第9話 留学生ウリエル 

 火曜の午後、研究棟のラボに足を運んだ寛人は、机いっぱいに広がる解析データを前に頭を抱えていた。

 「くそっ、この異能反応……何度解析しても安定しない」

  拓馬の〈再演(リフレイン)〉のエネルギー波形は、既存のどの能力パターンにも当てはまらなかったのだ。

  そのとき、背後から低い声がした。

 「それは、構造的に不完全だからだ」

  振り向くと、白衣を着た一人の青年が立っていた。鋭い灰色の瞳、金色の髪。寡黙そうな印象だが、立ち姿には確かな自信が感じられる。

 「君は?」寛人が尋ねる。

 「ウリエル。留学生だ。この学園の異能研究部門に配属されている」

  ウリエルは迷いなく解析機器の端末を操作し、拓馬のデータを呼び出した。

 「やはりな……この力、軍事転用の試作品だ。完成前に破棄されたはずのデータが、なぜか君に宿っている」

  拓馬が驚きに目を見開く。「軍事転用……?」

  ウリエルは短くうなずいた。「私は、それを阻止するためにここに来た」

  そのとき、装置が急に警告音を発した。解析中のエネルギーが暴走し、装置の温度が急上昇している。

 「やばい、止まらない!」寛人が叫ぶ。

  拓馬が慌ててスイッチを切ろうとするが間に合わない――その瞬間、ウリエルが前に出た。

 「離れろ!」

  彼は迷いなくコードを抜き取り、直接装置のコアに触れた。青白い光が走り、暴走がピタリと止まる。

  寛人は目を丸くした。「今の、どうやったんだ……?」

 「私の能力だ。干渉系統を遮断する」ウリエルは淡々と答える。

  拓馬は深く息を吐き、ウリエルに向き直った。「助かったよ。……でも、なんでそんな危ないことを?」

  ウリエルは一瞬だけ視線を伏せ、静かに言った。

 「同じことを繰り返させたくないだけだ。私は“兵器転用の犠牲者”を見てきた。二度と許さない」

  その目には、強い決意が宿っていた。

  こうして、寡黙な天才研究者ウリエルがスプロウツに加わった。彼の知識と能力は、チームに新たな可能性をもたらすことになる。

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