文披31題_2025

Day19 網戸

 近所の家の掃き出し窓に閉じ込められた白猫がいる。垣根の隙間から見えるガラス窓は薄く開いていて、猫は網戸とカーテンの間でこちらを見つめる。ランドセルの持ち手をぎゅっと握る。おそるおそる見返せば、気まぐれな猫はふいと消える。


 あの猫はクラブ活動も学校もなくて、気楽にあくびをしながら安全な家で眠るのだろう。家族がごはんをくれる。おもちゃも、もしかしたらマタタビだってくれるかもしれない。いいなあ。猫の暮らしに一瞬でもあこがれてしまうほど、小学生は忙しい。



 ベランダの椅子で膝を抱えている。薄闇、雨上がり、涼しい風が流れる。

 パパは厳しい。ママも今日は肩を持ってくれなかった。テストで名前を書き忘れて0点を取ったことが、そんなに悪いことなの。世界の破滅のように感じて、しくしくと膝頭を濡らす。


 かさ、と庭木が鳴る。はっとして庭を見下ろすと、白猫が庭を歩いている。ゆうゆうとミニトマトの前を横切り、ぴたっと立ち止まってこちらを見上げた。その顔は野性味を帯びた大人の猫だった。このひとときだけは、守る屋根も家族もなく、降りかかる死も絶望もすべて受け止めて、そのかわり自由の風をあびる。


 ごくっと喉が鳴る。覚悟をするには、少し子どもすぎるかもしれない、と思った。

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