第14話 遠征

俺は遠征に備えて、ミレイさんと一緒にエミュレーターの情報の更新と拡張をしてもらっていた。


「リゲルさん、エイドスを召喚できるようになったって本当なんですか?」


端末を操作しながら、ミレイさんが興味深げに尋ねてくる。


「……アストラのことですか? たぶん、それだと思います」


「アストラ……名前、つけちゃったんですね」


彼女は少し呆れたように笑った。ダメだったかな。いや、でも呼びにくいし。


「エクリスタはお持ちですか?」


俺はポーチから石を取り出し、そっと差し出す。


「……本物みたいですね。これは《エクリスタ》といって、エイドスと契約した者にしか現れない特別な鉱石です」


ミレイさんの声が真剣になる。


「エクリスタは契約者の感情に反応して色が変わり、その状態で砕くとエイドスが召喚されて、召喚を解けば、また元の形に戻ります」


俺は試しに、ザルグロスの一件を思い出してみた。すると手の中のエクリスタが、じわりと赤く染まっていく。


「へぇ……」


どれ。エクリスタを地面に叩きつけた瞬間、足元に魔法陣が展開され、アストラが現れると同時に衝撃が走る


「きゃっ!?」


ミレイさんが小さく悲鳴を上げた。


「あ、すみません。アルシオン内での召喚はダメなんでしたっけ!」


「当たり前です!」


すぐにアストラを引っ込めると、彼女はため息を吐きつつエミュレーターの登録作業を続けた。


「エイドス契約者ってそんなに珍しいんですか?」


「ええ。現在契約に成功しているランサーは、Sランクにたった一人だけです。私も実物を見たのは初めてです」


彼女は微笑んで、俺を見つめた。


「リゲルさん、きっと大物になりますよ」


「……そうですかね。俺、普通でいいんですけど」


その笑顔に少し居心地の悪さを感じながら、エミュレーターへの登録を終えた。


それから数日後。


俺は遠征のために買い出しに来ていた。


結局あれから本当に決まってしまい、明日から遠征することが決まった。


最初は面倒だと思っていたが、よく考えると俺はこの世界のことを知らないことに気付いた。


英雄、魔力の嵐の、自分のこと。


今は分からないことが多いし、遠征するのもアリだなという気がしてきていた。


同じ街からずっとクエストを受けるくらいなら、世界で情報を集めながらこなした方がいいと思った。


「とりあえずこんなもんかな…?」


遠征なんてしたことがなかったので、とりあえず、食料や回復薬などパッと思いつくものをあらかた買ってきた。


なるべく荷物減らさないと移動面倒だよな…


そう思いながらプティルハウスに向かった。


「リゲルさん遠征の準備終わったー?」


ミーナが明るい声で聞いてくる。


「いや買い出しは終わったけど、準備はこれからー」


準備って本当に面倒くさい…

でもやらないとあとで困るし、憂鬱だ…


「あ、そうだ!リゲルさんにいいものあげるよ!」


ミーナはそう言って、自分の部屋に戻った。

なんだろう…?


「はい!これ!」

走って戻ってきたミーナがボロボロの地図を手渡してくる。


「私の死んだお父さんが昔ランサーに所属してて、地図を改良してたんだって!リゲルさん方向音痴だしあげる!」


ミーナが満面の笑みでそう答える。


「別に方向音痴じゃないぞ!でもありがくいただきます」


道は全く分からないので、これはありがたい。


ミーナにお礼を言って、自分の部屋に戻る。

とりあえずさっさと準備をして、今日は早く寝よう。




翌朝。俺は朝食をとりながら、行き先をどうするか考えていた。


「……決まってねぇ」


完全に失念していた。


ていうか遠征って、行先は自分で決めさせるのかよ…


行き先は自由で、クエストがエミュレーターに送られてきたらそこへ向かう。


これって体の良い厄介払いじゃないの?


とりあえずアルシオンへ向かうと、途中で聞き覚えのある声が呼び止める。


「リゲル!」


振り返るとエルミナが立っていた。


「あれ?エルミナ?こんなことで何やってんだ?」


「あなたを待ってたのよ。遠征組になったんでしょ?昨日聞いたわ。私もノウム族の村に行く予定だったの」


エルミナが得意げに語る。


「ノウム族?」


「ええ。感情を捨て、論理と理性のみで生きる種族。世界で最も賢いと言われているわ」


そんな種族いるんだ…


「へえ。それでなんで俺を待つんだ?」


「ノウム族の村には英雄を祀っている石碑があってね。ノウム族にしか読めないんだけど、それが分かれば英雄に関する手がかりがつかめるかもしれないから。」


英雄のことが記されている石碑か

どうせ大したこと書いてないんじゃないの…?


「へえ…」

「へえって何、他人事みたいな事言ってるの」

「え?」

「あなた遠征の行き先は決まってるの?」


「…」


ちょうど行き先を考えていたところだ…


「やっぱりね」


エルミナは呆れたようにため息をついた。


「英雄のこと気になるんでしょ?」

「まあ、少しはなぁ」

「だったらまずそこに行ってみましょう」


そこで気になることを聞いてみた。


「エルミナはそこに何しにいくんだ?なんで英雄のこと調べてるの?」


「…」


エルミナはまた少し黙った。


だが少し考えるような素振りを見せてから口を開いた。


「私は《星読みの巫女》だから。私の一族は代々星を占って英雄を導くのが役目なの」


「星読みの巫女?」


聞いたことないな。英雄を導くって何だ?


「俺は英雄じゃないってあの占い師が言ってたろ?」


「ええそうね、初めは私もあなたが英雄なんじゃないかと思ったわ。魔法も闇属性だったし。でも違った。」


「じゃあなんで?」


「英雄のことはほとんど分かってないのよ。伝承くらいしか残ってないし。」 


まああの占い婆さんもそんな事言ってたよな。


「あなたも英雄に興味があるんでしょ?あなたが英雄のことを調べるなら、目的は一緒だし、それに…」


エルミナが何かを言い淀む。


「?」


「それに……あなた自身のことも気になってるの。普通の人間には思えないから。転生してきたっていうのも気になるし、エイドスとも契約したんでしょ?」


どこでそんな情報仕入れてくるんだ…


「よく知ってんな…誰情報だよ…」


「昔アルシオンにいたって言ったでしょ?その時の知り合いにね」


やっぱり、アルシオン内に情報提供者がいるのか。

多分グラントとかその辺だろ。

俺がヴォルグを倒したのも知ってたし


「なんとなくは分かった」


本当になんとなくだけど…


「どう?目的は一致してるし、ここは協力しない?」


エルミナが笑顔で手を差し出してきた。

まあ確かに1人で遠征は不安だし、エルミナなら信用できるか…?


少し考えてから俺はその手を取った。


「分かった。そういうことならこれからよろしく」


「ええ、こちらこそ」


そうしてエルミナと握手を交わす。


---


そこから俺とエルミナは近くの店に入って、地図を広げて作戦会議。


「ノウム族のグリンダルは、セントラから数日歩けば着くわ。」


エルミナが得意そうに髪をかきあげながら説明する。


「遠いなぁ」


やっぱり車とかないと、移動不便だよなぁ


「仕方ないでしょ。世界は広いのよ」


まあそうなんだけどさ


俺は注文したコーヒーに口をつけていた。

そんな会話をしていると、賑やかな声が飛び込んできた。


「リゲルさんお疲れ様です!」

「…レオンか」


まさかここに現れると思ってなかった。


「リゲルさんを探してたんですよ!」


相変わらず声がでかい…

なんの用だ…?


「リゲルさん!今回のこと…本当にありがとうございました!さっきアルシオンで今回のこと教えてもらいました」

レオンが嬉しそうにそう言ってくる


「あー、まあ気にすんなよ」


俺の場合は降格させようにもランクがEだからこれ以上下げようがない。


だがレオンは違う。せっかくBランクまで上げれたんだから、騙されただけで降格は少し可哀想だと思っただけだ


「本当に俺嬉しかったです。それで俺決めたんです!」

目を輝かせながらレオンは言った。


「なに…?」

「俺もリゲルさんの遠征に同行させてください!!」

「はぁ!?」


驚いて言葉を失った。

ランクアップはどうした!?


「元は俺のせいですし、それに……俺、もっと強くなりたいんです。」

「ランクアップはどうしたんだよ?」


「俺にとってランクアップは姉ちゃんとの約束や、俺自身を認めてもらうためのものでした」


「でもリゲルさんと会って、助けてもらってそれだけじゃダメだってことに気付いたんです!」


レオンが目を輝かせながら続ける。


「だからリゲルさんに同行して、もっと成長したいと思ったんです!」


いや俺のせいかい…


「良いんじゃない? 戦力は多い方がいいし、何より覚悟ができてるみたいだし」


エルミナは少し驚いた顔でやり取りを見ていたが、やがて微笑んだ。

うーん、まあ悪いやつではないけど…


「なるほどね…でも俺は特に目的もそんな高い志もないぞ?普通にSランク目指した方がいいと思うけど…」


「大丈夫です!今はランクアップよりもっと大切なことがあるので!ていうか遠征中でもクエストをしっかりやって条件を満たせばランクアップできるし!」


遠征中でもランクアップはできるのか。


「だからお願いします!」

レオンは笑顔でそう言った


「はぁ、分かったよ。その代わりあとで文句言うなよ…」


「よっしゃ!ありがとうございます!」

レオンはガッツポーズを取って喜んでいた。


「改めましてよろしくお願いします!!」

レオンは笑顔で右手を差し出してきた。


こうして、遠征は3人でスタートすることになった。

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