第3話 コンビニにいた高嶺さんに馴染めない
キーンコーンカーンコーン。
本日最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、それに合わせて古文のおじいちゃん先生が教室を出た瞬間、クラスが一気に活気付いた。
友人達の元へ行く人、荷物をまとめて部活へ行く人、回復したゲームスタミナを消費する人、うたた寝をしていた分の板書をする人、そしてそれを揶揄う人。
本当に皆んなバラバラで、だけど放課後らしい光景を前に僕は大きな伸びを一つ。
そのまま隣の席に視線を向けると、高嶺さんは友人達に囲まれていた。
「ねぇねぇ、久々にまねき行かない?推しの箱とコラボしててグッズ欲しいんだよね」
「いいね。確か、よじごんじでしょ?ルソルソの人形欲しいから私参加」
「しゃーねぇな。この間の100点リベンジしに行くか」
「その台詞、高嶺さんのだよ、みとっち」
「うっせぇ!別にいいだろ。なぁ、雪?」
「ふふっ、分かりましたよ。ただ、今日は習い事が18時からあるのでほんの少しだけですけど」
「マジ!?なら、急がないと皆んな行くよーー!」
「おい!?鞄忘れてるぞ!」
流石は我が教室の一軍女子グループ。
爆速で放課後の予定が埋まり、ワイワイと騒ぎながら教室を出ていく。
その途中、高嶺さんと目が合って小さく手を振ってくれた。
さらに、口パクで『また明日』と別れの言葉まで頂戴し、僕は小さく手を振り返しながら、本当に高嶺さんの隣になったんだという実感を噛み締めるのだった。
そして、高嶺さんが居なくなったのにも関わらず、何となく名残惜しくて教室の開いたドアを眺めていると「なぁ、陽田。バイト行こうぜ」と背中に手を置かれた。
ガンッ!
「あびゃっ!……いっ〜〜つぅ」
「おい、大丈夫か?」
突然のことにびっくりした僕は机の下に隠していた右手を強打。
「大丈夫。多分、きっと、メイビー」
「その渋顔で言われても説得力ねぇよ」
「あははは……ちょっと保健室寄っていい?」
心配顔の
が、少しして「しゃーねぇな。早く行くぞ」と佐藤は右手に持っていたリュックを背負い、歩き出した。
そう。
お察しの通り実は彼ツンデレ男子なのである。
目付きが悪くて、金髪で、ガタイが良くて、悪ノリ癖があって、人を殺しそうな見た目をしているけど、中身はめっちゃくちゃ可愛い奴なのだ。
まぁ、本人にそのことを言ったら頭を握り潰されそうになったので、もう言うつもりはないけど。
「ありがとう」
僕はそんなツンデレな友人に感謝し、急いで教科書を詰め彼の後を追い、保健室で保冷剤をもらってから学校を出た。
◇
「いらしゃいませー」
「しゃっせー」
それから四時間後。
陽が完全に沈んだ暗い夜の中、僕達はカフェで労働に勤しんでいた。
といっても、この時間帯になるとお客様が殆ど帰っているので、閉店作業中でもうすぐ終わるんだけど。
「じゃあ、陽田お先。店長もお疲れ様でしたー」
「うん、また明日。ライブ楽しんできて」
「はい、気をつけて帰るんだよ」
先に全ての作業を終わらせた佐藤がタイムカードを切って出て行く。
普段なら僕の仕事が残っていたら手伝ってくれるんだけど、今日は推しvチューバーの3Dライブがある日だと彼が言っていたので遠慮してもらった。
何なら全力で間に合うように彼の仕事を手伝った。
そのため、いつもより作業は残っているけど頑張れば勤務時間内に終わるはず……だ。多分。
「よしっ、やったるぞーー!」
「気合い入れるのはいいけど、皿割らないように気を付けてね〜」
「はいっ!」
店長に言われたことを注意しつつ、僕は最大速度で手を動かした結果、五分ほどオーバーしたが何とか全ての終えることが出来た。
えっ?皿は割らなかったのかって?
ギリギリのところで何とかキャッチしたからセーフだったよ。
手からツルッといった時は本当に焦ったね。
まだ背中にその時に出た汗が残ってるくらいには終わったと思ったよ。
やっぱり『急いては事を仕損じる』という言葉があるように、どれだけ時間がなくても焦らずやるのが大事だね。
(本当気を付けよう)
帰り道、一人反省会をしていると、今まで黙っていたお腹がグゥーと音を鳴らす。
昼から何も口にしていないことを思い出した僕は、街灯に集まる虫達のように近くにあったコンビニに吸い込まれて行った。
「いらっしゃいませー」
大きく心地よい店員さんの声に迎えられ、僕は食品コーナーに直行。
一歩、二歩と横にずれながら最も食欲をそそられるものを探していると、四歩目のラーメンゾーンにてよーちゅばーが紹介していた二郎ラーメンを発見した。
それと同時に腹が鳴り、口内に分泌される涎の量が五割増加。
僕は本能のままに手に取りレジに並んだ瞬間、目の前を見覚えのある銀髪が通り過ぎた。
思わず視線が吸い寄せられ、顔を確認してみると何と高嶺さんだった。
(こんなところで会うなんて珍しい)
普段お目にかかれないレアキャラとの遭遇に僕は目を丸めていると、視線を感じ取ったのか彼女の瞳がこちらを捉える。
「えっ?陽田君」
そう言って、戸惑いの表情を浮かべる高嶺さん。
友人でもない、ただ今日がたまたま隣になったばかりの長年の顔馴染にどういう反応を返せば良いのか分からず「やぁ、奇遇だね高嶺さん」と、そこそこ仲の良い知り合いと会った時のように軽く手を挙げた。
「高嶺さんも、もしかして夕飯買いに来たの?」
「はっ、はい。今日は習い事が長引いてしまって、今から夕飯を準備するのが難しそうなので。あっ、普段はちゃんと自炊してますからね!肉じゃがとかハンバーグとか色々」
「へぇ〜、偉いね。僕なんかお母さんやコンビニに甘えてばかりで全然だよ」
なるほど。
今まで高嶺さんを見なかったのは、多分僕がコンビニ寄る頃、高嶺さんの方はスーパーできちんと材料を買って家で調理していたかららしい。
生活スタイルが全く違うのだから会わないのは当然のことだった。
ズボラなところを見られたと思って、恥ずかしそうに顔をほんのり染める高嶺さん。
「そんな僕が言うのも何だけどたまの楽くらいしても良いと思うよ」
「ありがとうございます」
けれど、僕は全く気にしていないとフォローすると、彼女は安堵したように息を吐いた。
(別に高嶺さんがコンビニ使ってても誰も気にしないと思うんだけどなぁ。何をそんなに気にしてるんだろう)
僕はそんな高嶺さんの反応に違和感を覚えつつ、視線を前に向けると丁度前にいた人のレジが終わりそうなのが見えた。
「じゃっ、僕もう行くね」
「はい。お気を付けて」
「高嶺さんの方こそね。美人さんなんだから男の人と暗い道は特に気をつけて」
「っ!?」
「まぁ、そんなわけで男の僕は退散させてもらうね。また明日」
結局違和感の答えは出ないまま僕は高嶺さんに別れを告げ、会計に向かう。
その後、店を出る直前に見えた彼女の顔は何故か赤いままだった。
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