第11話 イケメンのスカウト?

「ヤバイよね、あの女の子。地雷臭が酷い!」


 急いで逃げた水樹は、少し走った後に何となく振りかえる。

 するといつの間にか、イケメン軍団が後ろを追いかけて来ていた。


「ちょっと、何これ? おかしくない?」


 そうこれ、本当に異常。

 だって日本なら、アイドルグループみたいな超少年の集団が、水樹を追いかけて全力疾走している状態なんだから。


 下町商店街的な狭い路地に。

 逃◯中じゃないんだから!

 BL展開でも、断固拒否だ!


 そしたらもう、そこにいる幼女からお婆ちゃんまで、キャアキャアと大騒ぎ。


 あんまり体力もない男子もいて、

「あぁ、僕もう、ダメッ♡」とか、「待って、よ。君が必要なの♡」とか、

吐息(息切れの間違い)やら絡めて、膝を突いて倒れていくから、一部の女子が嬉しい絶叫をあげて大わらわだ。


 でもさ。

 そんな怪しい奴らに捕まるの怖いじゃん!

 もうひたすら逃げたよ!


 そうしたら、そこにが現れた。

 夕食の買い物に来てたみたい。


「ちょっと水樹、何遊んでんのよ。それもイケメンばっかりじゃない。友達?」

「違っ、て。はぁ、はぁ」


 息切れしてる息子に、優しさが足りないよ。

 それに友達なら、こんなに本気で逃げないし!


「じゃあ何よ。20人はいるじゃない? あんたなんかやったの?」

「わっかんねぇ。はぁ、はぁ。

 言っとくけど、悪さはしてないよ。マジで!」

「ふ~ん、そう。じゃあ、ちょっと聞いてみようかな?」



 そう言いながら、母がイケメン達に話しかけた。

「ねえ。良い仕事あるんだけど、少し時間あるかな?」


「「「「えっ!!!(何だ、この人?)」」」」

 イケメン達の動きが止まった。


 今の母は、黄緑の髪と緑の瞳ですごい美人。

 ボッキュボンのナイスバディー。

 ちょっと猫目で、気が強そうだけどね。

 背丈は170cmくらいあるし。

 この世界でも美女に入る部類だろう(まあ、仮の姿だけどね)。


(もしかして、愛人契約?)

(まさか、旦那を探しているとか?)

(あぁん、なんか石鹸の香りが…………)

(逆に美人局?)

(なんか、もう、騙されても良い!)


 ひ弱イケメンはずいぶん向こうで倒れているので、ここにいるのは体力的にも自慢できる奴らだろう。


(お母さん、何する気だよ?)

 不思議な気持ちが消えぬまま、成り行きを見守る俺。  

 って言うか、もう疲れて動けねぇ。


「バーン。ハイこれ見て! 執事カフェとメイドカフェの若者バージョン。

 本当は老執事とかがツボなんだけど、本物ベテラン執事は貴族家の戦力でスカウト出来ないし…………ちぇっ」


 語尾が怪しいけど、スタッフ勧誘だったみたい。

 そんな母は、かずさが描いたチラシを見せてるよ。

 父が新しく描き上げていた、中世風のお城での新規事業だな。

 あれ、執事カフェにするのか?

 確かにこれだけイケメンいると、1から集めるより楽だよね。って、面接は良いの?


 そんな思いを他所に、不敵に笑う母。


「お給金弾むわよ。何と言っても1号店だからね。

 週払い(7日勤務)で、金貨1枚よ。

 破格でしょ? 

 まあさ、研修期間中は1日銅貨1枚だけど、やってみない? 

 今ね、ちょうどイケメンのホールスタッフ従業員を探してたのよ。

 定員になり次第終了よ。どう? 

 あ、私はルラミー・ドンマインよ。

 よろしくね!」


 ※お金の価値は、

 金貨1枚……………10万円

 銀貨1枚……………1万円

 銅貨1枚……………千円

 半銅貨1枚………500円 

 が、だいたいのこの世界の相場である。

 ほとんどの若者の給料は、特殊技能なしなら月給金貨1枚、多くて2枚が良い方。



「俺聞いたことあるよ。確か有名レストランのオーナーだよ、この人」

「そうだ、見たことある。俺よく行んだよ、旨いから」

「うん、うん。食ったことない物が多くてさ。

 くうっ、俺唐揚げ好き」

「僕は、ハンバークステーキが好き」

「ポテトとシェイクも良くない」

「「「「良いよね♪♪♪」」」」


 仲良いな、こいつら。

 まあ、実際旨いしね(なんと言っても、厳しいシルバー仕込みだから、妥協がないんだよね。全員に職人を目指させているのかな?)。

 そこは同意のところ。


「う~んと。どうするの、あんた達。

 無理なら他を当たるけど」

 手応えある顔で、母がニヤついて聞く。


「やらせて下さい。お願いします!」

「じゃあ、俺も」

「僕も」

「俺もやる!」

「よろしくお願いします!」


「OK! じゃあ、ついてきて頂戴。

 住所と名前を書いて貰って、研修シフト決めちゃうから!」

「「「「「よろしくお願いします!!!」」」」」


 ホクホク顔で付いていく、イケメン達だ。

 力尽きたイケメン達は、商店街のお姉さま(おばちゃん含む)に介抱されている。

 ん? 幼児もいるぞ? 情けないダメ男好きか?

 絶対止めときなさい、苦労するから(余計な心配)!


「なんだったんだ、いったい?」

 よく分からないままなんか解決して、無事に帰宅した水樹。




◇◇◇

 その頃ルフランは、イケメン達の帰りを待っていた。


「遅いわ、遅すぎる。もう、役立たずばかりね。全く」


 腕を組みながらイライラして待つも、誰一人戻って来なかった。

 体力イケメンは華と共に行き、力尽きたイケメンは自宅に戻って寝込んでしまったようだ。


「もう、なんなのよ。馬鹿ばっかりね。バリンッ、ガチャンッ!」


 イラついて物に当たるルフランに、メイド達は戦々恐々としている。


(いや~、片付け大変だわ。もうその辺にして下さい!)

(これだから、我が儘お嬢様は! あ、高い花瓶が!)

(ヒィ! 飛んできた! イヤぁ)



 そんな妹を横目に「やっぱり性格が大事だよな。愛しいカルーラに会いたいよ。はぁ」と、嘆息するサムだ。


 そんなんいいから、助けてくれよと思うメイド達だった。



「許さないから、レノア!」

 的外れな絶叫が届くのは、伯爵邸の中だけだった。


「煩いぞ、ルフラン。もっとカルーラのように大人しくしないか!」


 いつもはサムを相手にしない彼女も、今日はキレていた。


「お兄様の尻拭いをしているのに、喚かないでよ。

 本当に使えないこと!!!」


 サムには聞こえないように呟きながら、般若のように目をつり上げ、メイド達を恐怖のドン底に落としていた。


(こ、怖いわ。いつも穏やかなルフラン様が。

 これもう、呪われてない? 

 聖女様呼んだ方が良くない?)


(無理よ。だって、奥様の嫌がらせで破談になっているのに! ただでさえ、この辺で聖女と認められているのは、カルーラさんだけなのよ)


(だって……。いつもすかしてる大人ぶったお嬢様は可愛いけど、これはなんか違うんですもの)


(私も辛いわ。壊れた花瓶やカップ代、弁償させられないわよね? 

 片付けもどうしたら良いのかしら?

 高い物ならきんつぎに出した方が良いの?

 誰に聞けば良いの?

 メイド長最近、超怖いんだけど!)



 いろいろと悩むメイド達と、サムの縁談のことで家を空けるマリン。

 マリンもお金には煩いので、貴族家のメイドも楽ではなかった。絶対なんか嫌み言われそうで。


「こんなことなら、ドンマイン家のメイド喫茶に行って見ようかしら? 転職もありかも?」


「そうね。食事がてら行ってみましょう」


「「「それ良いわね。行こう行こう!」」」


 

 知らないところで、メイドの引き抜き合戦が始まっていたのだった。



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