027 泡銭の使い方

 朝起きて、楽しみにしていた取引所の結果を見に行くと。品質向上の器用の革の手袋は金貨100枚、炎上の金のペリドットのピアスは金貨90枚で売れていた。


 馬鹿な、金貨100枚だぞ?売れなかったら徐々に値下げしていこうと思っていたのに即売れだと?


 異世界の連中はみんな金持ちなのか?大富豪と呼ばれている連中は一体いくら持っているんだろう?


 だがこれで所持金は残金の金貨7枚とチートの増額分を合わせて金貨292枚になった。半分ほどは装備の強化や次の出品物の予算にするけど、100枚くらいは好きに使っていいだろう。


 購入するものはすでに決まっている。今日の午後は散財するために買い物に出かけることにしよう。


 だがまずは朝食だ。大金が手に入ったので朝から豪勢に牛の肉を使った料理を購入した。牛肉ぎゅうにくでは検索に引っ掛からないトラップがあったけど、ウシなら大量に出てきた。


 ただし、料理の値段が高い。1つ銀貨1枚以上するので、もう木の皿の値段がどうこうというレベルではない。


 その銀貨1枚のステーキも2、3口食べたら無くなりそうな小さい物だったので。奮発して銀貨3枚の物を購入した。


 牛のステーキの赤ワインソース煮★3、肉の数は3個になっただけだけど。深皿の中で大量のソースに浸かっていて、今まで食べたこちらの料理とは雰囲気からして違っているように見える。


「あの、ご主人様。この料理はもしかしてお高いのでは?」


 どうやら、ウトラの目から見ても一目で分かるくらい違いがあるらしい。


「ああ、取引所で高額の品が売れてね。お祝いにと思って買ってみたんだけど、美味しそうだよねこれ」


「それはおめでとうございます!でも、本当に私も頂いてよいのですか?」


「うん、お祝い事はみんなで祝ったほうが楽しいしね。遠慮せずに食べてよ。」


「は、はい。それでは頂きます」


 さて、料理の方はナイフで切るまでもなく、柔らかく解け。鼻先に持ってくると、ワインと脂の混ざった匂いがこちらを殴り付けてくる。


「匂いだけでパンが食べられそうです⋯⋯」


 確かに、いいおかずになりそうだ。意を決して口に入れると、噛まずとも肉がほどけ、ソースと混ざり合って口の中に広がっていく。


 これだよこれ。異世界に来たらこういう料理が食べたかったんだ。


 まぁこれ自体はあちらでも食べられる料理だろうけど、自分は食べた事が無いので感動も一入ひとしおだ。


 ただ、レシピの予想は付く。圧力鍋が無いので長時間煮込む必要はあるかも知れないけど、簡易調理のスキルなら一瞬で出来上がるんじゃないだろうか?


 角煮とかチャーシューとかも行けるかも知れないな。やはり早めに醤油もどきに手を付けるべきか。


「あの、手を付けた後で申し訳ないのですが。やっぱりお肉だけでもご主人様が食べて頂けませんか?私はソースだけでも十分ですから」


 黙々と食べて、後少しで肉が無くなりそうという頃になって。ウトラがそう言って来た。


 見ればあまり食が進んでいないようで、とても申し訳なさそうに肩をすぼめている。


「なら1切れだけ貰おうか。パンも食べたいからそれほど腹に余裕もないしな」


 行儀は悪いがウトラの皿から肉を一切れもらうと、あからさまにホッとした様子をウトラが見せた。


 気にしなくていいように、値段は言わなかったんだけど。逆に恐縮きょうしゅくさせてしまったようだ。


 気持ち良く食事をしてもらうには高すぎてもダメなんだな。一緒の食卓につくのにも遠慮していたんだから、今回の料理なら自分は3切れ、ウトラは1切れのように格差をつけた方が気が楽だったかも知れない。


 リレッタは何も気にせずに食べているけど、首輪の自失から戻して感想を聞いたらどうなるんだろうか?


 自失の間の記憶があるかも分からないし、好き勝手しているので好かれているはずもないから、やるつもりはないけどね。


「リレッタ、美味しかったか?」


「はい、とても美味しかったです」


 一足先に食べ終えたリレッタに感想を聞くと。自失状態でわざわざ、"とても"と返してきたので気に入ってくれたようだ。


 パンにソースを吸わせて、1滴残らず食べ終えると。流石に満腹で動けなくなった。


「高いだけあって美味しかったな。ウトラ、一切れ銀貨1枚の肉の味はどうだった?」


「ぎんっ!?」


 それだけ言って皿とこちらを交互に見る機械になったウトラに笑い。洗い物を任せてダンジョンへ行く準備を始める。


 まずは売ってしまった手袋を買わないとな。革の手袋よりもいいものが欲しい。使っている武器がナイフなので、敵に一番近付く事になる手は金をかけても良い気がする。


 とっさに盾にするつもりなら金属の籠手こてがいいのだろうけど。筋力1では重すぎるだろうから、やはり皮系だな。


 革の次は硬革の手袋だったけど。革が銀貨13枚、硬革が38枚、鱗が56枚と。硬革は割高感もあるし、どうせならもう一段階上の物を買うか。


 鱗の手袋[2]をなんとか取引所で探し出し、装備してみる。指の動きが少し硬いけど、これくらいなら何とかなるかな。筋力に少し振れば大丈夫そうだ。


 手の甲側には、名前の通り鱗がついたままで。撫でると冷たく硬い感触がした。


 新しい防具に満足すると、次はピアスを購入する。昨日穴を開けるのを忘れていたので、今開けないといけない。


 リレッタに聞いたところ、針にヒールジェルを塗って刺せばすぐに傷がふさがるそうだ。何日も待たずに済むのは楽でいいけど、自分で針を刺すのはなかなか怖いな。


 でも、リレッタは主人を傷付けられないし、ウトラには全力で首を横に振られたので、自分でやるしかない。


 意を決して針を刺すと。チクリとした痛みと、傷口が擦れる感触があったものの。すぐに痛みは引いて、針を抜く頃には痛みは無くなっていた。


 購入したピアスは精霊銀のピアスで、大きなサファイアがぶら下がっている代物だ。


 ダイヤ方が高くて効果も大きいんだろうけど、まだ金貨30枚は手が出せなかった。購入した精霊銀のピアスですら最安値で7枚もするし、今回買ったのは半額チートでも金貨7枚する大型の物だ。


 デザインを捨てて宝石の大きさだけで決めたけど、悪くない代物だと思う。まぁ、似合うかどうかはまた別の話だけどな。


 ついでにウトラにMPアップのマテリアを付けた、魔力の銅のガーネットのピアスを渡した。半額でも金貨1枚かかったけど、これで肉体改造がはかどるなら安いものだ。


 あまり高いものだと、危険を呼び寄せるかもしれないけど。見た目は銀貨10枚ほどの小さなピアスなので大丈夫だと思う。まさか村娘がマテリアを装着しているとは思わないだろう。


 リレッタには例のプラグにウォーター、ヒール、エンハンス、MPアップの金貨計11枚分のマテリアを半額で買って装着した。水上の快癒の激励の魔力の狼の尻尾プラグ[0]と、麻痺を追加した。毒付の麻痺のミスリルのナイフ[0]を渡した。


 のが多くて読みにくいし、効果も分かりにくい。とりあえず、エンハンスは強化魔法らしくて、基礎能力値を上げられるそうだから試しにつけてみることにした。


 流石にこのプラグを最終装備にするつもりは無いので、色々と付けてみたけど売ったらいくらになるんだろうな?


 自分の装備は、MP吸収と魔法攻撃力アップを付けた吸魔の集魔のオリハルコンのナイフ[0]と。ファイヤー、ウインド、ヒールを付けた炎上の風上の快癒の精霊銀のピアス[0]に加え、鱗の手袋にMPとINTアップを付けて魔力の知力の鱗の手袋[0]にした。


 まだまだ付けたいマテリアは沢山あるけど。革装備には付けたくないから、時間を見つけて数字が多い装備を探さなくてはいけない。


 ここまでで、かかった金額は金貨26枚。半額チートはやばいな、まだまだ買えるわ。


 でもまずは使い勝手の確認がしたいな。魔法が弱いって事は無いだろうけど、使いづらい可能性はあるもんな。


 今回はナイフに魔法攻撃力アップを付けたけど。本来は杖で魔法を使うんだよな?見た目的に強そうじゃないんだけど、あれで魔物を殴っても大丈夫だろうか?


 なにせ宝石がついた木の棒だ。乱暴に使ったら壊れそうだから、振り回すのが怖い。


 取引所に出品されているマテリア装着済みの杖を見てもINTアップや魔法攻撃力アップ、あとはどのマテリアか分からないけど。大火、大水、大風と名前に付いている杖が多かった。


 名前的にはファイヤーとかウォーターのマテリアを装着したのかな?アクセサリー以外に付けると効果が違うらしいから、きっと名前も違うんだろう。


 重要そうなMP吸収のついた杖が無かったから、やはり杖では殴らないのが普通な気がする。


 基礎能力値を上げる装備も一式欲しいけど今は自重しておこう。全部上げようとすると10カ所以上必要だもんな、装備が足りないよ。


 自分の装備を整えた後、リレッタの着替えを手伝う。


 プラグに薄く油を塗って広げさせた尻に入れると。明らかにおかしな角度でミニスカートの下から狼の尻尾が生えている。


 ああ、そうだった。同じ部位の物を装備する時は、装備する順番を先にしないと効果が出ないんだっけ。一度ミニスカートを脱いでもらわないといけないのか。


 自分が装備している革のベルトもそうだけど、アクセサリーは種類が多いから気を付けないと。


 さて、角度は変とはいえ。尻尾があるのに耳が無いのも片手落ちだ。


 幸いな事に取引所には狼耳のヘアバンドが売っている。値段も銀貨13枚と安いし買ってみるか。


 こういう時に限って数字が[3]の物があっさりと見つかった。美容を50まで上げれば使い道があるとはいえ、今は防具でそれが欲しかったんだけどな⋯⋯


 元々怖めの美人であるリレッタが狼のコスプレをすると凛々しい雰囲気になった。きっとズボンがよく似合うだろうな、今は履けないけど。


 さて、遅くなったけど準備はできたのでダンジョンに行くとしようか。


「いってらっしゃいませ」


 ウトラに送り出されて、ナデールのダンジョンへとワープゲートを開いた。

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