【祝 500PV突破!】天に咲け、紅い花
まな板の上のうさぎ
第一章 新学年が始まるよ!
第一部 高校生っ
一輪 溜める必要ありました?
「ただいまーっ!」
玄関のドアを勢いよく押し開けると、部屋の涼しさのせいで暑い外に近い背中に熱気が這う。
靴を脱ぎ、廊下を伝うひんやりとした空気に、思わず肩の力が抜ける。
家の中はひんやりと涼しく、汗ばんだ肌には心地よかった。
「ウィリー、おかえりー!」
リビングのソファーには、ツインテールを揺らし、マリンが寝転がっている。
マリンは、俗に言うギャル。露出の多い服を着て、淡い桃色と白が混ざった髪を、ツインテールに結んでいる。
マリンは、ハート型の耳飾りを揺らし、軽く足を組みながら扇風機の風を浴びていた。
頬の淡い紅潮が、暑さとくつろぎを同時に物語っている。
「あれ、マリン、帰ってくるの早いね」
「まあ、あーし今日部活なかったから。しかも今日暑いし、走って帰ってきちゃった」
「わかる。ほんと暑いよね、最近」
まだ春なのに。
少し前に高校の入学式終わったばかりなのに、初夏みたい。
ボクは、マリンのほうをちらっと見る。
今思えば、この光景もおかしなものだ。
家族じゃない人が家にボクより先に帰ってきていて、しかも一緒に住んでるなんて。
しかも、マリンとボクだけじゃない。もっと大勢住んでいる。
まあ、何年もこうだったし違和感は無いんだけど。
例えるなら学校の生徒寮に近いかも。
年齢の離れたいろんな人が同じ家に住んでる。
ここは、ある裏社会の集団の基地。
家が同じだと色々と便利だから同じところにメンバー全員で住んでるってわけ。
まあ、そうは言っても全然殺伐としてるわけじゃないけどね。
みんな個々に与えられたコードネームで、家族みたいに暮らしてる。
リュックを床に下ろし、カバンの中から課題のプリントを引っ張り出すと、マリンが何かに気が付き、話しかけてくる。
「あれ、マリリンは一緒に帰ってきてないん?いつも一緒なのに」
「あー、マリーなんか居残りだって。なんでかはわかんない」
「ふーん」
ページをめくる音を聞きつつ、マリンが興味なさげに首をかしげる。
そう言う反応するなら聞かなきゃいいのに。
「高校の課題?」
「そう。問題集の4~10ページ。基礎と標準のとこ」
「へえ……ごめん、あーし、わかんないとこあっても教えらんないや。苦手なんよ、数学。あ、でもアビィなら分かるんじゃない?」
アビィ……アビゲイルのことか。
噂では、ボクの通う高校の中等部の方で数学教師をしているとか言う噂もある。
もし本当なら、教師なのに犯罪者集団入っちゃってるところは謎で仕方ない。と、後ろから柔らかな声がかかる。
「帰ってきていたんですね、ウィル。おかえりなさい」
「あ、うん、ただいま、補佐」
補佐、カルロッタだ。
厳しいところはあるけどすごく優しい。
ボクの養母みたいな人。
ボクが助けを求めた時に優しく対応してくれて、ここに住まわせてくれた人なんだよね。
カルロッタは、素顔を見られないようにするためにいつも顔に布をつけている。
まあ、一部の人に見られちゃったこともあったけど。
顔を見られると、警察に見つかりやすいからね、なるべく隠しているみたい。
もちろん、普通に出かけるときは外すけどね。
逆に不自然だもん。
「今日はおやつ、ありますよ。ゼリー、作ってみました。あとでみなさんと一緒に食べましょうね」
そう言いながら、手際よくゼリーをテーブルに並べる。
淡いピンクや黄緑のゼリーが、小さなガラスの器に透き通って輝いている。
「え、マリーが帰ってくる前にマリーの分も食べちゃお」
「だからみなさんと食べましょうって言っているでしょう」
カルロッタの声は優しいが、絹を裂くような確かな強さを含む。
と、玄関の扉がきしむ音と共に、奥の方で声が聞こえた。
「ただいまー」
マリーだ。マリーが帰ってきちゃった。
「残念……」
「何が?」
「いや、特に」
「何かなきゃ残念とか言わないだろ」
「それはそう」
「じゃあなんだよ」
「秘密」
「最低」
「うるさい」
マリンが笑いをこらえて、紅茶の香りを吸い込む。
シャーロットが寄ってきて、カルロッタの手伝いを始めた。
小さな手で器用に机の上に皿とスプーンとゼリーを並べ終わると、ふわりと月明かりのような微笑みを浮かべながら声をかけてきた。
わざわさこんな例え方をするのは、単純にシャーロットが可愛すぎるから。
「お二方、おやつの時間です」
シャーロットはこの建物に住んでいる人の中では最年少で、まだ7歳だ。
「ん、おやつ食べる人、これだけなの?」
「5人もいれば十分でしょう。人が増えたら増えただけ取り分減りますよ」
「あ、それは嫌!」
「なら食べましょう。はい、いただきます」
「いただきます!」
スプーンでゼリーをすくうと、ひんやりとした感触が指先に伝わった。
口に運ぶと、プルプルと弾むような食感が心地よく、今日の謎に暑い空気にはぴったりだった。
喉をつるっと流れて行って、喉を潤してくれる上に、甘い!
「そういえば、マリー、何で居残りになったの?」
「え、聞く?」
「聞く」
「んっとー……」
なんか長く溜めてる。
よっぽどのことなのかもしれない。
ボクは固唾を飲んだ。
マリーは、ゆっくりと口を開く。
ボクは、マリーの口から出た言葉に、思わず反応する。
「……は?」
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