証明と見なし、ミケーネでの栄誉を確信していた。


 戦士たちの歓声が響き、金銀の器や織物、捕虜の女性たちが船に積み込まれた。だが、アガメムノンの心は重かった。捕虜の中に、プリアモスの娘カッサンドラがいた。彼女はトロイの王女であり、アポロンから予言の能力を授かったが、彼の愛を拒んだため、予言を信じられない呪いを受けた。


 彼女の美貌は神々に匹敵し、瞳は炎のように燃えていた。「アトレウスの子よ、汝の栄光は血に染まる!ミケーネの宮殿は闇に沈む!」彼女の叫びは鋭く、アガメムノンの心に刺さった。


 彼はカッサンドラを戦利品として選び、ミケーネに連れ帰ることで自らの威信を高めようとしたが、彼女の予言は不吉な影を投じた。さらに、妻クリュタイメストラの冷たい視線が脳裏をよぎった。イフィゲネイアの犠牲以来、夫婦の絆は崩れ、ミケーネの宮殿には不穏な空気が漂っていた。カッサンドラの存在は、その不安を増幅させた。


「黙れ、カッサンドラ。お前の言葉は風に消えるだけだ」アガメムノンは冷たく言い放ち、船員たちの嘲笑が響いた。だが、アルテミスの風が不穏に吹き、帆を揺らした。アガメムノンは船団の準備を急がせたが、カッサンドラの叫びは彼の心に暗い予兆を刻んだ。



 ラエルテスの子オデュッセウスは、知恵深きイタケの王として船の舳先に立った。トロイの炎を背に、妻ペネロペと子テレマコスの面影を胸に刻んだ。彼はアガメムノンのアカイア軍主力とは別行動をとり、独自の船団でイタケへ向かった。


 オデュッセウスはアガメムノンの傲慢さに不信感を抱き、トロイ戦争中も独立した判断を重視していた。彼の狡智は木馬の計略でトロイを陥落させたが、それが神々の怒りを買う可能性を自覚していた。特に、ポセイドンはアカイアの勝利を海の冒涜と見なし、オデュッセウスの知恵を試す試練を課した。ポセイドンの怒りは、トロイの守護者アポロンと結びつき、オデュッセウスが神聖な領域を冒した報復だった。


「アテナよ、我を導きたまえ。イタケの岸へ還せ」オデュッセウスの祈りに、灰色の瞳を持つ女神が雲間から現れ、囁いた。「オデュッセウス、試練が汝を待つ。ポセイドンの怒りを恐れず、心を強く持て」アテナは彼の知恵を愛し、トロイ戦争での功績を称えたが、ポセイドンとの対立を避けられなかった。


 黒い船の船団が海へ漕ぎ出したが、ポセイドンの三叉の矛が海を揺らし、暗雲が空を覆った。波が船を叩き、帆が裂け、船員たちの叫びが響いた。「王よ、嵐だ!どうする!」一人が叫ぶと、オデュッセウスは舵を握り、冷静に答えた。「恐れるな。ゼウスの加護がある。我らは生き延びる!」彼の知恵と勇気が嵐の中で光った。遠くでアテナの梟が鳴き、希望の光を示した。イタケへの旅は始まったが、海神の試練が彼を待ち受けていた。



 アトレウスの子メネラオスは、ヘレンを伴いトロイの廃墟を後にした。ヘレンはスパルタの王妃であり、ゼウスとレダの娘として神々の美貌を授かった。彼女の誘拐がトロイ戦争の引き金だった。


 トロイのパリスに連れ去られたヘレンは、十年間トロイに留まり、アカイアとトロイの争いの中心にいた。彼女の美はアフロディーテの恩寵だったが、その美ゆえにトロイは滅び、彼女の心は悔恨に苛まれていた。


「メネラオス、私の罪がトロイを滅ぼし、汝の心を傷つけた。スパルタで許しを乞う」彼女の声は震えていた。メネラオスは愛と憎しみに揺れながら答えた。「ヘレン、過去は灰と共にあれ。スパルタで新たな日々を築こう」彼は彼女の手を握り、船に導いた。


 彼らの船はアカイアの艦隊と共に海を進んだが、ヘラの意志により、風は彼らをエジプトの遠い岸へと押しやった。ヘラはヘレンを自らの保護下に置き、彼女の美を神々の栄光と見なしていたが、トロイ戦争でのアフロディーテの介入を許した自らの失策を悔やみ、ヘレンとメネラオスの帰還に試練を課した。


 エジプトへの漂流は、ヘラが彼らの愛を試し、過去の罪を清算させるための試練だった。メネラオスは舳先に立ち、ゼウスに祈った。「全能の父よ、我らをスパルタへ導きたまえ」


 ヘレンは甲板でトロイの炎を思い出し、呟いた。「私の美は呪いだ。どこへ行っても試練が待つ」彼女の美は新たな騒動を呼び、異国の冒険が始まった。神々の視線が二人を見守り、帰還の道は険しかったが、希望は消えていなかった。



 プリアモスの娘カッサンドラは、アガメムノンの船に鎖で繋がれ、トロイの滅亡を嘆いた。彼女はアポロンから予言の能力を授かったが、彼の愛を拒んだため、予言を信じられない呪いを受けた。


 トロイの王女として、ヘクトルやパリスの姉として、彼女はトロイの栄光と崩壊を目の当たりにした。アガメムノンは彼女を戦利品として選び、ミケーネに連れ帰ることで自らの威信を高めようとしたが、彼女の予言は彼の心に不安を刻んだ。


「アトレウスの子よ、汝の妻は裏切る!剣が汝を待つ!」彼女の叫びは風に消え、船員たちは嘲笑した。「気狂い女め、黙れ!」だが、カッサンドラの心はヘクトルの死とアンドロマケの涙で満たされていた。


「お前の予言など、誰も信じん」アガメムノンは冷たく言い放った。だが、アルテミスの風が船を揺らし、暗い予兆が漂った。アルテミスはアガメムノンの過去の罪—イフィゲネイアの犠牲—を許さず、カッサンドラの予言を通じて彼に警告を発した。


 カッサンドラは絶望の中で呟いた。「トロイは灰となり、私の声も灰となる」彼女の予言は神々の遊びと化し、アカイアの船団は嵐の海を進んだ。トロイの滅亡は過去となり、ミケーネの悲劇が近づいていた。



 ピュロスの王ネストールは、老賢者としてトロイの浜辺で若者たちに助言を与えた。「アカイアの英雄たちよ、トロイの教訓を忘れるな。神々の意志に従い、故郷へ還れ」彼はトロイ戦争でオデュッセウスやディオメデスと共闘し、知恵と経験で彼らを導いた。オデュッセウスとは木馬の計略で信頼を築き、ディオメデスとは夜襲で絆を深めた。


 息子アンティロコスの死—パトロクロスの仇を討つ戦いでメムノンに討たれた—を悼みつつ、彼はピュロスへの帰還を準備した。アテナに祈り、二人の無事を願った。「女神よ、知恵深き者を守りたまえ」


 ピュロスの船は順風に乗り、ネストールの知恵が仲間を導いた。他の英雄たちの船が嵐に翻弄される中、ピュロス船団はアテナとゼウスの加護を受けた。ネストールは戦争中、神々に敬意を払い、過度な傲慢を避けたため、ポセイドンやアルテミスの怒りを免れた。


「父よ、俺たちはどうすればいい?」若い船員が尋ねると、ネストールは穏やかに答えた。「希望を持て。神々が見守っている」彼の言葉は若者に光を与え、トロイの戦訓を刻んだ。ネストールの心は平穏だったが、アカイア全体の運命を案じ、オリュンポスの神々に祈りを捧げた。ピュロスへの道は開けたが、旅の終わりはまだ見えなかった。



 アルゴスの英雄ディオメデスは、アテナの加護を受けた戦士としてトロイを後にした。彼はアガメムノンの艦隊と別れ、単独でアルゴスへ向かった。ディオメデスは独立心が強く、トロイ戦争中もオデュッセウスと夜襲を成功させるなど、独自の判断を重んじた。


 だが、ポセイドンの怒りが彼を襲った。ディオメデスはトロイの神聖な領域を冒し、特にアテナの敵であるアフロディーテを戦場で傷つけたことで、海神の不興を買った。ポセイドンはアカイアの勝利を海の冒涜と見なし、ディオメデスに試練を課した。


「アテナよ、俺をアルゴスの岸へ導け」ディオメデスの祈りに、アテナの声が響いた。「ディオメデス、汝の名は永遠に輝く」


 だが、ポセイドンの波が船を叩き、船員が叫んだ。「王よ、嵐だ!どうする?」ディオメデスは槍を握り、答えた。「恐れるな。俺たちは戦士だ。進むぞ!」


 しかし、彼の心には不安が芽生えていた。妻アイギアレイアの忠誠が揺らぎ、アルゴスの民が背く予感が彼を苛んだ。トロイ戦争の長期間の不在中、妻はアガメムノンの弟メネラオスの影響下で不満を抱き、民は新たな指導者を求める噂が立っていた。アテナの加護を信じつつ、彼は呟いた。「アルゴスに何が待つのか」試練を受け入れ、船を進めた。トロイの栄光は遠く、運命の試練が彼を待っていた。



 オリュンポスの雲間で、ゼウスは神々を招集した。雷鳴と共に、彼は宣言した。「トロイは陥ち、わが意志は果たされた。されど、英雄たちの帰還は試練に満ちる」ゼウスは宇宙の均衡を保ち、神々の対立を調停したが、英雄たちの運命を試すことで人間の限界を測ろうとした。


 アテナはオデュッセウスとディオメデスを支援し、彼らの知恵と勇気を称えた。「オデュッセウスはわが愛する者。ディオメデスはわが槍の使い手だ」


 ポセイドンはオデュッセウスとディオメデスに怒りを向け、「彼らはわが海を冒し、トロイの神聖を汚した」と非難した。


 ヘラはメネラオスとヘレンを守り、「ヘレンの美はわが恩寵。スパルタで再び輝くべきだ」と主張したが、試練としてエジプトへの漂流を課した。


 アルテミスはアガメムノンに試練を与え、「イフィゲネイアの血を忘れぬ。ミケーネで報いを受けよ」と呪った。


 アポロンはカッサンドラを通じてアガメムノンに警告を発し、トロイの敗北の復讐を企てた。


 アフロディーテはヘレンに冷淡で、「パリスの死はわが痛み。ヘレンは試練に耐えよ」と突き放した。


 神々の対立は地上に嵐と誘惑となって降り注いだ。ゼウスは天秤を手に、こう告げた。「我が子らよ、試練を乗り越え、故郷へ還れ。運命は神と人の共作だ」彼の声は英雄たちの心に響いたが、ポセイドンの三叉の矛は海を荒らし、アテナの知恵は試された。神々の思惑が絡み合い、帰還の旅は新たな局面を迎えた。



 トロイの灰は風に舞い、アカイアの船団はそれぞれの運命に向かった。アガメムノンの船団はミケーネを目指し、彼自身とカッサンドラ、忠臣たちを乗せていたが、アルテミスの呪いが暗い影を投じた。


 オデュッセウスの船団はイタケへ向かい、彼の知恵と仲間たちの勇気を頼りに、ポセイドンの嵐に立ち向かった。


 メネラオスとヘレンはスパルタを夢見たが、ヘラの試練によりエジプトへ漂流し、船には彼らの忠臣とヘレンの侍女たちが同乗していた。


 ディオメデスの船はアルゴスを目指し、彼の戦士たちと共にアテナの加護を信じたが、ポセイドンの怒りが波を高くした。


 ネストールの船団はピュロスへ順風に乗り、彼の息子たちと若者たちを乗せ、アテナとゼウスの加護に守られた。


 カッサンドラの予言は虚しく響き、ネストールの知恵は希望を灯した。神々の視線の下、船は海を切り裂いて進んだ。オリュンポスの雷鳴が運命を告げ、回帰の物語は次の章へと進んだ。



(Agamemnon)

出自・背景: アトレウスの子、ミケーネの王。アカイア軍の総大将。トロイ戦争を主導し、ヘレン奪還とアカイアの名誉のために戦った。妻クリュタイメストラとの関係は、娘イフィゲネイアの犠牲(アルテミスへの供物)により崩壊。

役割: 指導者としてアカイア軍を統率。トロイ陥落をゼウスの意志と宣言し、威信を高めるが、傲慢さと過去の罪が悲劇を予感させる。

動機: ミケーネでの栄光と王権の強化。カッサンドラを戦利品として選び、自身の地位を誇示するが、妻の裏切りと神々の呪いに不安を抱く。

関係性:

カッサンドラ: 戦利品として連行。彼女の予言を無視するが、不安を増幅。

オデュッセウス: 信頼と不信が交錯。アガメムノンの傲慢さにオデュッセウスは距離を置く。

メネラオス: 弟として忠誠を期待。ヘレン奪還を共同目標とする。

クリュタイメストラ(不在だが言及): イフィゲネイアの犠牲で敵対。ミケーネでの悲劇の伏線。

運命の展望: アルテミスとアポロンの呪い、カッサンドラの予言により、ミケーネでの悲劇(クリュタイメストラによる殺害)が暗示される。

引用例: 「我らはトロイを打ち砕き、ゼウスの意志を果たした!」(指導力の誇示)、「黙れ、カッサンドラ。お前の言葉は風に消えるだけだ」(予言への拒絶)。


(Odysseus)

出自・背景: ラエルテスの子、イタケの王。知恵深き英雄で、木馬の計略によりトロイ陥落を導いた。妻ペネロペと子テレマコスを愛し、故郷への帰還を強く願う。

役割: 独立した船団を率い、イタケへ向かう。アテナの加護を受け、ポセイドンの試練に立ち向かう知恵の象徴。

動機: イタケへの帰還と家族との再会。アガメムノンの傲慢さに不信感を抱き、独自の判断を重視。

関係性:

アテナ: 知恵を愛され、加護を受ける。

ポセイドン: 木馬の計略と神聖冒涜で敵視される。

アガメムノン: 協力しつつ距離を置く。

ネストール: 木馬の計略で信頼関係を構築。

ディオメデス: 夜襲で絆を深めた戦友。

運命の展望: ポセイドンの試練により、帰還の旅は長く険しい(『オデュッセイア』の漂流に繋がる)。アテナの導きで希望を保持。

引用例: 「アテナよ、我を導きたまえ。イタケの岸へ還せ」(故郷への祈り)、「恐れるな。ゼウスの加護がある。我らは生き延びる!」(リーダーシップ)。


(Menelaus)

出自・背景: アトレウスの子、アガメムノンの弟、スパルタの王。妻ヘレンの誘拐がトロイ戦争の原因。愛と憎しみの間で葛藤。

役割: ヘレンと共にスパルタへ帰還を目指す。ヘラの試練によりエジプトへ漂流。

動機: ヘレンとの再会とスパルタでの新たな生活。過去の屈辱(パリスの誘拐)を清算したい。

関係性:

ヘレン: 愛と憎しみが交錯。許しを模索。

ヘラ: 保護を受けるが、試練を課される。

アガメムノン: 兄として忠誠を誓う。

アフロディーテ: ヘレンの美の背後で冷淡。

運命の展望: ヘラの試練(エジプト漂流)を経て、スパルタへ帰還(『オデュッセイア』での再登場)。愛と過去の清算がテーマ。

引用例: 「ヘレン、過去は灰と共にあれ。スパルタで新たな日々を築こう」(許しの試み)、「全能の父よ、我らをスパルタへ導きたまえ」(祈り)。


(Helen)

出自・背景: ゼウスとレダの娘、スパルタの王妃。パリスに連れ去られ、トロイに10年間滞在。アフロディーテの恩寵で神々の美貌を持つが、戦争の原因として悔恨を抱く。

役割: トロイ戦争の引き金。メネラオスとスパルタへ帰還を目指すも、ヘラの試練でエジプトへ漂流。

動機: メネラオスの許しと過去の罪の清算。美貌を呪いと感じ、平穏を求める。

関係性:

メネラオス: 愛と悔恨の対象。

ヘラ: 保護と試練を与える。

アフロディーテ: 美の恩寵を与えたが、冷淡。

パリス(不在だが言及): 誘拐の過去がトラウマ。

運命の展望: エジプトでの試練を経て、スパルタへ帰還。美と罪の葛藤が続く。

引用例: 「メネラオス、私の罪がトロイを滅ぼし、汝の心を傷つけた。スパルタで許しを乞う」(悔恨)、「私の美は呪いだ。どこへ行っても試練が待つ」(自己嫌悪)。


(Cassandra)

出自・背景: プリアモスの娘、トロイの王女。アポロンから予言能力を授かったが、愛を拒んだため、予言を信じられない呪いを受ける。ヘクトルやパリスの姉。

役割: アガメムノンの戦利品として捕虜。ミケーネの悲劇を予言するが、無視される。悲劇の象徴。

動機: トロイの滅亡を嘆き、運命に抗う。予言を通じて警告を発するが、絶望に苛まれる。

関係性:

アガメムノン: 捕虜として連行され、予言を無視される。

アポロン: 予言能力と呪いの与え主。

アルテミス: 予言を通じてアガメムノンに警告。

ヘクトル・アンドロマケ(不在だが言及): 家族の喪失が心の傷。

運命の展望: ミケーネでアガメムノンと共に悲劇的結末(クリュタイメストラによる殺害)。予言の無力さが強調。

引用例: 「アトレウスの子よ、汝の妻は裏切る!剣が汝を待つ!」(予言)、「トロイは灰となり、私の声も灰となる」(絶望)。


(Nestor)

出自・背景: ピュロスの王、老賢者。トロイ戦争で知恵と経験を提供。息子アンティロコスはメムノンに討たれた。

役割: 若者たちを導く指導者。ピュロスへ順風に帰還。アテナとゼウスの加護を受ける。

動機: ピュロスへの平穏な帰還とアカイアの未来への希望。神々に敬意を払い、試練を回避。

関係性:

オデュッセウス: 木馬の計略で信頼関係。

ディオメデス: 夜襲で絆。

アテナ: 加護を受ける。

アンティロコス(不在だが言及): 息子の死を悼む。

運命の展望: ピュロスへ無事帰還。知恵で若者を導き、平穏な結末(『オデュッセイア』での再登場)。

引用例: 「アカイアの英雄たちよ、トロイの教訓を忘れるな。神々の意志に従い、故郷へ還れ」(助言)、「希望を持て。神々が見守っている」(指導)。


(Diomedes)

出自・背景: アルゴスの王、アテナの加護を受けた戦士。トロイ戦争で夜襲やアフロディーテへの攻撃で活躍。妻アイギアレイア。

役割: 単独でアルゴスへ向かう。ポセイドンの試練と妻・民への不安に直面。

動機: アルゴスへの帰還と名誉の保持。独立心が強く、アガメムノンに頼らず行動。

関係性:

アテナ: 加護を受け、勇気を称賛される。

ポセイドン: 神聖冒涜とアフロディーテ攻撃で敵視。

オデュッセウス: 夜襲で戦友。

ネストール: 指導を受ける。

アイギアレイア(不在だが言及): 忠誠の揺らぎが不安の種。

運命の展望: ポセイドンの試練と妻の裏切り(神話での不倫)に直面。アルゴスでの困難が暗示。

引用例: 「アテナよ、俺をアルゴスの岸へ導け」(祈り)、「アルゴスに何が待つのか」(不安)。



(Zeus)

役割: 全能の父、オリュンポスの主神。宇宙の均衡を保ち、神々の対立を調停。トロイ陥落を自らの意志と宣言。

動機: 人間の傲慢を試し、運命を定める。英雄の帰還に試練を課す。

関係性: 全ての神と人間を俯瞰。中立だが、ヘレンの父として間接的関与。

運命の展望: 神々の会議を主宰し、物語全体の運命を操る。

引用例: 「トロイは陥ち、わが意志は果たされた。されど、英雄たちの帰還は試練に満ちる」(宣言)。


(Athena)

役割: 知恵と戦の女神。オデュッセウスとディオメデスを支援。トロイ陥落を導いた。

動機: 知恵と勇気を愛し、アカイアの勝利を支持。ポセイドンとの対立。

関係性:

オデュッセウス・ディオメデス: 加護を与える。

ポセイドン: 敵対。

ネストール: 間接的に支援。

運命の展望: 英雄の帰還を導くが、ポセイドンの妨害に直面。

引用例: 「オデュッセウス、試練が汝を待つ。ポセイドンの怒りを恐れず、心を強く持て」(導き)。


(Poseidon)

役割: 海の神。オデュッセウスとディオメデスを敵視し、嵐で試練を課す。

動機: アカイアの勝利を海の冒涜と見なし、トロイの神聖を汚した報復。

関係性:

オデュッセウス・ディオメデス: 敵対。

アテナ: 対立。

アポロン: トロイ支援で共感。

運命の展望: 英雄の帰還を阻むが、ゼウスの均衡により限界。

引用例: 「イタケの王はわが怒りに耐える」(敵意)。


(Hera)

役割: 婚姻と王権の女神。メネラオスとヘレンを守るが、エジプト漂流の試練を課す。

動機: ヘレンの美を自らの恩寵と見なし、アフロディーテの介入を悔やむ。愛の試練を課す。

関係性:

ヘレン・メネラオス: 保護と試練。

アフロディーテ: 対立。

運命の展望: ヘレンの帰還を導くが、試練を課し続ける。

引用例: 「ヘレンの美はわが恩寵。スパルタで再び輝くべきだ」(支援)。


(Artemis)

役割: 狩猟と純潔の女神。アガメムノンにイフィゲネイアの犠牲の報復として試練を課す。

動機: アガメムノンの罪を許さず、ミケーネの悲劇を誘導。

関係性:

アガメムノン: 敵視。

カッサンドラ: 間接的に警告を発する。

運命の展望: アガメムノンの悲劇を完成させる。

引用例: 「イフィゲネイアの血を忘れぬ。ミケーネで報いを受けよ」(呪い)。


(Apollo)

役割: 予言と音楽の神。トロイの守護者。カッサンドラを通じてアガメムノンに報復。

動機: トロイの敗北を悔やみ、アカイアに警告を発する。

関係性:

カッサンドラ: 予言と呪いの与え主。

アガメムノン: 敵視。

ポセイドン: トロイ支援で共感。

運命の展望: カッサンドラの悲劇を通じて復讐を果たす。

引用例: (間接)「アポロンは彼女を通じてアカイアに警告を発し」(報復)。


(Aphrodite)

役割: 愛と美の女神。ヘレンに冷淡で、パリスの死を悼む。

動機: トロイ支援の失敗を悔やみ、ヘレンに試練を容認。

関係性:

ヘレン: 美の恩寵を与えたが、冷淡。

ヘラ: 対立。

ディオメデス: 戦場で傷つけられ、敵視。

運命の展望: ヘレンの試練を傍観。影響力は低下。

引用例: 「パリスの死はわが痛み。ヘレンは試練に耐えよ」(冷淡)。

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