第20話:軍隊
「一騎打ちだ。私が勝ったら、軍のトップには私がなる」
真剣な眼差しで
「…………………っ……ぅ」
受付の女性は、一瞬で顔を青くし、口を押さえ胃の中のものを吐き出しそうになるのを我慢する。
他の従業員も同様で、まるで今この瞬間に、世界が終わるかのような絶望の表情を浮かべた。
「一騎打ち、ですか?まあ……病院内に動き回れるスペースはありますからねー」
「院長、この子まだこんな感じなんですよ」
「なるほど。正直よく分かりませんが、そういうことなのでしょう」
「無視をするな。臆病者!」
「おっと失礼。構いませんよ」
「……ああ、ただですね。一応これは言葉として、なのですが、この病院も、病院内の『戦闘科』も、軍ではありません」
「?意味がわからない。軍じゃないなら何なんだ」
「大枠では病院です。人々を幸せな人生に導くための施設、といったところです。目的は人助けですね」
芹はポケットから鍵を取り出した。
「せっかくですから、地下5階の『アリーナ』を久しぶりに使いましょうか。作ったは良いものの、思っていたより使っていなかったので、ちょうど良かった」
***
「院長、一騎打ちなんて何年振りです?僕、院長が
「ええ。正直、私も懐かしさを感じます」
「あの子、結構強いし面白い戦い方するので、
「そうですね、そうさせてもらいます」
アリーナは吹き抜けのようになっていた。まるで本格的な会場のようで、収容人数もそこそこだ。
下のフロアはスポーツであったり、戦いであったりをするためのフロア。その上に、観客席のようなものがある。
ちょうど昼休みであることもあって、職員たちが大勢上の客席フロアに押しかけていた。
「みんな院長の戦いを見てみたいんじゃないですかねー」
「別にそんな面白いものではありませんがね」
「まぁまぁ。じゃあ、私は上のフロアに行きますね」
それを見届けて、芹はアリーナの反対側に立つ女性に意識を向ける。
芹はゆっくりとアリーナの中央部へと歩いた。
「さて、改めて、対戦よろしくお願いします。
芹の言葉を聞いて、女性は自然な動作で芹の方へと近づいてくる。
「──はっ、この私を見て逃げなかったことは褒めてやる」
田平子は芹をギラギラとした眼光で睨みつけると、口元を歪ませながら右手を天高く上げた。
「【召喚】」
天高く上げた田平子の右手に、異空間から召喚された『巨大な斧』のような武器が出現した。
長さは3m以上はあるだろう。1.6mほどの彼女の身長の倍は確実にある。
斧は大部分が漆黒で、手で持つ部分だけが白く輝いていた。
「おや?」
「勝負は一騎打ち、殺し合いだ。芹も獲物を取れ」
田平子は、既に戦闘の準備はできているとばかりに構えを取っている。
「獲物、ですか」
「何をしてる?まさか私相手に素手で戦うとでも?」
「いえ……そうですね……武器ですか」
芹は一瞬迷うようなしぐさを見せるが、すぐに何か閃いたかのような表情になる。
「ああ、そうです。せっかくですから、
「は?」
「えーと、確か」
芹はポケットから魔道具を取り出した。ここには『建材』が多く収納されている。
「この病院を建てるにあたってはほとんど使用しなかったのですが、今度耐久実験をしてみてよさそうなら採用しようと思っていたんですよ」
「何を言ってる?」
「これです」
「……?!」
芹は、魔道具から3mほどの棒を取り出した。それは赤茶色で、円柱のような形をしていた。
太さは直径10cmほどで、田平子の大斧の方が大きく感じる。
「これは所謂、重量鉄骨です。しかも、火事にも強く、どんな力を加えても全く曲がらないように技術者たちの力を借りて研究しました。どうです、結構かっこいいでしょう」
「???」
「じゃあ、始めましょうか」
「……あ、ああ!」
田平子は若干の動揺を隠し、再び芹を睨んだ。
2人はアリーナの中心で向かい合う。
「──開始!!!」
そして、審判の大声がアリーナに響いた。
***
審判の合図で、私は相棒である大斧を大きく振りかぶった。
この斧は、私が生まれてから今までずっと戦ってきた中で、自分の力を一番引き出せるという『結論』だった。
「……!」
この
私がこの男を試す発言をしても、何の反応も示さない。
彼はつねに微笑を振りまいている。まるでカルト宗教の教祖のように。
それに、この軍隊に所属している戦闘員たちは、確かにかなりの強者ぞろいだ。その強者たちが顔を青くしてあのガリガリの男一人に接している理由が分からない。
この意味不明な軍隊は、私が再生する。
「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私は男に向けて、渾身の一撃を放った。
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