シークレットカード

めろにか

カード降臨

 「つまらない」

教室の窓から外を眺めながらぼそっと呟く。毎日が同じことの繰り返し。家と学校と塾を往復するだけの日々。ああ、本当につまらない。他の奴らはこのつまらない世界をなんとも思っていないのだろうか。

「今回の模試の全国一位は、いつも通り神崎玲央くんでした!しかもまた満点です!みんな拍手!」

当然のことなんだから拍手なんて必要ないのだがと思いながら、模試を取りに行く。

「凄いね!神崎くん!僕なんて学校平均割ってたよ」

クラスメイトの一人が俺に言う。どうやったら模試で満点以外取れるのか俺には分からない。

「ああ、ありがとう。次頑張れよ」

心にもない言葉を返し、席に着く。本当につまらない。何か面白いことはないのか。そう思っていると、急に視界が歪み、頭の中で声が響いた。あなたの世界を面白くしてあげるという幼女の声だった。その声とクラスメイトの心配する声を最後に意識が途絶えた。

 気がつくと、保健室のベッドの上だった。

「あれ、俺どうして……」

「気がついた?君、教室で急に倒れたんだって。今日は早退した方がいいわ」

保健室の先生が言う。

「分かりました」

帰りながらさっきの出来事を振り返っていた。なぜ急に意識が遠くなったのか。幼女の声が聞こえたような気がしたのは気のせいだったのか。色々考えているうちに家に着いた。靴を脱いで、制服をハンガーにかける。その時、制服から何かが落ちた。

「なんだこれ?トランプ?それに紙?」

それはダイヤのAだった。しかしよくあるトランプのカードとは違って、不穏なオーラを纏っていた。そして、得体の知れない紙には信じがたい内容が書かれていた。

「あなたは今この瞬間からプレイヤーとなりました。あなたのカードはダイヤのA 『イミテイター』です。このカードはあなたの人生を豊かにするであろう効果を有しています。使い方は簡単!カードを額に当てて『Check 』と叫ぶだけ!あなたの意識が途絶えるか、『Release 』と唱えることで解除できます。では、あなたの輝かしい未来に幸あれ!ゲームマスター一同より」

イタズラにしては手が混みすぎている。『イミテイター』って言えば『模倣者』とかいう意味だよな。

「はは、馬鹿らしいな。そんな非現実的なカードがあってたまるかよ」

俺はカードと紙を床に叩きつけた。でも、試すだけならと思い、カードを額に当て、『Check 』と叫んでみた。カードは額に吸い込まれるように消えたが、特に効果は表れなかった。

「効果なし。やっぱりイタズラか?」

少し期待していた部分もあったから、複雑な気持ちになった。

「玲央ー?塾に行く時間じゃない?」

一階から母の呼ぶ声が聞こえた。慌てて時計を見ると、間に合うかギリギリの時間だった。辺りのものを適当にリュックに詰め、家を出た。この時、俺は気付いていなかった。カードの解除をし忘れていたことに……。


 

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