第10話:聖女の試練!魔物の森と、イケメンたちの過保護(レティシアの誤解)

「いよいよ、この日が来てしまいましたわね……聖女の試練!」


私は、学園の裏手に広がる「魔物の森」の入り口に立っていた。今日は、聖女候補生に課せられた、年に一度の「魔物討伐演習」の日だ。森の奥には、弱小ながらも魔物が棲息しており、聖女としての魔力と判断力が試される。


「(ゲームでは、この魔物の森でヒロインがピンチに陥り、攻略対象たちが助けに来て、絆を深めるイベントがあったはず。私が完璧に魔物を討伐してしまえば、ヒロインの出番を奪えるし、破滅フラグも粉砕できるわ!)」


脳内で悪役令嬢マニュアルが叫ぶ。ヒロインより優秀な聖女になることが、私の唯一の目標なのだ。


森の入り口には、すでにレオナルドと騎士団の面々、アリスと魔術師団の面々、そしてセドリックと生徒会の面々が勢揃いしていた。彼らは、私を心配そうに見つめている。


「レティシア様。この森は、見た目以上に危険です。どうか、ご無理なさらないでください」


レオナルドが真剣な顔で忠告する。彼の視線は、私の腰に下げた聖杖に注がれている。


「レティシア様。万が一の時は、わたくしが援護いたします。決して、無茶はなさらないでください」


アリスが、いつになく真剣な表情で私を見つめる。彼の指先からは、微かに魔力が漏れているのがわかる。


「レティシア様。何かあれば、すぐにわたくしを呼んでください。生徒会長として、貴女の安全は最優先事項です」


セドリックが優雅な笑顔のまま、その瞳の奥に強い意志を宿している。


「(な、なんですって!? 彼ら、まさか私が魔物に襲われて失態を演じないよう、監視する気ね!?)」


私は心臓が跳ね上がった。まさか、彼らがここまで私の試練に執着しているとは! これは、私が聖女としての資質を偽っていないか、あるいは、魔物との戦闘で醜態を晒さないかを探るための、巧妙な監視だ!


「(くっ……抜かりないわね! だが、このレティシア、魔物討伐は得意なんだから! 見たいならいくらでも見せてあげるわ!)」


私は聖杖を握り締め、意を決して魔物の森へと足を踏み入れた。ギィ、と音を立てて森の奥へと進むと、三人の視線が、まるで背中に突き刺さるように感じられた。


森の奥へ進むと、早速魔物が出現した。ゴブリンだ。私は冷静に聖杖を構え、光魔法を唱える。


「聖なる光よ、我が敵を討て! ライトニング・ボルト!」


光の矢がゴブリンに命中し、一撃で仕留めた。よし、完璧だ!


その瞬間、森の木々の間から、レオナルドが飛び出してきた。彼の顔は、安堵と同時に、どこか不満げな表情をしていた。


「レティシア様! ご無事でしたか! 危ないところでしたね!」


レオナルドがそう言って、私の肩にそっと手を置いた。


「(ひぃっ! またボディタッチ!? この期に及んで、私を油断させるつもりね!)」


私の心臓がドクンと嫌な音を立てた。しかし、レオナルドの表情は、どこか感動したような、複雑な色を帯びている。彼は私の手元にある聖杖をじっと見つめ、何かを呟いた。


「レティシア様は、本当に……強いお方だ……」


「(何をブツブツと……! きっと、私が魔物を倒したことに驚いているのでしょう!)」


私は彼らの反応に動揺せず、次の魔物を探しに森の奥へと進んだ。すると、今度はアリスが木陰から現れた。


「レティシア様。魔物の動きは予測不能です。わたくしが、魔物の位置を感知いたしましょう」


アリスはそう言って、私の隣に並び、周囲に魔力の探知網を広げた。


「(な、なんですって!? 私が魔物の位置を特定できないとでも思っているの!?)」


私はピクリと反応した。まさか、私が聖女としての能力を疑われているのか。


「まぁ! アリス殿に感知していただけるなんて、心強いですわ! さすがは天才魔術師! 感知の目は確かですものね!」


私は満面の笑みでそう告げた。内心では「(よし、私が魔物を探す手間が省けるわ! これで、より効率的に破滅フラグを回避できる!)」と、不敵な笑みを浮かべていた。


さらに森の奥へ進むと、今度はセドリックが、生徒会の面々を引き連れて現れた。


「レティシア様。この先の森は、より強力な魔物が潜んでいます。わたくしたちが、先行して安全を確保いたしましょう」


セドリックは優雅な笑顔のまま、私を庇うように前に出た。


「(うっ! 今度は生徒会長まで! これは私が危険な目に遭わないよう、過保護に監視するつもりね!)」


私は内心で冷や汗をかきながらも、彼らの行動に感謝するふりをした。


「まぁ! セドリック殿までお気遣いくださるなんて! ありがとうございます! では、わたくしは皆様の後ろから、回復魔法で援護いたしますわ!」


私は笑顔でそう答えた。彼らが先行して魔物を倒してくれるなら、私は安全な場所から魔力を温存できる。


三人のイケメンたちは、それぞれ異なる方法で私を「守ろう」としてくる。彼らのアプローチは日に日に過保護になっている。私の周りでは、「レティシア様、愛されてるわね!」という囁きが聞こえてくるが、私はそれも「悪役令嬢への嫉妬を誘発する、新たな破滅フラグ」だと解釈していた。


「(この過保護は全て、私を破滅へ誘い込むための、巧妙な罠。絶対に彼らの甘言に乗ってはいけないのよ!)」


私の聖女への道は、イケメンたちの過保護と、そこから発生する「破滅の予感」で満ちていた。それでも私は、ひたすら前だけを見て進む。


レオナルド「(……レティシア様は、俺が守らねばならない。あの強さも、危うさも、全て……)」

アリス「(彼女の魔力は、解析不能なほど複雑で美しい……もっと、近くで観察したい……)」

セドリック「(レティシア様……貴女のその無垢な笑顔が、わたくしを狂わせる……)」


脳内会議の結論:「イケメンたちの過保護は、私の聖女としての評価を上げるための踏み台! 最大限に利用して、破滅フラグを粉砕してやるんだから!」

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