第38話 ドンマイン一家との会談

「じゃあ、やってみますね。今、ドンマイン家は夕食で集まっているみたいです。

 みんなにも聞こえるように、声をかけてみますから」


「私達の力の波動で人体や建物が破壊されないように、私がバリアーを張りますから。安心して下さってね」


「「「「はい。お願いします!!!!」」」」



 かずさ達の住む、ドンマイン家のリビングに来訪してくれたドラゴン姉妹は、微笑んでそう言った。

 今日の2人の装いは、かずさが衣装部門に発注した巫女さん姿だ。

 2人とも黒髪に染め清楚な化粧をしているので、元来の美しさも合わさって光り輝いていた。



(破壊? 破壊って、マジ? やっぱ衣装良い、大正解!)

(まあ考えればそうか。時空超えるんだもんな。でも巫女って。姉さんの趣味だな、コレ)


(人体の破壊なんて、どうなるのかしら? ああ、それにしてもお肌スベスベね)

(さすがドラゴンだ。自信たっぷりだな)


 そんな(一部)邪な思考の中、何もない空間に宇宙のような黒くて星が煌めく亀裂が現れ、ミナさんが叫んだ。


「こんにちはー。地球の管理官の方聞こえますか? 

 私達は、Ny5569bーяжщ在住のドラゴン種、ウミナリとライメイと申します。

 以前に事故で魂の交換があった、ドンマイン一家とお話したいのですが、繋いで頂けますか?」


「受信しました。こちら地球の管理官マルマーヴェです。

 不幸な時空事故の被害者との対話でしたら了解です。  

 通信料はエネルギー弾でお願いします」


「了解ですわ。では」


 そう言うが早いか、ミナさんは掌から隕石が落ちる時のような炎を空間に向けて放った。

 その炎のようなエネルギー弾は、地球の火山下に蓄えられそうだ。

 それはマグマと合わさることで活性化され、火山の噴火や海洋プレートの形成、軽元素の循環などで人間に必要な役割を担う一端となり、地球の寿命を少し延ばすことに繋がる。


「本当は口から光線を放った方が楽なのに。ミナさんは人間に優しいから、驚かせない配慮なんでしょ」


 なんか言ってるけど、スルーしよう。

 やっぱりドラゴンは人間とは違うのね。とか考えているうちに、誰かの声が聞こえた。


「ииящэячччб?」

「эээ!жщ?」

「ййээээ、жщ!」

「ииящ、ээээ!」



 でも、全然分からないわ。本来ドンマイン家族が使う言語なのだろうか? って言うか、自動翻訳されているだけで、こちらの人の言葉もそうなのかと驚愕する。


 こちらに来て、言葉が分かって本当に良かった。

 じゃなければ詰んでたよ。



 その後ミナさんが先に声をかけ、状況を向こうの家族に説明してくれた。

 いきなりドラゴンに話しかけられて、疑わないのかと思ったけれど、今いる環境自体が既にとんでもだから、何とか受け入れられたみたいだ。

 さすがに最初は、驚いていたみたいだけどね。


 あと転移者の言語自動翻訳は、住んでいる惑星にいないと機能しないみたいなので、特別にミナさんが魔法で通じるようにしてくれた。



「もしもし、はじめまして。私は元々そちらで暮らしていた、二宮秋男と申します」

「妻の華です」

「娘のかずさです」

「息子の水樹です」


 自己紹介をすると、ドンマイン一家からも声が返ってきた。


「はじめまして。私はヴォクシア・ドンマインと申します」

「妻のルラミーです」

「娘のカルーラです」

「息子のレノアです」


 そんな感じで対話は始まった。


 気恥ずかしいけれど、お互いの記憶を共有している同士である。

 全くの他人じゃない近い感じがして、次第に会話は弾んでいく。


「ええっ。カルーラさんは、大学に入り直したのですか?」

「そうなんですよ。私はかずささんと違って、絵心がなくて。

 その代わり聖女の力を得た時、人体の仕組みを透視出来たので医療に興味が湧きまして。

 今は医科大学に通っています」


「すごいですね。姉さんは勉強嫌いだったので、周囲は驚いたでしょ?」

「こら、水樹ったら。でも私の友人、イラスト仲間ばかりだから、疎遠になったりしてない?」


「ええ、全然ですよ。新たな夢を応援してくれました。

 依子さんは一般受けしない漫画より、現実を見て偉いって。あ、ごめんなさい」

「良いのよ、カルーラさん。貴女が困ってなければ。それにしても依子のやつ!」


「それにサム様にも追いかけられないし、安心して眠れます!」

「ストレスだったよね。束縛系だもんね。私も苦手」


「はい、もう辛かったです」

「そっか。じゃあ、今幸せなのね」


「はい、そうなんです!」

「実は、婚約は破棄されたの」


「本当ですか? おめでとうございます!」

「ありがとう、カルーラさん」


 2人は共通の敵から解放され、喜びあった。



「レノア君は大学に行って法律の勉強ですか? 

 すごいですね。

 僕は休みっぱなしでフィギュアばかり作ってたんで、知識入ってなくてごめんね」


「いえいえ。こちらの法律や常識が学べて、僕は楽しんでます。

 僕はフィギュアは作れなくて、今はネットゲームのチェスに填まっています」


「ええっ。ネットゲーム? レノア君すごいね。

 向こうの世界になかったでしょ?」

「そうなんですけど、やってみると楽しくて。

 今世界3位になりました」


「うわっ、すごいね。難しいんでしょ、チェスって」

「いえいえ。僕は幼い時から遊んでいたので。

 逆に格闘ゲームとかは出来ないです」


「そうなんだ。でもチェスがすごいから、十分じゃない?」

「テヘヘ。実はその関係で、フランス人の彼女が出来たんです。あとドバイですか? そこの富豪がスポンサーになると言ってくれて」


「はぁ、ドバイ? すごいね、レノア君。もうリア充じゃん」

「はい。幸せです!」

(ぐぬっ。少し悔しいな)


 水樹はちょっとへこんだ。



「ルラミーさんは不便はないの?」

「ええ、そうですね(顔が薄くてビックリしたのは失礼よね)。

 近所の方とも楽しくやってますし、アルバイトしてエステにも通ってますわ。

 家事も便利だし、家も暖かいし、交通も発達してるし」


「概ね困っていないのね」

「ええ、そうですね。私は向こうにいた時と変わらないかしらね。

 この家は魔法みたいだし、貴族が威張ってないし、良いですわ」


「そうね。確かにそう。向こうは平民を見下し過ぎよね。

 子供も威張ってるんだもの。そこだけはちょっと嫌よね」

「ね、そうでしょ。こちらでも上級国民と言われる人はそうなのかもしれないけど、大体は平等だもんね」


「そうね。それは良いことだわ。日本にいた時は考えたことなかったけど」


 主婦達は共感した。



「ヴォクシアさんは戸惑わなかったですか?」

「そうですね。元々私は商売人なので。家電などの、商品の販売はお家芸ですよ」


「じゃあ嫌じゃないんだね。良かった」

「秋男さんは、販売は苦手でしたか?」


「実は少し。元々建築士だったので。向こうでは私の設計で遊園地を作りました。楽しかったです」

「すごい才能じゃないですか? 夢が叶って良かったですね」


「ええ、そうなんです。今もいろいろ設計出来て、充実しています」

「良かったですね。実は私も、海外の面白い物を買い付ける商売でもしようかと思いまして。

 今は飛行機でひとっ飛びでしょ? 

 実は向こうから持ち込めた、包丁とか家財道具がエルフ製の物で高額の値がつきました。

 売ってはいないですが、何かあっても生活できる金額なんです。

 妻のジュエリーもこちらでは高値だったようです。

 ですからこちらの暮らしには、金銭では困りませんよ。

 安心してください」


「そうですか、良かった。私達が向こうで成功したのは、貴方達が真面目に暮らしていてくれたお陰です。

 だから生活を奪ってしまい、申し訳ないと思っていたのです。本当に良かったです」


「そんなに負担に思わないで下さい。お互い様なんですから。

 それに転移しなければ、お互いに死んでいたかもしれないのです。

 秋男さんの車はほぼ無傷ですが、それは中の人が消えて重さが減ったからみたいです。

 乗車したままなら、大火傷や骨折、さらに死者も出たでしょうし。

 私の微かな記憶ですが、ドンマイン家の火の不始末は潜んでいた何者かによる殺意でしょう。

 シルバーやアーミンは信用できる者ですから。

 ここに来なければ、きっと私達は死んでいました」


「そうですね。お互いに生きていて良かったってことですね」

「ええ、そう思っています。たぶんあの事故はサム様か、私の商売絡みです。

 きっと貴族の仕業なので、気をつけて」


「ありがとう。そうするよ」


 男達は分かりあった。




 話し合いの結果。

 1年に1日だけ、ドラゴン姉妹がエネルギー供給を管理官に行い、8人の魂を元の体に戻すことになった。


 やはり祖父母や親戚について、それぞれの家族しか理解出来ないこともあるからだ。

 お墓参りとかも。


 お互いに戻れないと思って暮らし、一度未練は捨てていたので、今さら完全に戻りたいとも思えなかった。

 それぞれにやりたいことも、既に出来ていたことだし。


 1年に1度、戻るか戻らないかは、話し合いでその時に決めることになった。


 異世界旅行として出向くのも楽しいかもねと、どちらの家族も今からちょっとワクワクしている。


 ドラゴン姉妹から、レノアと水樹を出来れば手放したくないと言われ、2人は感激していた。

 俄然、残留意欲が強まったみたいだ。



 ドラゴン姉妹の方でも、ドラゴン姉妹の今いる国の近辺では(今は平和で)戦うこともないので、力を放出できず発散したいらしい。

 地球へエネルギーを送るのは、丁度良い発散らしかった。

 今回のように会話の時は、小出しのエネルギーだからミナさん担当だが、魂の交換時はイメお姉さまが担当するらしい。

 面倒くさいと言って、口からエネルギーを出しそうな予感。


 それはそれで良きと、かずさと水樹は思っていたが、秋男と華には衝撃のはず。


 初回はみんな丁寧に私とか僕だが、慣れていくと俺と言ったり、貴女呼びになっていったのは、親密度が上がった証拠なのだろう。

 その後も日付を決めて、ドラゴン姉妹が遊びに来る2月に1度程の会話は続いている。

 ただ戻る予定は未定のままだ。

 なかなか全員の予定が合わないのだった。


 イメお姉さまには「私達の予定もあるから、予定は半年前にお願いね」と言われてしまい、全員有給や(学校の)欠席をしようかと画策している。




 二宮家もドンマイン家も、病気もせずに今のところ順調である。

 かずさはリンダ夫人やアクアリーネ、テュリンベイルと仕事やプライベートで多く関わり忙しい。


 水樹も弟子の熱意が強すぎて徹夜も多いようで、単位が危ないと時々呟いている。

 どうやら勉強する暇もないようだ。



 まだまだ元気が有り余っているかずさ達は、今後も面白いことに手を伸ばしていくのだった。




 取り合えず両家の安否確認は確認され、今後も付き合いは続いていく。

 本当の家族のように。




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