第14話 あたしの記憶がない理由
生徒会メンバーと一緒に帰宅すると、大おばあちゃんとお父さんがお座敷を準備して待っていた。
二人とも、私が転校する前から、こんな状況になることをすでに予想して準備を整えていたんだって。
神社の境内のすみっこにある我が家の座敷へみんなを案内する。
座敷の上座には大おばあちゃんが座り、あたしはその左隣に座らされた。お父さんは大おばあちゃんの右隣へ座る。
あとは生徒会長である
「ご無沙汰しております、こやねさん。お元気そうで安心しました」
生徒会長の
大おばあちゃんはみんなを見て、にっこりとほほ笑む。
「みんなも元気なようで安心したよ。しばらく見ない間に大きくなったねぇ」
大おばあちゃんがあたしたちの顔をぐるりと見わたしてから、感慨深そうに言う。
しばらく? つまり、久しぶりってこと?
蜂蜜色の髪の女の子――
意味がわからなくてあたしが首を横にかたむけると、お父さんがふふっと笑った。
「うずめが小学校へあがる前に、十二支の一族の子どもたちとは顔合わせをしているよ」
「ということは……あたし、実はみんなと初対面じゃないってこと?」
「うん、そうなるね。あのときは、みんなと仲よく遊んでいたよ」
「でも、あたしだけ……忘れてるんだね」
あたしが
あたしは申し訳ない気持ちでいっぱいになって、思わずうつむいてしまった。
「それには理由があるんだよ。そのあたりのことを話そうかね」
「はい。お願いします。ですが
「
「僕が聞いた
「
「そうかい……。それが本当なら、
その説明に対して、大おばあちゃんは軽く腕を組んで右手をあごに当てた。
そっか。はじめての夜間活動の日、
「それに背中は
「まちがいなく
「ちょっと待って、お父さん」
大おばあちゃんに同意するようにお父さんがうなずいたので、あたしはお父さんのほうにふり向いた。
「
質問すると、お父さんは怖いくらい真剣な顔をあたしへ向けた。
「うずめ、
「あ、うん。先輩たちから聞いたよ」
「とり憑かれた人間は、生きたまま少しずつ魂を食べられていくんだ。そして、少しずつ弱っていく。やがて食べきってしまうと……体をのっとられる」
「体を……?」
「その
大おばあちゃんは厳しい口調で言い切る。なんの迷いもなく断言されてしまうと、言い返すこともできなくなる。
「そうですね。俺の【歌】を簡単にはじきました。もはや『
大おばあちゃんの言葉に
でも、どこかソワソワしている感じもあるから、
「でも、
「うん、俺の【歌】に反応してくれた。だからこそ時間がないとも言えるんだ。今を逃してしまうと、おそらく
その早口な返答が、
あたしもその焦燥感につられて、あわててお父さんの顔を見る。
「
「いちおう連絡はしたよ。だけど二人は今、演奏会で海外にいてね。すぐに戻るというわけにはいかないらしい。だから
「
「それにしても……ずいぶんと強くなってしまったようだねぇ、その
「あたし、あの白い着物の
「そうだよ。いつからか変な
お父さんは大きくうなずくと、大おばあちゃんのほうを見た。
「あたしも
「
「俺はその日、たまたまおまえと
「
続けて
「それで、小学校に入ったばかりだった
「『
あたしは神様と話をした。助けたいかと問われて、助けたいと願った。
「でも、まだ『
あたしが首をかしげると、大ばあちゃんが大きく頭を左右にふった。
「おそらく、あたしの練習を見ていたんだよ。だから、見よう見まねの舞いで『
「えーっと……。でも『
「受ける代償はそのときにそのときで違うからね。記憶もあるけれど、視力や聴力、嗅覚、声をうしなうって場合もある。すべて一時的にだけどね」
「あたしは目が多かったね。数日たてば必ず戻るんだけど、不便だったよ」
続けて入ったお父さんの説明に、大おばあちゃんも当時を思い出してうなずく。
「でも、もし一時的なものなら、時間がたてば思い出したんじゃないの」
「うずめ、あたしはおまえに厳しく教えたはずだね? 『
「う、うん。……あ、そっか。つまり、その年齢になる前に『
「そうだよ。おまえは『
あたしがひとりごとのように言うと、大おばあちゃんがふぅっとため息をついた。
「けれど、うしなった記憶はすべてではない。もっとも消えたのが『十二支の一族』に関係している者たちの名前。そのなかでも強く消されたのが一緒にいた
「
「これはあたしの予想だが、
そっか。やっぱり
「すみません。あのときの俺が……弱かったから」
とつぜん、話に割って入るように
あたしがあわててふり返ると、
「それは違うよ、
大おばあちゃんに説得された加巳野くんは素直にうなずいていたけれど、たぶん納得していないだろうな。
だってものすごく悔しそうな顔をしている。自分があの
あたしが
そして、
「あたしがまた『
とたんに生徒会メンバーの顔色が変わる。そりゃそうだよね。さっき「代償が必要」だと言われたばかりだもん。
でも、あたしはもう十三歳になった。『
それにあたしの予想が正しければ……大おばあちゃんは反対しない。
「お父さんたちが、あたしが
あの
そして、
だからあたしが、あたし自身があの白い着物の女の
できることはたった一つ――舞うことだけだ。
「あたしが生きてるってことは、『
「『
「俺は反対だ!」
真っ先に異をとなえたのは加巳野くんだった。
そうだよね。
「でも……
「
「たぶん無理だよ。俺と姉貴の二人がかりでも、
そこまで言ってから、
「
「俺も同意見だな。
「だよね。
「そうだね……。高等部へ協力要請はしていても、全員ができるのは集まる
「
答えられずにあたしが悩んでいると、大おばあちゃんがすぐに答えてくれた。
「おそらく、半々といったところだろう。なんせ正式に舞うのは初めてだからねぇ」
「五十パーセントか……。でも、それに賭けるしかないね」
「だったら百パーセントにできるよう、あたしも舞おうかね」
「え? 大おばあちゃんも舞うの? 腰は?」
「
あたしが目を丸くすると、大おばあちゃんは急に真剣な顔をして私をみつめた。
「うずめ。『
「やるよ。
あたしが迷わずうなずくと、大おばあちゃんは満足そうな顔をしてうなずいた。
それを確認した
「僕たちも分かれて行動しよう。
「いや、
「僕も
「じゃあ
「その意見を採用するよ。高等部の生徒会長には僕から連絡を入れておく」
それから、
「僕は
それは白い着物の女への対応は、
戦いたくないとか、あたしを守りたくないっていうんじゃなくて、『
どうしようと悩んでいたら、
「
どこか挑発するかのような、それでいて冷たい
「違っ……!」
「あのさぁ、
「
「
「
「それに……自分の非力さの後始末を押しつけるみたいで申し訳ないけれど、俺は
「わかりました。うずめは俺が守ります」
あたしも
「大丈夫だよ、
「うずめ……」
「だいじょ~ぶ! ワタシ、思い出せるよう、いっぱい話しかけま~す!」
明るい声で言ったルナ先輩が、あたしの背後にまわってガバッと抱きついてくる。
「ありがとう、ルナ先輩。頼りにしてます」
「もちろん、僕や
いつの間にかあたしの前へ移動した
先輩の王子様スマイルはなんだか癒やされるから不思議だ。
でも、急に
「
ルナ先輩、ダメ男って……。どこでそんな日本語知ったの?
でも、その無邪気な言い方がよかったのかもしれない。
「じゃあ、今度こそダメ男にならないように俺もがんばらないとな」
よし!
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