相棒ギアとバトれ!G-CORE ~最悪の出会いから始まる最高のチーム戦記~

ソコニ

第1話 最悪の出会い!オレ様ギア・レックス!



 七月の太陽が容赦なく照りつける午後。東京・葛飾区の廃品置き場で、天城翔太は腹を鳴らしながらゴミを漁っていた。


「くそ……なんでオレだけギア持ってねぇんだよ」


 今日も学校で、ギア自慢大会から仲間外れにされた。みんなが最新のギアを見せびらかす中、翔太だけが指をくわえて見ているしかなかった。


「父ちゃんがいれば……」


 三年前に単身赴任した父。最初は手紙をくれたが、最近は音沙汰もない。母は看護師で忙しく、翔太の誕生日も忘れていた。


 バキッ!


 苛立ちを込めて、古い冷蔵庫を蹴飛ばした。すると、下から泥だらけの卵型の物体が転がり出てきた。


「なんだこれ……まさか」


 表面は錆だらけでヒビも入っている。でも間違いない。これはギア・コアだ。


「やった! ついにオレにも――」


 握った瞬間、コアが異常に熱くなった。


「あっつ! なんだこれ、壊れてんのか!?」


 でも手が離せない。まるでコアが翔太の手に食いついているようだ。


 パキィィィン!


 凄まじい音と共にコアが爆発。翔太は吹き飛ばされて、ゴミの山に頭から突っ込んだ。


「いてて……クソコアが……」


 もうもうと立ち上る煙の中から、何かが現れた。


 赤い鱗の小さな竜。体長三十センチほどだが、その目つきは――


「はぁ? なんだこのゴミ溜めは。そして、なんだお前は」


 竜は翔太を見下ろして、露骨に顔をしかめた。


「髪はボサボサ、服は泥だらけ、おまけに知能も低そうだ。最悪だな」


「な、なんだと!?」


 翔太は飛び起きた。せっかくギアが手に入ったと思ったら、いきなり悪口かよ!


「オレは天城翔太だ! お前を助けてやったんだぞ!」


「助けた? 笑わせるな。お前はただゴミ漁りをしていただけだろう」


「う……」


 図星だった。


「私はブレイズ・レックス。そして不本意ながら、お前のギアということになるらしい」


 レックスは大げさにため息をついた。


「前世でどんな悪行を積んだら、こんな罰ゲームを受けるんだ」


「罰ゲーム!? ふざけんな!」


 翔太はレックスに掴みかかろうとした。が、レックスは軽くかわして、翔太の頭に小さな火を吹きかけた。


「あちち! 髪が! 髪が焦げる!」


「躾の悪い飼い主には、教育が必要だな」


「飼い主じゃねぇ! 相棒だろ!」


「は? 相棒?」


 レックスは鼻で笑った。


「お前みたいな低能と対等な関係など、ありえない」


 その時、近くの公園から悲鳴が聞こえてきた。


「なんだ?」


 二人が駆けつけると、そこには地獄絵図が広がっていた。


 真っ黒な巨大ギア――暴走ギアが、手当たり次第に破壊活動を行っている。ブランコは引きちぎられ、滑り台は真っ二つ。逃げ遅れた子供たちが泣き叫んでいた。


「ひぃぃ! ママー!」


 五歳くらいの女の子が、暴走ギアの目の前で腰を抜かしていた。暴走ギアが巨大な拳を振り上げる。


「やべぇ!」


 翔太の体が勝手に動いた。女の子を抱きかかえて、横っ飛びに逃げる。暴走ギアの拳が、地面に大穴を開けた。


「あ、ありがとう、お兄ちゃん……」


 女の子が泣きながら礼を言う。でも、安心するのは早かった。暴走ギアがこちらを向いている。


「げっ……」


「馬鹿が」


 レックスが呆れたように言った。


「考えなしに飛び出すから、こうなる」


「文句は後だ! どうすりゃいい!?」


「知らん。勝手に死ね」


「てめぇ!」


 でも、レックスの目は暴走ギアを観察していた。


「……左足に古傷。そこが弱点だ」


「は?」


「私が囮になる。お前はその隙に女の子を連れて逃げろ」


「待てよ! お前一人じゃ――」


「五月蝿い。さっさと行け」


 レックスは翔太の返事を待たずに飛び出した。小さな体で、巨大な敵に立ち向かっていく。


「おい、デカブツ! こっちだ!」


 レックスが火を吐く。暴走ギアの顔面に直撃した。


「ギャアアア!」


 怒り狂った暴走ギアが、レックスに向かって拳を振り下ろす。間一髪でかわすが、次の攻撃が――


「レックス!」


 翔太は女の子を安全な場所に置くと、石を拾って投げつけた。


「おい! ブサイク! 相手はオレだ!」


 暴走ギアの注意がそれた。その隙にレックスが左足に噛みつく。


「今だ!」


 二人の連携は、初めてとは思えないほど息が合っていた。翔太が注意を引き、レックスが攻撃する。だが――


「ギャオオオオ!」


 暴走ギアが全身から黒いオーラを放出した。レックスが吹き飛ばされる。


「レックス!」


 地面に叩きつけられたレックスは、ぐったりと動かない。


「おい! しっかりしろ!」


 翔太はレックスを抱き上げた。小さな体は、思った以上に軽かった。


「……逃げろ、馬鹿」


 レックスが苦しそうに言う。


「ふざけんな! お前を置いて逃げるかよ!」


「感傷は不要だ。合理的に考えろ」


「うるせぇ!」


 翔太は叫んだ。


「お前は確かに性格最悪で、口も悪くて、さっき会ったばっかりだけど! それでもオレのギアだろ!?」


 その瞬間、翔太の体が熱くなった。いや、正確にはレックスとの間に、見えない何かが通じた気がした。


「……まったく」


 レックスがゆっくりと立ち上がる。その体が、今までとは違う炎に包まれていく。


「脳筋の馬鹿さ加減には、ほとほと呆れる」


「レックス?」


「だが――」


 レックスは翔太を見た。その目に、初めて別の感情が宿っていた。


「嫌いじゃない」


 次の瞬間、レックスの体が巨大化した。いや、炎が竜の形を作り出したのだ。


「な、なんだこれ!?」


「知らん。だが、悪くない」


 巨大な炎の竜が、暴走ギアに突撃する。


「ブレイズ・インフェルノ!」


 凄まじい炎が暴走ギアを包み込んだ。断末魔の叫びと共に、暴走ギアは元の小さなコアに戻っていく。


「や……やった?」


 翔太が呆然としていると、レックスも元のサイズに戻った。そして、ぱたりと倒れる。


「おい!」


「……疲れた。もう動けん」


 でも、レックスの表情はどこか満足そうだった。


 騒ぎを聞きつけた大人たちが集まってきた。女の子の母親は、何度も何度も翔太にお礼を言った。でも翔太は上の空だった。


 夕暮れの公園。ベンチに座る翔太の膝で、レックスが丸くなっている。


「なあ、レックス」


「なんだ」


「さっきのアレ、なんだったんだ?」


「知らん。お前の馬鹿が伝染したんだろう」


「馬鹿って言うな」


 でも、翔太は笑っていた。


「なあ、訂正しろよ」


「何を」


「最悪の相棒じゃなくて、最高の相棒だって」


 レックスは長い沈黙の後、小さくつぶやいた。


「……最悪ではない、かもな」


「素直じゃねぇな」


「うるさい」


 二人の間に、心地よい静寂が流れた。


 その時、翔太の腹が盛大に鳴った。


「あー、腹減った」


「……こいつ」


 でも、レックスは小さく笑った。翔太も釣られて笑う。


 最悪の出会いから始まった、凸凹コンビの物語。


 明日からが、本当の意味で大変そうだ。

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