異世界には都合の良い盗賊が落ちている

ガラゴス

第01章

001 〇族、埃にまみれの大地に立つ

 ふと、目が覚めると。背中や足にザラリとした感触が広がり。慌てて起き上がると寝床についた手には砂がつき、舞い上がった埃で盛大にくしゃみが出る。


「ぶぇっくしょいっ!何だ、どこだよここ?」


 辺りを見回すと、ゆっくりと目が慣れ始め。窓につけられた木材の割れたすき間から入る光によって、ヒビの入った石の壁が薄っすらと見えてきた。


 床は木製のようだけど、砂ぼこりが積もり白く変色している。自分が寝ていた場所にくっきりと跡が残っていて、埃の分厚さを感じさせる。


 さて、なぜこんな所に寝ていたのだろうか?自分の部屋はあまり掃除をしないとはいえ、年に数回は掃除機をかけていたので、ここまで埃が積もることは無い。


 壁も壁紙が貼られた木造の家だったし、こんなコンクリートだか漆喰が塗られたヒビ割れた壁ではなかったはずだ。


 なんならたたみだったので、板張りのフローリングですら無い。


 そして何より、スウェットを着て寝ていたはずなのに、下着すらいておらず、完全に裸族である。埃に住んでたダニか何かに食われたのか、体はかゆいし気分は最悪だ。


 さらわれたにしては縛られてはいない。部屋の扉が壊れて横に転がっているので、部屋から出ることはできそうだ。


 拐われたのではなければ、夢遊病にでもなったのだろうか?せめて服は着ているままでいて欲しかった。どうやって帰ろう⋯⋯


 周囲を確認していると、部屋の外から物音がし始めたので誘拐犯が帰ってきたのかもしれない。倒れた家具の物陰ものかげに急いで身をひそめる。


 壊れて積み重なった家具のすき間から部屋の入り口を見ていると、小汚くてダサい服を着た男がゆっくりと部屋に入って来るのが見えた。


 暗がりでもハッキリと分かるほど物騒な物を腰につけている気がする。あんな物を腰に着けていたら百人が百人とも警察に通報するだろ。


 男は入り口の近くで周囲を確認するように見回した後。しゃがみ込んで家具のすき間からは見えなくなってしまった。


「******」


 男が何やら独り言を言ったあと。しばらくの間、カタカタと木を動かすような音が響き。ジャラリと複数の金属が鳴る音と、ゴトゴトとそれなりに重量のある物を置く音が聞こえてくる。


 なんとか見ることができないかと周囲を確認してみると。いつの間にか顔の横に大きなネズミが鎮座ちんざしており、ひくひくと小刻みに鼻を動かしながらこちらを見ていた。


 家具から飛び降りたネズミは、壁の穴からそのままどこかへ走り去って行ったが。飛び降りた音を聞いた男が急いで立ち上がる音がする。


「******!」


 男が知らない言葉で何かを叫んだけど、多分「誰だ!」とかそんな感じだろう。この場面で他に言う言葉が思い付かないし。


 そのまま隠れていてやり過ごしたかったのだけど。男が腰の物騒な物を抜き、こちらに向かって歩いて来たので見つかるのは時間の問題だろう。


 むしろ周囲を見回して確認したくせに、床に残っている足跡に気が付かなかったのがおかしい。何を確認していたんだ?暗がりでも見えるくらいくっきりと残っているんだけど。


「************!」


 また何か言っているが、多分出てこいとかそんな感じだろう。せめて英語で頼む。リスニングなんてできないけど、まだ望みはあるはずだ。


「今出ていくから殺さないでくれよ!えーとプリーズ ヘルプ ミー」


 赤点スレスレの英語力を発揮し、両手を上げながら出て行くと、すぐに男の顔が驚いたものに変わる。


「*******!***********!」


 多分この変態野郎!だろう。その後に続く言葉は分からないが俺もそう思う。言葉が分からなくても俺達の心は通じ合っていると思う。


「気が付いたらここにいたんだ、とりあえずその物騒なのは下ろさないか?」


 こちらの必死な願いもむなしく、男は手に持っていた物騒な物を振り上げ、こちらに走ってきた。


 逃げるために慌てて走り出すが、数歩で足がもつれて転び。男の振り下ろした物が家具にぶつかる大きな音が鳴り響いた。


 痛みをこらえながら急いで起き上がりると、男が振り下ろした武器が家具に食い込んで抜けなくなったらしく。こちらに背を向けて家具に蹴りを入れていた。


「マヌケめ!カッコつけてそんなもん持ち歩いてんじゃねぇよ!」


 チャンスとばかりに、渾身のドロップキックを男に食らわせることには成功したが。着地には失敗して盛大に背中を打ち付け、痛みで息が止まる。


 おかしいな、学生の頃は受け身くらい取れたはずなんだけど、運動不足でこの程度の動きもできなくなったんだろうか?


「******!************!」


 助走もしていないし大した威力も無かったのだろう。蹴りを入れる必要も挑発も必要無かったかも知れない。普通に逃げれば良かった。


 男は大層なお怒りのようで、怒鳴り散らしながら家具に手をついて勢いよく立ち上がる。


 男が手をついていた家具が崩れ、バランスを崩した男が倒れ始め。なぜだかその光景がゆっくりと進んでいく。


 深く集中すると起こるというゾーンってやつだろうか。間違いなく使う場面はここじゃない。さっき武器を振り回していた時に使えよ。今使っても意味無いだろ。


 男が倒れていく先には、家具に刺さったままのが残っており。その事に気が付いた男が必死に身をよじって、避けようと体を動かす。


 必死の抵抗もむなしく。いや、抵抗したせいで事態は悪化したのかも知れない。


 刺さったままの剣の刃に男の首が当たり、剣が斜めになっていることと体重合わさることで、皮膚を切り裂き肉に深く、深く、刃がめり込んでいく。


 骨を切断するほどの威力は無かったようだけど。それでも首の四分の一でも切れれば十分、致命傷ちめいしょうだろう。


 慌てた様子で剣を首から引き抜き。傷口を手で抑えながら腰に着けた袋を漁り、何かを取り出し首に当てた男だったが。間に合わなかったのか、そのまま倒れ込み動かなくなった。


 ゆっくりと進んでいた時間が元に戻り。慌てて男にかけ寄ったが。動かなくなった男はそのまま息を引き取り、死体が光の粒子となって消えていく。


「いや、なんで死体が消えんだよ。ゲームじゃねぇんだぞ」


 あまりにもおかしな光景に素でツッコミを入れ、消えてしまった男の服に触れてから。自分の頬をつねり、夢でないことを確認する。


 どうやら夢でも何でもなく現実に起こっている事のようだ。


 そういえばさっき転んだ時めっちゃ痛かったわ。つねる必要はなかったな。


 非現実的な光景だったが、あの男は幽霊でもホログラム映像でもなく、触れられる存在だったようだ。


 残された服には触れるし。なぜだか知らないが男が消えてから現れた、変なカードと貨幣かへいにも触れることができる。


 まぁ死んでしまったのなら仕方がない。残された服は有効活用させてもらおう。小汚いし、見た目も趣味じゃない上に首元が血で汚れているが、こちらも切実せつじつなのである。


 家に帰りたいけど全裸ではこの家すら出たくない。いや、家までの距離によっては、全裸で外に出て通報してもらった方が早く帰れるかも知れないけど。目の前に服があるのに、そんな冒険をする気にはならない。全裸プレイはゲームの中だけでいいのだ。


 そういや携帯持ってないのか携帯電話。今はスマホか?何にせよ申し訳ないが遺品いひんあさらせてもらおう。


 あれ?服についた血はそのままなのに、床に流れたはずの血が消えてるな。まぁいいか。血の感触は気持ち悪いけど、おかげで汚れは少なくなった。残った遺品と、しゃがんでいた辺りの床を調べさせてもらう事にしよう。


 たぶん床下に何か隠してたんだろ。何のためにこんな所に隠していたのか知らないけど、駅や店前で配っているチラシ以外、もらえる物はもらっておく主義だ。ポケットティッシュだって喜んでもらってやるぜ。


 男が下着もつけずにズボンを履いていたことに、驚いたと同時に顔をしかめ。靴を履いた時に、突然収縮して足にピッタリフィットした事に驚いた。


 触っただけでカタカタと音を立て、あっさりと外れた床板のすき間から、見えた隠し物を見てようやく納得ができた。


 うん、ここ異世界ファンタジーってやつだわ。なんでか知らんけど転移して来ちゃったらしい。

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