第12話 エイドス契約
森の中を走りながら必死でレオンを探す。
「クソ!あのバカどこまで行ってんだ!すげー音なってるし!」
ぼやきながら走っていると、凄まじい雄たけびが聞こえた。
近くか!そう思い、しばらく走っていると、ようやく森を抜けた。
「あれなあ、俺がみんなにお前の姉貴の話をしてたからだよ!全員お前にお前の姉貴を紹介してほしくて、優しくしてたんだよ!その証拠にある時から急にみんなそっけなくなっただろ?」
見たことない男がレオンを攻撃してる、あの野郎…
「ッ…」
「あれも俺がみんなにお前にいくら恩を売ったって、姉貴は紹介してくれねーって言ったからだよ!!ハハハじゃなきゃ誰がお前みたいなクソ生意気なガキの世話するってんだよ!」
聞くだけで胸糞悪くなることをレオンにぶつけているが、レオンは言い返さない。
ダメージを負いすぎて言い返すことすらできない状況なのか
「お前は結局歌姫の弟ってことくらいしか価値がねえんだよ!!」
あっ…
レオンが泣いている。
それを見た瞬間‥‥俺の中で何かがはじけ飛んだ
不思議と思考はクリアだった。
だが、心から湧き出る感情を抑えることができなかった。
やることは1つ
全身から真っ黒い魔力があふれ出てくる
息を吸い、吐く。
「おい」
自分でも驚くほど、冷たい声だった。
「そいつから手を放せ」
「あ?なんだお前?」
男の問いに答えるより先に身体が動いていた。
「放せって言ってんだよ」
俺は一瞬でそいつの後ろまで移動し、殴り飛ばす。
自分でもなんでこんなことができるか分からない。
「レオン!だから言ったろ。クエストはしっかり確認しろって」
「…なんで…?」
レオンが力なさそうに呟く
それを見て余計に怒りがわいてくる。
なんでこいつが泣いてんだ?こいつは必死に昇格しようとしてただけだろ。
それをあの男が…
「こ、この野郎!お前何者だ!よくもやってくれたな、この俺を殴りやがって」
男がようやく立ち上がる。男のすぐ後ろには巨大な魔物がいる
こいつも敵か?まあ関係ねえな
「お前もランサーか?お前もあのガキと同じようにしてやろうか!?」
何か言ってるが頭には入らない
「おい。お前のこと許す気はねえからよ。覚悟しとけよ」
冷たい声で言い放つ。
「思い知らせてやる!いけザルグロス」
男が声に怒りを滲ませ、指示を出す。
男の指示と同時に魔物が動き出す。
魔力を溜めようとした、その瞬間俺の胸が急に痛みだす…なんだこれは…
身体中からどんどんどす黒い魔力があふれ出てくる
―その瞬間だった。
背後に禍々しくも美しい魔法陣が展開される。
無数のルーン文字が怒りに共鳴し、唸り声のような音を立てながら輝きを増していく。
魔法陣の中心から、灼けた風が吹き上がる。
空が割れるような音とともに、雷のような感情の奔流が爆ぜた。
赤黒い衝撃波が爆ぜ、空間が一瞬だけ揺れる。
それは怒りそのものが形を得たような存在。
巨大な輪郭は人型だが、獣にも似ていた。
鋭い角と灼けた腕、燃え上がる目の奥には、怒りの炎が宿っていた。
「……な‥なんだ、あれ」
男がつぶやく。
それはリゲル自身の内に潜んでいた“感情の魔人”――
彼の憤怒が限界を超えた時、彼の中のエイドスが姿を現した。
ザルグロスがその巨大な剛腕を振るう。
しかし魔人がその腕を刀で一閃。
痛みと怒りでザルグロスが咆哮を上げるも、魔人から凄まじい魔力オーラが放出される。
その瞬間ザルグロスの動きが止まった。というより、震えている。
魔物とはいえ、生物。本能的に生命の危機を感じ怯えているようだった。
「やれ」
俺は冷たく言い放つ。
魔人が刀を振り抜いた瞬間、何も起きなかったように見えた。
だが次の瞬間、風が止まり、ザルグロスの首が音もなく落ちた。
斬られたことに気づかぬまま、魔物は倒れた。
「は?」
男は最初何をしているか分からなかった様子だったが、すぐに異変に気付く。
刃の斬撃がザルグロスに命中し、一撃で絶命する。
一瞬の出来事に男は理解が追い付かず、混乱していた。
「こいつがS級の魔物?まあなんでもいいけどよ。あとはお前だな」
「…は…え…?」
男は状況が理解できないまま、周りを見渡している。
「俺はよ、てめえみてーな野郎が大嫌いなんだよ。いい大人が若いやつの邪魔をしやがって」
俺がゆっくり歩いて男の元へ向かうと男が腰を抜かす。
「こいつには姉しか価値がねえだと?」
そう言って俺は剣を抜く。
「あ…あ…」
俺は構わず剣を男の前に突き立てる。
ガキンと鈍い音が鳴り響く。
「次はねえぞ。」
無言で拳を握る。
一発。反論も許さぬ鉄槌だった。
男は吹っ飛び、完全に気を失った。
さっきまでの争いが嘘のように周りには沈黙が走っていた。
さてと…
「おい、レオン大丈夫か?」
「リゲルさん…なんでここに?」
ボロボロのレオンがそう聞いてくる。
「あー、たまたまだ!たまたまスライムの討伐クエストが森だったんだ!そうしたら、なんか物音がしたから来てみただけだぞ!ラッキーだったなお前!」
レオンが何か言いたげな顔をしたが、すぐに俯く。
「はぁ…ボロボロだな」
「リゲルさん…俺…すみません、昨日散々酷いこと言ったのに…本当にごめんなさい…」
レオンが俯いたまま涙声でそう言ってくる。
「え?あーそういや昨日酔っ払っててあんま覚えてねーんだよ!お前なんか言ったの?」
茶化すように言ってみたが、レオンは何も言わないまま拳を握って震えている。
…悔しいんだな
レオンの気持ちが痛いほど伝わってくる。
俺は地面に伏せてるレオンの横に腰掛けた。
「何泣いてんだよ?」
「俺…悔しくて…空回りばっかりで…周りに疎まれて…結局昇格もできず、リゲルさんに当たって、殺されかけて、助けられて…本当に…何やってんだろう俺…結局自分のことしか頭になかった…」
涙声で必死で伝えてくる。感情がぐちゃぐちゃになってるようだったが、レオンがここまでどれだけ悩んでいたのかが伝わってくる。
「お前の良いところだろそれは。」
「…う…」
レオンは一瞬黙って余計に泣き始める。
「昇格目指して、目的持って、そこに向かって突っ走れる。それはお前の長所だ。歳を取ったり、周りばっかり気にしてると、そういう気持ちもいつの間にか無くなっちまうんだよ。大切にしろ」
「…」
レオンは黙って何も言わない。
「今のうちに色んなことを経験しとけ。昇格目指してがむしゃらになるのも、敵にハメられて死にかけるのも。全部大切な経験だ。生きてりゃいくらでもチャンスはある」
本心からそう思った。手遅れにならなけばいくらでもチャンスはある。
「なんで俺を助けてくれたんすか…?」
レオンが震える声で聞いてくる
「後輩が死ぬ気で頑張ろうとしてんだ。それをサポートのすんのは先輩の義務なんだよ」
レオンはまた黙る。嗚咽を堪えているのが分かる。
「だから昇格諦めんなよ。できる限り気が向いたらサポートしてやっから」
「…ありがとうございます。でもリゲルさん…Eランク…」
「うるせーよ!俺は良いんだよ!」
そういうと、レオンがようやく笑いだす。
それから少ししてレオンも落ち着きを取り戻す。
「てかリゲルさんエイドス召喚できたんすか?」
「え?」
「いや後ろのエイドス…」
レオンが指差した方向へ顔を向ける
「うわ!」
あのイカついの、まだいる…
これがエイドス?
「なんだこいつ…知らん…」
「知らんってどういうことですか…契約はしてるんですか?」
契約?
「多分してない」
「した方がいいですよ!!」
レオンが興奮気味に言ってくる。
「エイドスを召喚できる人なんて滅多にいないです!絶対契約したほうが良いです!」
そう言われても、やり方知らんし…
「いややり方分からんし…契約書も実印も持ってないぞ」
「何言ってんすか…自分もエイドスなんて見るの初めてなんで分からないですけど…」
「うーん」
とりあえずエイドスに向き合ってみる。
「喋れるのか?」
そう聞いてみるが返事はない
「まあいいや。とりあえずお前と契約する。これからよろしく頼む!」
そう言ってとりあえず右手を差し出してみた
「…」
エイドスは何も言わないがその瞬間、黒炎が一気に爆ぜる。
影の身体が崩れ、炎となってリゲルの胸へと流れ込んできた。
重く、胸が苦しい、でも――力強い。
だがそれもすぐに治まる。
そして右手にダイヤのような透明な鉱石が握られていた。
「なんだこれ…?」
「自分も見るのは初めてなんで良くわからないですけど、エイドス契約者はエクリスタってものを使って召喚するって聞いたことあるのでそれでは?」
ふーん
まあ戻ったらミレイさんに聞いてみるか
「本当にリゲルさんは謎すぎます」
レオンがまたそう笑い出す
「エイドスねえ」
エクリスタを覗いてみるが、何も映らない。
なんかイカつかったなぁ。でもまあカッコいいしいっか!
「よし!こいつの名前はアストラにしよう!」
名前がないと不便だし名付けてやった。アストラもリゲルって名前にちなんで星って意味で格好いい。
「え?」
レオンが口を開けて驚いている。
「なに?」
「いや…エイドスって名前つけていいんですか?
「え?ダメなの?」
じゃあみんなエイドスのことなんて呼んでんの?
「…」
「…」
なんとなく気まずい沈黙が流れる
「まあ問題ないだろ!契約もできたんだろうし!」
無理やりそう思い込むことにしたが、レオンが呆れた顔でこちらを見つめていた…
--
レオンが自分のケガの手当てをしながらそうつぶやく。
「やっぱアルシオンからペナルティきますよね…?」
「ミレイさんはそう言ってたな。まあそこは仕方ねーな。お前も実力だけじゃなくて、騙されないようにならないとな。それが昇格できない理由なんじゃねえの?」
そう笑いながら伝える。
「確かにその通りですね!リゲルさんありがとうございます!今回のこと!しっかり反省して、最後まで諦めず頑張ります!」
「…」
暑苦しい…でもそれがこいつだしな。
「頑張れよ」
そう伝えるとレオンもニヤッと笑う
「あー!それにしても降格かなー?減俸かなー?どっちにしても夢が遠のくなー」
レオンがぼやきながらも清々しい顔をしていた。
……
「まあとりあえず今日はボロボロだから、早く帰って休みな」
「はい!リゲルさんは?」
「俺はクエスト終わらせてからミレイさんに報告だわ」
面倒だが、まだ自分のクエスト何もやってない…
「分かりました!リゲルさん本当にありがとうございました!」
元気だなぁ
…俺もさっさと済ませるか。
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