俺の仲良かった幼馴染が急に冷たくなったんだが、誰か原因を教えてくれ!

田崎彊兵

第1話  俺と妹。

「お兄ちゃーん、早く起きてよー!! ご飯、もう出来てるんだからね!!」

 ベッドに潜り込んでモゾモゾしている俺は、下の階から聞こえてくる騒がしい声に無視を決め込んでいた。

 厚手の遮光カーテンが眩しい朝日を防いでくれる。おかげで登校時間ギリギリまで寝ていることができる。


————なんて思っていたのだが。


 ダンダンッと階段を勢いよく駆け上がって来る音が聞こえる。俺はその主が誰か知っている。だがしかし、こちとら起きる気はさらさら無い!


「いい加減、起きなさ————い!!!!」


 その声の主は、俺の部屋の扉をバァァンッと思い切り開け、俺の睡眠の質向上に一役買ってくれる遮光カーテンをシャッと容赦なく開け放つと、勢いよく布団を捲りあげてくる。

 寝ぼけ眼の俺の両手を引っ張って、無理矢理引き起こしてくる美少女。

 彼女は『水無瀬 なずな』、俺の妹である。


 なずなは15歳の高校一年生、サラサラで艶のある黒髪のロングヘアー、モデルの様な小顔で、アーモンドの様なくりんとした瞳に長いまつげ、みずみずしく血色の良い唇、白くきめ細やかできれいな肌。

 スタイルもよく、ブラウスからはち切れんばかりの巨乳、腰回りのくびれもブラウス越しでも分かる位にはっきりしている。身長は170センチもあり明朗快活なため、日陰者の俺とは正反対な存在として見られることが多い。

 

 俺は17歳の高校三年生で、前髪が隠れるくらいまで伸ばし、いつ手入れしたかもわからない程のボサボサの髪の毛、顔はお世辞にもイケメンとは言えないくらいの凡人顔。オタクでインドア派、そして引っ込み思案な性格である俺は、学校以外ではゲームにアニメと、引きこもりがちな生活を送っている。

 そのくせ、身長だけは無駄に高く185センチもあるため、クラスメイト達からは『男性版貞子』だの『泥田坊どろたぼう』だのと揶揄されている。


 新学年が始まってから一週間。俺は高校三年生になり、妹は俺と同じ高校に入学してきた。

 新入生である妹は持ち前の明るさで早速友達が出来たようで、家でよく友達との出来事を話してくれるのだが、俺はと言えば過去二年間のイメージが定着してしまい、一部を除きほとんどの生徒はそばに寄ってこようとしなかった。

 俺自身もそれほど誰かと仲よくしようとは考えていなかったので、そこは余り気にしてはいない。


 俺は渋々着替えをすまし、妹に手を引かれながら階段を下り、洗面所で歯磨きと洗顔を手早く済ませ、リビングに向かう。

「俺はまだ眠いんだが……?」

「いいから、早く朝ごはん食べちゃってよね! 登校時間に間に合わなくなっちゃうよ?」

 妹よ、早く学校に行きたいというその意気や良し。だがな、まだ朝6時半なんだぞ……。

 昔から妹は滅茶苦茶早起きで、普段から『寝ている時間がもったいない』と語っているくらいに、いつもはつらつとしている。


「あのさ、いつも言ってる事だし、なずなも充分理解している事だとは思うけど、学校は目の前。徒歩一分、分かるか? すぐそこなんだよ。だからこんなに早く起きる必要が無いって訳」

「何言ってんの。そんなボケーッとした顔で学校に行くよりも、しゃきっとした顔で登校した方が気持ちいいじゃん!」

 そう、コイツには何を言っても無駄なんだ。分かってるよ、そんな事は……。


————————————


 俺はテーブルに用意された朝食を眺めながら椅子に座り、まだ少しばかり眠気の残った目をこする。


「そういえばお兄ちゃんてさ、大学に進学予定なんだよね。どこの大学に行く予定なの?」

 妹が作った味噌汁を啜っていると、不意にそんな事を質問される。俺は顔も良くないし、運動だってそれほど得意という訳でもない。でも、成績だけはそれなりに優秀な方で、偏差値は70程度だった気がする。


「そうだな、特にこれといったこだわりは無いんだけど、取り敢えず東京の国立大『S大学』か海外留学なんてのもありかもな。このインドア生活から脱却できればの話だが」

 正直、俺の中では受ける大学はどこでもいい。それよりも今やっている『趣味』の方が大事だからだ。


「お兄ちゃんってめちゃくちゃ成績優秀なのに、進学とかそういうの、本当に興味ないんだね……めちゃくちゃ勿体ない」

 そう言ってなずなは卵焼きをひょいっと口の中に放り込む。しかし、月日が経つというのは早いもので、妹ももう高校生。進路の事も多少は気になってくる年齢だろう。

 

「まぁ、家族に迷惑をかけない様には生きていくつもりだよ。とりあえず、今のところはS大学。」

「S大学か……私も頑張ろうかな」

「お、なずなも大学に行く気になったのか? 前は『高校卒業したら働くんだ』って言ってたのに。ごちそうさまでした」

「え、えっと、べ、別にいいじゃん! ごちそうさまでした!! もう、早く学校に行くよ!!」

 食器を片付けて、俺はなずなに促されて登校準備を済ませると、二人で目の前徒歩一分の高校へ向かうのだった。

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