十一輪 第2グループ

ウィリアムサイド


暖かな日差しが揺らめく動物園の通路、人影はまばらで、平日ゆえの静けさに足音だけがこだまする。あるグループが立ち止まったのを見つけ、ボクは彼らの後ろへとさりげなく張り付いた。


「ねえねえ、あれ何?」


「ハツカネズミ」


「アレはー?」


「カピバラ」


「アレはー?」


「だからハツカネズミ!」


意味の分からない会話に呆れて溜め息をつく。だが、気を抜くわけにはいかない。マリンが仁藤進を回収したら、俺の介入タイミングだ。

背後の冷たい壁に片手を当て、息を整える。そのとき、マリンの声が耳元をかすめ、仁藤進を回収する合図が送られた。


「ねえ、ススムのこと誰か知らない?」


「知らない。迷子?」


「でも……ほんの少し前にススムの声聞いた」


「ちょっと探しに行く?」


女子が首をかしげる瞬間を狙い、俺は静かにブーメランを構えた、掌になじむ黒い刃が照明で輝く。


「そんなことさせるか」


そう言って入り口の方向に立ちふさがる。男子が警戒しながら口を開く。


「……お前、何者だ?」


「お前に名乗る義理はない」


低く告げると同時に、遠隔で館の電灯を一瞬落とす。ブレーカー操作の緻密なタイミングを計算し、次の瞬間に手首から放つ。


「しゃがんで!」


ブーメランが暗闇を切り裂き、女子の頭部のすれすれを飛んだ。恐怖に叫ぶ声に、舌打ちをする。音で気づかれたか。


「だれか、ブレーカーを直しに行って!」


それと同時に、男子が部屋の隅に動くのが分かる。同時に、ブレーカーが、元に戻った。灯りが戻る刹那、ブーメランは背後にいた男子の眼に刺さる。血の匂いがほのかに漂い、彼は呻き声をあげて床へ崩れ落ちる。


「飛灯!」


「東北東にまっすぐ、504メートル先に進んで。ススムの声が聞こえた」


「でも置いていけない……」


「はやく!」


全員が走り出す。……クソ。聴覚の能力持ちか。

「能力」は、この世界でしか使えない力で、住人の約9割が持っている、人が生まれながらに持っている能力を好きなように扱える力だ。

ただ、人によって能力の内容は違う。例えば、アイツの場合、能力は「聴覚」。どんなに聴力を強めることも、弱めることもでき、その音が自分からどれだけ離れているかも分析できる物だ。

しかし、使った場合は反作用が存在する。

また、能力のもう一つの特徴は、能力ごとに髪を染めて、誰でも誰がどの能力を持っているのか、色と能力を暗記していれば秒でわかるシステムになっていることだ。なるほど、聴覚は紫なんだな。忘れないようにしておこう。

靴底で砂利を踏みしめながら、指示された方角へと駆け出す。群衆の悲鳴の音が遠ざかり、ただ俺の鼓動だけが鼓膜を震わせる。

目指すはマリンと合流した仁藤進のいる場所。今日の交流会はまだ終わってはいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る