完全の到達者 〜Endless Apocalypse〜

@MOGUNUMA

第1話 新世界への導き

 「完全」とは何か。


 その答えが世界にあるならば、それは混沌も矛盾もない理想郷であろう。

 その答えが秩序にあるならば、それは整合で無謬(むびゅう)で調和を得た理想論であろう。


 では、その答えが生命にあるならば、その答えはこうだ。


 「完成された生命」など存在しない。

 生命とは常に成長、劣化、進化、死滅という過程にある。

 故に、「完成された生命」とはそれ即ち「死」であり、生命とは永遠に不完全な美を宿す存在なのだ。


 だが、私はこの答えを否定したい。

 矛盾を超え、不完全の輪廻を断ち切り、この手で「完全の到達者」を生み出す。


 それが、それこそが、創造神デミオルギアに課せられたし偉業である。


 さて、始めようか...

 これより私は新世界を想像する!


「全ては創造に、創世より始まり、生命は探求し、対立し、そして繋がりを求める。

 海は交わり、日は巡り、全ては混沌に満ちる。


 我が創造は眩い光と共に…

 New World Order(ニューワールドオーダー)!!」

 

 その光は未知なる空間を覆い尽くし、新たな世界を映し出した。

 しかし、その光は完全な希望ではなかった。

 新たな秩序を示すのと同時に、その背後には闇という絶望が映し出されていた。



 ***



 12月31日23時00分


 深夜の薄暗い街に、一筋の月光が差し込んだ。

 それまでは静かだった街に「ゴォォォォンン」と鐘の音が響き渡り、年明けの訪れを知らせる。


(母)

「除夜の鐘が、鳴り始めたわね。

 今年ももう終わりで、来年の3月には永道の大学受験が始まってしまうだなんて...

 私、時が進むにつれて不安になってきたわ...」


(永道)

「それは母さんだけじゃないよ。

 俺だってその不安をかき消すために日々努力し続けているんだから」

 

 なのに...

 世間は年明けだの、この前まではクリスマスだの、ひたすら勉強して苦しんでいるだけの俺とは打って変わって...さぞ盛り上がっているのだろう。


 しかし、これも受験生の定めだと俺自身を戒めて現実を飲み込むしかない。


(永道)

「あーー!!

 どこまでも勉強コイツらは俺につきまとってきやがって!!」


(母)

「良い行いをし続ければ報われるって言うじゃない。

 だって永道...嫌だと言いつつも、毎日勉強を頑張っているからきっと神様も見てくれているわよ」


(永道)

「神様ねー。

 いっそ俺が神にでもなれたら、勉強なんかやらずにただのんびりと、空から世界を眺めることができたのかな...

 まあそんなこと考えたところで...か。

 さあ!小便してからもうひと頑張りしてみるか!」


 そして、俺はリビングを出てトイレへと向かった。


 だが、もし「神様になれたら」こんな何気のない会話も、当たり前の日常もなくなってしまうのかもしれない。

 あくまでこれは俺の考えだ。

 神様のあり方など思うことは人それぞれでしかない。


(永道)

「しかし、叶うならば神様という生き物にでもなってみたい...」


 ふと、そう思いながらトイレへと続く廊下の天井を見上げる。

 すると、木板(きいた)の節目から奇妙な「眼」のようなものが浮かび上がり、じっと俺を見つめている。

 俺の勘違いかと思い、目をこすって再び見てみると、その「眼」は消えていた。


 不気味に思った俺はそのまま早歩きでトイレへと駆け込み、用を足して手を洗うために洗面台に立った。


(永道)

「おいおい...どうなってんだよ。

 お前さっきも俺のこと見ていたよな?」


 鏡に映し出されたのは、巨大な漆黒の瞳。

 だが、その瞳の中には血塗られた俺の姿。

 その背景には、無造作に置かれた死体の数々に、暗く闇に包まれた戦場。


 俺は恐怖と金縛りで身動きがとれなかった。

 そして、瞬きをした瞬間、目の前が暗闇に包まれていた。


(永道)

「なんなんだよさっきから!?

 何も見えない...母さんはどこだ!?」


 焦りと不安でいても立ってもいられない状態の俺に、頭痛と目眩が襲ってきた。 

 耐えがたい激痛に俺は思わず頭を抱えてその場にうずくまった。


(永道)

「ヤベぇ...痛すぎる!

 ズキズキとかそういうレベルじゃねぇ

 まるで脳をかき回されたような気持ち悪ささえも感じる」


 心拍数が上がり、それに伴うように頭痛の痛みもひどくなっていく。

 次第に気を失いそうになる感覚に陥り、ゆっくりと目を閉じていった。

 そして、意識がもうろうとしている中、何かが俺の耳元でささやいた。


(???)

「人の子よ...嗚呼(ああ)人の子よ...

 これより貴様は神と化す。

 誰にも縛られず、何にも染められず、己の意のままに事をなし、己の欲望で世を変えろ。

 我はその結末のみを見続ける傍観者であり、その結末の阻害たるものを消す隷属者である。

 目を開き、見よ。

 それは貴様のみが結末を描ける一つの夢物語に過ぎない...」



 ***



 次の刹那、はっと息をのむように飛び起きた。

 そして、瞼(まぶた)を開けると、この世とは思えない風景が広がっていた。


(永道)

「な、何なんだ!?

 頭痛がなくなったと思えば、今度は見たこともない風景に目がクラクラしてきた...

 俺は夢を見ているのか?

 そうとしか思えない...いや、きっとそうであってほしい...」


 俺の目の前には、白亜の柱が果てしなく並んでおり、その一本一本が天を支える神々の指のようであった。

 柱廊の正面には目をこらさなければ見落としてしまいそうな距離に、一枚の巨大な扉がポツンと存在していた。

 また、左右には見渡す限り広大な中庭へと続いている。

 陽光に照らされた芝生と、整然と並ぶ彫像や噴水。


 風はなく、空気は静止し、空間ごと夢の中に閉じ込められたような感覚を覚える。


 そして、呆然と立っている俺の背後から女性と思われる声がした。


(???)

「主様、どう致しましたか?

 何か体調が優れませんか?」


 俺は思わず振り向いて声の主を視界に捉えたが、目が合った瞬間、俺は言葉を失ってしまった。


 深紅に染まった髪は陽光を受けて炎のように揺れ、同じ色の瞳は神々しさだけでなく威厳さえも感じさせる。


 一言で表すならば、彼女は神話そのものだった。

 今まで多くの女性と出会い、惹かれたが、目の前の彼女だけは違った。


 その姿を眼に瞬間、胸の奥で何かがひれ伏すように沈黙した。

 言葉を失うとはこういうことを言うのだろうか...


(???)

「主様...そのように見つめられると、反応に困ります...

 私に何か付いていますか?」


(永道)

「いやっ…べ、別にそそっ、そんなことではなくて、あの…キレイですね」


(???)

「ええっっ!?」


 ・・・・・。

 いや、馬鹿じゃねぇのか!俺は?

 確かにとんでもなく綺麗だけどさー。

 それは心の内に止めておいて、まともな会話してくれよ俺~~!

 てか、さっきこの人俺のこと主様って言っていたよな

 あ、もう訳わかんねーーーよ!!


 頭の中で「お前は何を言っているんだ!」と言わんばかりに自分を殴り続けた。

 それはもう頭蓋骨にヒビが入るくらいに...


 すると、目の前の彼女は、眼を細めて深く考え込む姿勢をとった。

 そして、少し真剣な表情になって、俺を見つめ返してきた。


(???)

「もし、貴方が私の知る主様であれば、この後いかなる処罰も受け入れます。

 主様...いえ主様のお姿をかたどった貴方、何もひねらずにお答えください。

 貴方、お名前はなんと言いますか?」


 唐突な質問に驚きはしたが、「この異変に対して何か情報を得ることができるのでは...」と思い、俺は自分の名前と事の経緯について彼女に話し始めた。


(???)

「はぁ...やっぱりおかしいと思ったのよ!

 私の覚悟、返してくれない!?も~!

 それよりも、貴方日本人なのね。

 こんな時に乗り移ってしまうなんて私も...貴方も...とんだ災難ね!」


(永道)

「え、えっと...

 さっぱり分からないのですが?」


(マグナレア)

「まあ、とりあえず初めましてなんだし、自己紹介が先ね...

 私は”大神マグナレア・キュベーレル”。

 かつては貴方と同じ日本人だった者よ!」


(永道)

「はぁぁぁ!?」




 この出来事を境に、長く止まっていた新世界に衝動を与える。

 ”永道”という一人の受験生が、人知を超えた神の領域に立ち会い、救済と崩壊の狭間で、「完全」を巡る物語が幕を開ける。

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