第42話 作品はアレンジされた

 もう、お忘れだろうか?

 『ルフランの筋肉5人衆』M5やサフランのことを。


 彼ら(M5)は華の経営する執事喫茶で働いていたが、その筋肉から体力があることを買われ、演劇要員にスカウトされた。

 特別ボーナスに釣られたのも、理由の一つだ。



①アクア:侯爵家次男。

 真面目イケメンだが、幼い時からの女子の強アタックによりトラウマがある。

 そっち方面の、迫ってくる女子が苦手。


②デュマリ:子爵家三男。

 可愛いもの大好きの流され男子。


③トゥアイス:男爵次男。

 僕口調の甘えっ子口調。

 でも本当は野心家。


④レッドラ:大商家の長男だが、平民。

 アルカイックスマイル修得済みの腹黒。


⑤ビネガーズ:医師の長男だが、平民。

 筋肉多めのやや強面で天才。



 ちなみにもう、彼らは取り巻きではない。

 ルフランの取り巻きだった彼らも、実際には純粋にルフランが好きだった訳ではなく、打算ありきだった。

 特に平民2人は、商品を買わせる為と医学部の学費を援助して貰う為に侍っていただけなのだ。

 

 彼らはサム役や、彼の取り巻きの使用人となるだろう。




 ルフランもかずさ(カルーラ)の秘書的な感じで、彼女を手伝っているので、今は彼らにかまう時間などない。


 兄のジムニーとの関係も良好で、寂しさから縋っていたM5にも興味をなくし、かずさ(カルーラ)の妹のように傍にいる。

 その為、ジムニーの職場『フィギュアメーカー ドンマイン』と、漫画家が集まるカルーラ(かずさ)の仕事場のアパートを行き来している状態だ。


 ルフランは貴族令嬢だが、兄のサムだけを愛する母親のマリンに金持ち爺に売り飛ばされる(もとい結婚させられる)よりも、平民になって生きていくのもありだと思っていた。

 時々ジムニーの部屋の掃除をしたり、簡単な料理も作れるようになり、大好きなカルーラ(かずさ)にお菓子も差し入れしている。


 実際ジムニーは、父伯爵(シエンタ)に除籍して欲しいと手紙で伝えていた。今も除籍はされていないが、彼は生家に戻らないだろう。

 これにルフランが加われば、たぶんシエンタの心労は計り知れない。


 シエンタはマリンとは違い、子供達を愛していたからだ。少し、いやだいぶん金儲けの方が好きで、蔑ろにはしていたが。



 もう今のルフランは、高慢な令嬢を返上しすっかり庶民的キャラだ。

 可愛い猫目の美少女は、職場のマスコットキャラと化している。


 彼女のことが苦手だった水樹(レノア)も嫌悪感は薄れ、寧ろフィギュアキャラに性格の近いルフランのことが、とっても気になっているくらいだ。


 彼女の気取らない笑顔はとても可愛いから、仕方ないことなのだが、ルフランは一度 水樹(レノア)に振られているので、そう言う感じで彼を見ないだろう。





◇◇◇

 かずさは身ばれを考え、『愛と悲しみの果てに』を

大幅に変更した。


 ぶっちゃけ、ちょっと武闘派になった。


 

 ☆演劇の脚本としては。


 買い物中にチンピラに因縁を付けられた、大富豪の未亡人アリアは、護衛も倒されて身柄を拘束されていた。


 因縁を付けられるのを避け、周囲は見て見ぬ振り。

 絶望に染まる彼女に震えながら声をかけたのは、華奢な美少女パメラだった。


「わ、私のお祖母さまを離して下さい! 警ら隊を呼びますよ!」


 当然彼女は、アリアと無関係だ。

 関係があると思わせる為に、親族と名乗ったのだ。


「面倒くせえ、邪魔するな。それとも売り飛ばして欲しいのか? あぁん!」


 護衛まで倒すならず者だ。

 小娘の威嚇など聞くはずもない。


 けれどパメラは怯まずに、アリアの傍に駆け寄り耳元で囁いた。

「今、私の手には、目潰しのスプレーがあります。そしてポケットには、ものすごく大きい音のなる機械も。

 夫人は耳を塞いでいて下さい。

 そして奴らが怯んだら、走って逃げましょう」


 アリアはパメラの目を見て、ゆっくりと頷いた。

 このまま拐われてしまえば、身代金が要求されたり、家族が脅されることが続くかもしれない。


 どこの悪党に利用されるかも分からないし、最後は口封じに殺されることだろう。

 子供達に迷惑はかけられない。


 そう考えて瞬時に反応し、頷いたアリアだ。



 アリアとパメラは、纏めて一人の男が押さえている。その周囲に男が3人いて、2人は1人ずつ護衛の首を締めて意識を失わせ、抱えたままベンチに座っていた。

 1人は人の流れが滞らないように、通行人の顔を見ながら無言で近付くなと圧をかけていた。


 通行人を威圧している者の意識が周囲に向いた時、アリアとパメラは頷き合い行動に移す。


 ポケットからその場に落とされた機械から、

「ビー!!!ビー!!!ビー!!!」と、大音量が流れ、アリアを拘束している男が慌てたところを、パメラのカプサイシンスプレーが噴射された。


「う、うわぁー、何だ、目が、目が痛い!」


 その後に向かってきた周囲に威圧をかけた男にも、スプレーをお見舞いした。護衛を抱えている男達は瞬時に動けない。


「今です、夫人!」

「ええ、行きましょう!」


 隙を付いた二人は、デパートから逃走する。


 その二人の様子を離れた場所から見ていた男がいたのを、気付く者はいなかった。



 走り抜き騎士団の詰所に着いた二人は、先程の状況を説明して保護を求めた。


 程なくアリアを迎えに来た家令は、パメラに丁寧に礼をし、小切手で多額の謝礼も渡してきた。


「受け取れません、お金なんて。困ってる人を助けただけですから。それにうまくいくかも、分からなかったことだし……」


 アリアは首を横に振り、パメラの手を強く握りしめた。


「受け取って頂戴。これはほんの気持ちなのよ。

 あの場にはたくさんの通行人がいたけど、助けてくれたのは貴女だけ。

 もしあの場で行動してくれなければ、私は連れ去られていた。

 警らが到着しても意味がなかったの。

 貴女のとっさの判断に感謝します。


 それに貴女は、あのならず者達に顔を覚えられたかも知れないわ。私は出掛けなければ良いけど、貴女はそうはいかないでしょ?

 私は貴女の方が心配だわ。


 謝礼とは別に貴女には護衛も付けます。

 これは私の責任でもあるわ。

 あんな弱い護衛を連れて、外に出たことのね」



 そう言われて、拒否が出来なかったパメラ。

 家族のことを考えて受け入れた後、二人はやっと自己紹介をした。


「私はアリア。アリア・グランバレンよ。わりと大きな菓子メーカーを、亡き夫がアレビアルト・グランバレンが経営していたの。小金を持っているから狙われたのね」


 さらっと語る夫人だが、グランバレンは世界に名だたる大商会だ。王家御用達でもある最高級な品質なスウィーツを、現在も作り続けている。


「わ、私はパメラ・ヂェスタンです。実家では発明品を作ったり、農作業の機械を作っています。頼まれれば設計図の組み立てもしているですよ。

 私も発明が好きで……あ、すみません。余計なことを」


 家業は機械作りがメインだが、父の趣味が発明なので兼業している感じだ。その遺伝なのか、パメラも発明が大好きだ。



 照れるパメラを見て、アリアは微笑んで彼女を抱きしめた。


「決めたわ、パメラ。貴女の家を私のお抱えにして、新しい料理を作る機械作りをして貰うわ。

 私ね、貧民街での炊き出し用に、短時間で魚の骨も煮込めるお鍋が欲しいの。理論上では完成しているんだけど、再現が難しくて。

 時間がかかっても良いから、是非お願いしたいわ。

 他にもたくさん、作って欲しいものがあるのよ」



 そうすれば合法的にパメラも守れ、恩返しもできると考えたのだ。

 案の定、自宅に戻り父に相談したパメラは、良くやったぞと言って両親に褒められたのだった。


 

 ◇◇◇

 実はアリアの誘拐を企んだのは、実の息子のヨネスだった。商会の実権をいつまでも譲らない母アリアに焦れ、身代金をせしめようとしてマフィアに依頼したのだ。


 すぐに解放させるつもりで、勿論殺す指示は出していない。

 誘拐に怯え、実権を渡してくれるとも考えていたのだ。



 アリアが息子ヨネスに実権を渡さないのには、理由があった。彼女の妻ガルシアの妻の金遣いがとんでもなく荒く、若い美形の愛人までいるからだ。

 ヨネスは妖艶で甘え上手の彼女を信じており、アリアの忠告も聞き入れない。


 不信に思ったアリアが探偵に依頼し、全ては明らかになっているのに。もしアリアに何かあれば、ヨネスはアッサリ殺され、商会の全てはガルシアに渡るだろう。


 ガルシアの愛人は、マフィアとの繋がりがあることも、追加調査で分かってきた。


 恐らくアリアに付き添った護衛も、ヨネスやガルシアの息がかかったものなのだろう。



 アリアはヨネスとガルシアに、全力で抗うことを誓うのだった。





◇◇◇

「うん。取りあえず、第一幕はこれでいこう。

 嫁と姑。馬鹿息子への見下り劇で。

 そして第二幕は、デパートで逃げる二人を見ていた男の話ね。

 その男はマフィアのドンの息子で、仕事の監視役をしていた。

 政略結婚で母親の決めた婚約者がいるけれど、傲慢で手下を人間扱いしない冷たい態度に嫌悪感があった。

 そんな時に出会った、損得なしで人助けをするパメラに恋をしてしまう。


 婚約者も生家の教育や環境でそうなったのだが、それを知るよしもないマフィアのドンの息子。

 そして婚約者の標的はパメラに向けられ、生死のかかる妨害が始まるのだ。

 それにはマフィアのドンの妻も、婚約者の味方をすることになる。


 協力するのだが……「こんな面倒なことになるのも、貴女の魅力が足りないからよ。この貸しは忘れないで頂戴」とか言われ、こちらでも衝突し亀裂が生じるのだ。



 第三幕はそれを助けるマフィアのドンの息子と、パメラの心が通うところ。

 でもパメラの家族も狙われ、暗殺されそうになり、大怪我をすることに。

 アリアの助けにより、国外へ逃げる話も持ち上がる。


 第四幕。

 みんなで逃亡するのか、マフィアのドンの息子が親を説得するのか、悲恋として誰かが亡くなるのか、全員無事で別れるのか………………。


 そんな感じに纏まった。




 最後をどうするか、みんなで話し合いが続いた。


「マフィアをぶっ潰して息子とも別れて、悲恋を乗り越え発明でのしあがる展開なんてどう?」


「婚約者と息子が短銃で打ち合って、息子が死んで婚約者が生き残り、「愛していたの」と後悔して後を追うなんてどう?」


「やっぱり他国へ逃亡して、一からやり直すとか」


「マフィアと和解して、普通の生活に戻るのは?」



 そんな感じで、結末は決まっていった。





◇◇◇

ミランダ、ガッドレー、アパッチは、思った以上にアクションシーンが多くて喜んでいた。


「戦いのシーンの方が得意なのに、私がアリア役なんてね。でも戦闘シーンが間近で見られれば、退屈しなそうだわ」と、ミランダ。


「俺はマフィアのドンかぁ。悪役は俺なんかより、腹黒いアパッチの方が似合いそうなのによぉ」とガッドレー。


「演劇は見た感じが重要なのですよ。私なんて、まったく悪そうに見えないですから。善良な私は、パメラの護衛になりました」とアパッチ。



「くくくっ。善良って、自分で言うの? おっかしい」

「近くで見れば一発なのによぉ」

「なんですか、二人とも。酷いですね」


 その後にワハハッと笑う3人だった。

 彼らの後輩達や弟子達も参加する、動きが多めの劇の練習が開始されたのだった。




◇◇◇

 ドンマイン家でのかずさと華は。


「なんかもう、ぜんぜん違う話になっちゃったわね」

「良いんじゃないの、かずさ。初めての取り組みだもの。

 最初の脚本もフィクションとして、名前だけ変えて左のホールで演じて貰えば良いじゃない」


「そうね。今回の劇の様子で決めようか。人気がぜんぜんなくて、お客が来ないかもしれないし」

「まあ、素人の劇だからね。それもあるかも。そんなに話題にならないなら、個人的な楽しみとして遠慮もいらないし。

 お客が来ないなら、従業員に無料で見て貰っても良いしさ。

 もともと私の我が儘の産物だしね」


「まあ、まずは楽しもうよ。演者の顔ぶれだけは、めちゃくちゃはまってるから。

 美女に美少女、美少年に、インテリ親父に、強面親父に、お調子者まで揃っているからね」


「そうね、雛鳥の巣立ちを見る感覚でもあるわね。早く開演できると良いわね」

「本当に楽しみだわ」



 なんてのんきな二人だったが、演技指導に来たのは内緒でリンダが手配した、帝国劇場のベテランのマジマだった。

 怒声どころか、灰皿も椅子も飛ぶ熱血指導は、彼らを大きく成長させた。


 あわやガッドレーが「もう我慢できねえ!」と、本気で殴りかかろうとした時は、ミランダが踵落としを決めて「それが教えを乞う者のすることか? 反省しろ!」と止めていたようだ。


 それが縁となり、ミランダとマジマはマブダチになった。


 ガッドレーの脅しにも怯まないマジマは、マジーと呼ばれ親しまれていく。彼はダンスの振り付けも天才的だった為、ガッドレーも見事に踊れるようになったと言う。



 そんなみんなの初日公演は、盛大に盛り上がったのだった。



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