病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末
黒木メイ
第1話
むかしむかし、ある国にたいそう美しい、けれどとても病弱なお姫様がいました。生まれた時から体が弱いお姫様は、お城の外に一度も出たことがありません。けれど、けっして不幸ではありませんでした。なぜなら、お姫様は家族や、使用人たちから愛されていたからです。
「お父様、お母様、お姉様。私、外に出れなくても幸せです。皆が側にいてくれるから」
「姫は本当にいい子ね。そんないい子にはプレゼントをあげるわ」
「お父様からのプレゼントもあるぞ」
「私からのもあるのよ」
「まあ! 嬉しい!」
お姫様は愛する家族に囲まれ、幸せな毎日を送っていました。しかし、いい子のお姫様にはさらなる幸福が待っていたのです。
ある日、隣国の王子が姫を訪ねてきました。
「おお。あなたが心優しいとうわさの姫か。なんて美しい人なんだ。ぜひ、私の妃となってほしい!」
突然のプロポーズにお姫様は驚きました。
「嬉しいお言葉、ありがとうございます。でも、ごめんなさい」
「なぜ?」
「私は病弱です。こんな体ではお妃にはなれません」
「そんなことはない! 君は私の側にいてくれるだけでいいんだ。結婚してほしい。私の生涯をかけて君を愛すと誓う」
王子様のまっすぐな言葉は、お姫様の不安でいっぱいだった心を溶かしました。
「私も愛しています」
二人は皆に祝福され、結婚しました。その後、体の弱かったお姫様は王子様からたくさんの愛をもらい、すっかり元気になりました。皆はとても喜びました。こうして二人はいつまでも元気に暮らしましたとさ。おしまい。
パタン、と本を閉じる。
「はあ」
ミルカは熱い息を吐き出した。何度も読み、ぼろぼろになった本を愛おしげに撫でる。勉強嫌いのミルカにとって、この本だけは特別だ。まるでミルカを題材にしたかのような本。
実際、そのとおりだった。幼い頃のミルカは今よりもずっと寝込むことが多かった。この本は、そんなミルカを慰めるために母が書いたものだ。ただし、ミルカはそのことを知らない。
母の狙い通り、ミルカが己の体の弱さを嘆くことが減った。ただし、その分『自分は特別な存在』『愛されて当然だ』と思い込むようになり、少々
産まれた時から
一つは、私のお姉様が優しいどころか、意地悪な人だということ。
お姉様は病弱な私を置いて、よく外出する。大切なお茶会があるからって。奇麗なドレスを着て、宝石を身につけて。自慢ったらしいの。ね。性格が悪いでしょう?
あの本に出てくるお姉様だったら、そんなことしないわ。
「あなたを置いてどこにも行ったりしないわ」
そう言って、お姫様の側にいてくれるはずよ。
お姉様は私のお姉様失格よ。
だから、私は両親にねだったの。お姉様が着ていたドレスを、身につけていた宝石をちょうだいって。正直、どれも私には必要のないモノばかり。もらったところで使う機会はない。だけど、仕方ないの。こうでもしないと、お姉様は自分の間違いを自覚してくれないんだもの。
あの時のお姉様の顔ったら……いま思い出しただけでも笑えるわ。自業自得なのに、自分が被害者みたいな顔しちゃって。まったく。
でも、残念なことに、楽しいのは最初だけだった。回を重ねるごとに、お姉様の反応は悪くなっていった。私がどんなモノを強請っても、簡単にくれるお姉様。正直、面白くなかった。
そうじゃない。そうじゃないの! もっと
どうしたらお姉様はわかってくれるのかしら。たくさん考えて思いついたのは、お姉様から次期当主の地位を奪うことだった。お姉様はまさか次期当主の座まで奪われるとは思っていなかったみたい。いっぱい勉強していたものね。でも、それも全てパーになった。私のおねだりで。
ああ、あの時のお姉様の顔……最高だったわ。今思い出しても興奮する。
――私を侮るからそうなるのよ。
ようやく理解したらしいお姉様は、私に意地悪してくることもなくなり、優しくなった。これでお姉様は私にふさわしいお姉様になった。後は……王子様が迎えにくるのを待つだけ。
そう、あの本とのもう一つの違いは『王子様』。そろそろ現れるかしら……そう思っていた頃、突然降って湧いたお見合い話。『もしかして?』と期待に胸を膨らませながら了承した。
念のため、お姉様と一緒にしてほしいとお父様におねだりするのも忘れない。だって、私は病弱なんですもの。なにかあった時、面倒を見る人が必要でしょう? それに、お姉様の相手がどんな人かも気になるわ。
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