6話:#ガチャ飯#タグ飯#猫耳娘

ギルドの向かいにあるレストランへ向かうと、入り口の上空にホログラムモニターが浮かんでいた。そこにはこう表示されている。


《3タグハウス:タグ指定型調理サービス3》


「タグ指定型調理サービス3……?なんだそれ?」


 聞き慣れない単語に首をかしげながら、思わず隣のコアに尋ねる。


「はい、マスター。タグ指定型調理サービスとは、タグ“#”を最大3つまで指定して注文できるシステムですの。ちなみにこの『3』は、バージョンではなくタグ数の上限を示していますわ」


「なるほど、3タグまでって意味か。バージョンじゃねぇのな」


 納得しながら、おれとコアはそのままレストランのなかへ入った。入口に入るとすぐに縦長のモニターが浮かんでおり、料金説明などの記載がある。


―――――

タグ指定型調理サービス3


【≪3タグ≫へようこそ!ご注文は以下からどうぞ】


―――――


料金:15キース

【フードタグを3つ、ドリンクタグを2つ指定してください

(※料理名指定不可/グレード指定不可)】


フード

#___ #___ #___


ドリンク

#___ #___


――――


「……なぁコア。この“料理名指定不可”ってどういうことだ?それじゃあ、どうやって注文するんだよ」


 メニューもなければ、料理の名前も指定できない。注文方法がわからなくて思わずコアに尋ねる。


「ご安心を、マスター! こちらのシステムでは、料理名ではなく“材料”や“食感”、“温かい”とか“サクサク”といったタグを指定するんですの。それによって最適な料理が提供されますわ。」


「”材料”と”触感”だけを指定するのか。それってちゃんと食べたいものがでてくるのか?」


「はい。そういった不確定性から、俗に**“ガチャ飯”**と呼ばれておりますの。たまに原価割れレベルの大当たり料理が出ることもありますけど……覚悟は必要ですわね」


 “ガチャ飯”という言葉がやけに俺の心をくすぐる。元・廃課金プレイヤーには抗えない響きだ。


「なるほど。タグ3つで飯ガチャを引くってわけか。普通に頼みたい人はどうしてるんだ?」


「それでしたらご安心を。本日はわたくしのおごりですので、おすすめのタグの組み合わせをご案内いたしますわ!」


―――――


料金:15キース

【フードタグを3つ、ドリンクタグを2つ指定してください

 (※料理名指定不可/グレード指定不可)】


フード

#卵 #鶏肉 #ライス


ドリンク

#メロン #ソーダ


数量×2

【ご注文を確定しますか? YES/NO】


――――


 コアが迷わず“YES”をタッチする。


「さあマスター、注文いたしましたわ。それではテーブルに座って、のんびり待ちましょう」


 空いてた席に腰を下ろすと、すぐにあの円柱ロボが料理を持ってきた。。

 ロボットは側面からアームを器用に伸ばし、手慣れた様子で皿をテーブルに並べていく。


「ん? コア、さっき同じ注文を2つしたよな……?なんか、違う料理が来てないか?」


 テーブルに並べられたのは二皿。 ひとつはオムライス。もうひとつは、鶏肉と卵を炒めたライスプレート。そしてドリンクは、どちらもメロンソーダだった。


「ふむ……なるほどな。タグが同じでも、解釈によって違う料理になるってわけか。で、ドリンクは解釈の幅が狭いから、両方メロンソーダ……なるほど。うまくできてんじゃん」


 レンジは感心しながら、メロンソーダに口をつける。


「ええ、まさにその通りですわ、マスター。ドリンクは無難なタグ構成にしたため、同じものが出てきましたの。こうして安定したタグで組むと、大当たりのような高級料理は出ませんが、大ハズレも少ないのですわ。大体の人はこのような頼み方で無難なものを注文します。まあ……“一部の方”を除けば、ですけれど」


 コアがそう言い終えたタイミングで、注文端末のあたりから急にざわめきが広がった。


「「「うおおおおおーッ!!」」」


「その組み合わせ、マジでヤバいぞ!」


「おい嬢ちゃん、ホントにやるのか!?」


「今日は……今日はこれに賭けるのですッ!!」


 熱気に包まれるギルドレストランの一角。その中心には、猫耳のデバイス?をつけた少女がいた。目を輝かせ、モニターに手を伸ばしている。


「今日こそは……今日こそは……勝てるですッ!!」


 祈るように指を動かし、タグを確定する少女。


「なんだ、あれ……?」


 その奇妙な盛り上がりに目を奪われて、俺は思わずコアに訊ねた。


「ああ、あれが先ほど申し上げた“例外の方々”ですわ。ただの”ジャンキー”ですわ。ガチャ飯ジャンキー。気にしなくてよろしいですわ」


 コアは冷めた目で一瞥しただけで、さっさとオムライスに視線を戻した。


「いやいや、すげぇ気になるんだが……」


 猫耳少女は騒いでいた男たちと一緒に席に着き、手を合わせて何かをぶつぶつと唱えている。男たちも同様に目を閉じ、手を組み、ただひたすら料理を待っていた。


 そして、再び配膳ロボットが厨房の扉から現れる。その瞬間、全員が目を閉じる。


――な、なにしてんだあいつら……


 やがて料理がテーブルに置かれ、ロボットが去ると同時に、眼帯を付けた男が大声を上げた。


「いくぞぉぉぉぉ! 今日のご飯は、なんだろなッ!!!!!」


 男の叫びが響いたその瞬間——全員が一斉に目を開き、自分の目の前の料理を確認する。


……沈黙。


——そして、爆発した。


「よっしゃああああああ!! 原価割れぇぇぇぇぇ!!」


「なんだこれ!? 牛乳拭いた雑巾か!? いや……くっさ! 湯葉と…なんだこれ!!」


「またごま塩とライスじゃねーかぁぁぁ!! なんでいつも米とごま塩の比率が逆なんだよおおおお!!」


 まさに阿鼻叫喚(カオス)。ギルドレストランは一気に地獄絵図と化す。


 ふと猫耳の少女に目を向けると、彼女は椅子に座ったまま、力なく崩れ落ちていった。


――……なんだあれ? おにぎり?


 少女の前に置かれているのは、一見するとごく普通のおにぎり……のようなもの。


「おい、嬢ちゃん。今日は何が出た?」


隣にいた、眼帯をつけた強面の男が声をかける。少女は呆然とした表情で、ぽつりとつぶやいた。


「……のり……はりつけただけの……岩塩……」


 言葉に詰まるような説明に、男はそっと視線を逸らし、自分の料理に目を向ける。

どうやら彼は当たりを引いたらしく、湯気を立てるカニ鍋を美味そうに食べ始めた。


 少女はなおもぶつぶつと呟いている。


「もう一週間……まともな食事にありつけてないのです……。

なんなのですか、あのポンコツ調理ロボット……。

せめて、ひとの…人の食べ物を出してほしいのです……。

でも今さら無難に注文したら……負けた気がするのです……。

次こそは……次こそは……原価割れを……」


 その視線がこちらに向いた瞬間、俺は慌てて目をそらす。


――うん。見てる分には面白いけど、俺はこれからも“無難”でいくか!


 静かに、前向きな心で俺は誓った。


 猫耳ジャンキー娘の奇行も気になるが、それよりも確認しなければいけないことがある。俺はもう一度、コアのほうに向き直し、話を続けた。

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