第14話 あたしの記憶がない理由

 生徒会メンバーと一緒に帰宅すると、大おばあちゃんとお父さんがお座敷を準備して待っていた。

 二人とも、私が転校する前から、こんな状況になることをすでに予想して準備を整えていたんだって。


 神社の境内のすみっこにある我が家の座敷へみんなを案内する。

 座敷の上座には大おばあちゃんが座り、あたしはその左隣に座らされた。お父さんは大おばあちゃんの右隣へ座る。

 あとは生徒会長である午居堂ごいどう先輩がお父さんの隣に座ると、他のメンバーは思い思いの場所へ腰を落とした。


「ご無沙汰しております、こやねさん。お元気そうで安心しました」


 生徒会長の午居堂ごいどう先輩が代表で大おばあちゃんに挨拶をすると、生徒会メンバーの全員が正座したまま頭を下げた。

 大おばあちゃんはみんなを見て、にっこりとほほ笑む。


「みんなも元気なようで安心したよ。しばらく見ない間に大きくなったねぇ」


 大おばあちゃんがあたしたちの顔をぐるりと見わたしてから、感慨深そうに言う。

 しばらく? つまり、久しぶりってこと?

 蜂蜜色の髪の女の子――庚乃申こうのしんルナ先輩なんて、お母さんがフランス人で長くフランスで仕事をしていたから、小学校まではフランスにいたって、ここまでの帰り道で聞いたばかりなのに?

 意味がわからなくてあたしが首を横にかたむけると、お父さんがふふっと笑った。


「うずめが小学校へあがる前に、十二支の一族の子どもたちとは顔合わせをしているよ」

「ということは……あたし、実はみんなと初対面じゃないってこと?」

「うん、そうなるね。あのときは、みんなと仲よく遊んでいたよ」

「でも、あたしだけ……忘れてるんだね」


 あたしが加巳野かみのくんに「初対面」って言ったときにおどろいた顔をしたのは、そういう理由があったからなんだ。

 あたしは申し訳ない気持ちでいっぱいになって、思わずうつむいてしまった。


「それには理由があるんだよ。そのあたりのことを話そうかね」

「はい。お願いします。ですが美琴みこと幽魔ゆうまに同化させられているうえに、女子生徒が人質にとられているので、手短に願います」


 午居堂ごいどう先輩が答えると、大おばあちゃんもうなずく。


美琴みことが憑かれたのは二週間前らしいね?」

「僕が聞いた天埜あめのさんの話と治日はるひの話を総合すると、転校初日には、すでに天埜あめのさんの周囲に白い着物の女の幽魔ゆうまがいたようです」

天埜あめのさん狙いだとしたら、生徒会の夜間活動についてきたのでしょう。美琴みことが一度、痛みをうったえながら背中を見ていたのを俺が確認しています」


 午居堂ごいどう先輩の説明を補足するようにして、寅屋敷とらやしき先輩が言葉を続ける。


「そうかい……。それが本当なら、美琴みことの体を利用して我が家に入れたってことさね。この神社の敷地全体に結界を張っている。下位かい幽魔ゆうまが入れるはずがない」


 その説明に対して、大おばあちゃんは軽く腕を組んで右手をあごに当てた。

 そっか。はじめての夜間活動の日、美琴みことが家に泊まりに来たんだった。


「それに背中は阿氣あきのあるなしは関係なく、誰もが無防備なところだ。それでも十二支の一族の者であれば、中学生でもそう簡単には入らせないはずだがねぇ」

「まちがいなく上位じょうい幽魔ゆうまだね」

「ちょっと待って、お父さん」


 大おばあちゃんに同意するようにお父さんがうなずいたので、あたしはお父さんのほうにふり向いた。

 幽魔ゆうまの位とかいろいろと知りたいことはあるけれど……それはあとで教わればいい。それよりも心配なことがある。


美琴みことは大丈夫なの? それに朱里あかりは? まさか幽魔ゆうまになっちゃうとか、ないよね?」


 質問すると、お父さんは怖いくらい真剣な顔をあたしへ向けた。


「うずめ、幽魔ゆうまの食料が人間の魂だってことは知っているね?」

「あ、うん。先輩たちから聞いたよ」

「とり憑かれた人間は、生きたまま少しずつ魂を食べられていくんだ。そして、少しずつ弱っていく。やがて食べきってしまうと……体をのっとられる」

「体を……?」

「その朱里あかりってお友だちは大丈夫だろうさ。つれ去られただけだし、幽魔ゆうまにあやつられていた時間も短い。だが美琴みことは体内に入られている。しかも二週間もたっているんだ。長すぎるんだよ。すでに魂が食べきられていてもおかしくない」


 大おばあちゃんは厳しい口調で言い切る。なんの迷いもなく断言されてしまうと、言い返すこともできなくなる。


「そうですね。俺の【歌】を簡単にはじきました。もはや『とら』の一族の術だけではどうこうできる段階ではないと思います」


 大おばあちゃんの言葉に寅屋敷とらやしき先輩が冷静に答える。

 でも、どこかソワソワしている感じもあるから、美琴みことが心配なのかもしれない。あたしは寅屋敷とらやしき先輩のほうにふり向いた。


「でも、美琴みことはまだ自分のことがわかっていました。先輩の術に……」

「うん、俺の【歌】に反応してくれた。だからこそ時間がないとも言えるんだ。今を逃してしまうと、おそらく美琴みことの体は完全に幽魔ゆうまのものになる」


 その早口な返答が、寅屋敷とらやしき先輩が焦っているんだって強く感じさせた。

 あたしもその焦燥感につられて、あわててお父さんの顔を見る。


奏介そうすけおじさんには連絡したの? 律歌りつかおばさんには?」

「いちおう連絡はしたよ。だけど二人は今、演奏会で海外にいてね。すぐに戻るというわけにはいかないらしい。だから弦一郎げんいちろうくんがこっちに向かってる」

げんお兄ちゃんが……」


 美琴みことのお兄ちゃんは大学生だ。だから、おじさんたちの代理として来るんだと思う。


「それにしても……ずいぶんと強くなってしまったようだねぇ、その幽魔ゆうまは。うずめを狙っていた頃は、まだ中等部生徒会でも祓えそうな感じはあったんだがね」

「あたし、あの白い着物の幽魔ゆうまに狙われていたの?」

「そうだよ。いつからか変な幽魔ゆうまが神社のまわりをうろつきはじめたから、うずめを狙っているんだろうと思った。阿氣あきをもつ子どもはよく狙われるんだ」


 お父さんは大きくうなずくと、大おばあちゃんのほうを見た。


「あたしも裏神楽うらかぐらを舞う回数を増やして警戒はしていたんだけれどね。秋雷しゅうらい美琴みことが相手をすることになってしまったんだよ」

美琴みことと……加巳野かみのくんが?」

「俺はその日、たまたまおまえと美琴みことと一緒に、神社裏の雑木林で遊んでいたんだ」

加巳野かみの家がもっとも天鈿あめの神社に近いしね。僕たちもたまに遊びに来たけれど、秋雷しゅうらい美琴みこと天埜あめのさんとよく遊んでいたと思うよ」


 続けて午居堂ごいどう先輩が答えると、他の先輩たちも大きくうなずいた。


「それで、小学校に入ったばかりだった秋雷しゅうらいくんは倒されてしまったんだ。そして、うずめは『神降かみおろし』をしてしまった」

「『神降かみおろし』? あ、え……でも、そういえば……夢で……」


 あたしは神様と話をした。助けたいかと問われて、助けたいと願った。


「でも、まだ『神降かみおろし』は習ってなかったはずだけど、どうして……?」

あたしが首をかしげると、大ばあちゃんが大きく頭を左右にふった。

「おそらく、あたしの練習を見ていたんだよ。だから、見よう見まねの舞いで『神降かみおろし』ができてしまった。たぶん、秋雷しゅうらいを助けたいと思った気持ちに神様がこたえてくださったんだろうね」

「えーっと……。でも『神降かみおろし』をすると記憶をなくすなんて、大おばあちゃんは言わなかったよね? なんらかの代償は受けるって教えてくれたけど」

「受ける代償はそのときにそのときで違うからね。記憶もあるけれど、視力や聴力、嗅覚、声をうしなうって場合もある。すべて一時的にだけどね」

「あたしは目が多かったね。数日たてば必ず戻るんだけど、不便だったよ」


 続けて入ったお父さんの説明に、大おばあちゃんも当時を思い出してうなずく。


「でも、もし一時的なものなら、時間がたてば思い出したんじゃないの」

「うずめ、あたしはおまえに厳しく教えたはずだね? 『神降かみおろし』の舞いだけは十三歳になるまでは絶対に舞うなと」

「う、うん。……あ、そっか。つまり、その年齢になる前に『神降かみおろし』をしてしまうと……代償は一時的ではなくなる……?」

「そうだよ。おまえは『神降かみおろし』をするより前の記憶を永久にうしなったんだ」


 あたしがひとりごとのように言うと、大おばあちゃんがふぅっとため息をついた。


「けれど、うしなった記憶はすべてではない。もっとも消えたのが『十二支の一族』に関係している者たちの名前。そのなかでも強く消されたのが一緒にいた秋雷しゅうらいだ」

加巳野かみのくんの……」

「これはあたしの予想だが、秋雷しゅうらいを助けるという代償だから、秋雷しゅうらいの記憶を神様が持っていったんだろうね。それでもおまえは秋雷しゅうらいの記憶を残していた。名前は忘れても、夢で姿をみるという形で残した。それは神様のお心づかいかもしれないよ」


 そっか。やっぱり加巳野かみのくんと『しゅうくん』は同一人物だったんだ。


「すみません。あのときの俺が……弱かったから」


 とつぜん、話に割って入るように加巳野かみのくんが頭を下げた。

 あたしがあわててふり返ると、加巳野かみのくんはむずかしい顔をしてうつむいている。


「それは違うよ、秋雷しゅうらい。あれはうずめが……いや天埜あめの家の巫女みこにとっての宿命なんだ。おまえのせいじゃない」


 大おばあちゃんに説得された加巳野くんは素直にうなずいていたけれど、たぶん納得していないだろうな。

 だってものすごく悔しそうな顔をしている。自分があの幽魔ゆうまを倒せていたら……なんて考えて、責任を感じているんだ。

 あたしが加巳野かみのくんのためにできることってなんだろう?

 そして、美琴みこと朱里あかりを助けるためにできることはなに?


「あたしがまた『神降かみおろし』をしても、白い着物の女の幽魔ゆうまは倒せないかな?」


 とたんに生徒会メンバーの顔色が変わる。そりゃそうだよね。さっき「代償が必要」だと言われたばかりだもん。

 でも、あたしはもう十三歳になった。『神降かみおろし』を舞ってもいい年齢だ。

 それにあたしの予想が正しければ……大おばあちゃんは反対しない。


「お父さんたちが、あたしが臨界りんかい学園へ入るのを六月まで待たせたのは、『神降かみおろし』ができる年齢になるまで待っていたんだよね? あの幽魔ゆうまのことを知っていたから、こっちへ帰ってもまた狙われるってわかっていたからなんだよね?」


 あの幽魔ゆうまはあたしをずっと狙っていた。そのせいで大事ないとこだけではなく、大事な親友まで巻きこまれた。

 そして、加巳野かみのくんの自信さえも奪ったかもしれないんだ。


 だからあたしが、あたし自身があの白い着物の女の幽魔ゆうまを倒さなきゃいけない。けれどあたしには、加巳野かみのくんみたいな攻撃手段はない。

 できることはたった一つ――舞うことだけだ。


「あたしが生きてるってことは、『神降かみおろし』は小さいあたしでも幽魔ゆうまを追いはらう力を持てたってことだよね? だったら、この体へ神様に降りていただいて幽魔ゆうまに近づくのはどう? もしかして、美琴みことも傷ついちゃう?」

「『神降かみおろし』なら可能だろうね。あれはむずかしい儀式だが、うずめならできるだろうし、祓えなくても弱らせられる。美琴みことも無傷ですむだろう」

「俺は反対だ!」


 真っ先に異をとなえたのは加巳野くんだった。

 そうだよね。加巳野かみのくんはそう言うだろうなって思ってたよ。子どもの頃のことをいまだに負い目として背負ってくれているような、責任感の強い人だもんね。


「でも……加巳野かみのくん、それ以外に方法はあるの? 高等部の先輩たちに寅屋敷とらやしき先輩のようなことを、より強くできる人はいるの?」

治日はるひ先輩の姉が高等部にいる。二人がかりで歌えば……」

「たぶん無理だよ。俺と姉貴の二人がかりでも、美琴みことの同化は解除できないと思う」


 そこまで言ってから、寅屋敷とらやしき先輩は午居堂ごいどう先輩のほうへ体ごと向けた。


優大ゆうと、あの幽魔ゆうま天埜あめのさんに俺たちを連れてくるなと言った。人質が二人もいる以上、俺たちはあまり目立つ行動はできない」

「俺も同意見だな。美琴みことにとり憑いている以上、俺たちの技は誰も使えない。だから幽魔ゆうま天埜あめのへ近づけないことに専念すべきだ」

「だよね。幽魔ゆうま幽魔ゆうまを呼ぶし、今はより強い幽魔ゆうまが集まりやすいだろうしね~」


 丑名波うしなみ先輩が寅屋敷とらやしき先輩に同意すると、未八万みやま先輩もうなずく。


「そうだね……。高等部へ協力要請はしていても、全員ができるのは集まる幽魔ゆうま殲滅せんめつくらいか。でも、それこそが重要になる……」


 午居堂ごいどう先輩は腕を組むと、目を閉じてしばらく考え込んだ。


天埜あめのさん。きみの『神降かみおろし』の成功率は?」


 答えられずにあたしが悩んでいると、大おばあちゃんがすぐに答えてくれた。


「おそらく、半々といったところだろう。なんせ正式に舞うのは初めてだからねぇ」

「五十パーセントか……。でも、それに賭けるしかないね」


 午居堂ごいどう先輩はようやく目を開けて、腕組みを解いた。


「だったら百パーセントにできるよう、あたしも舞おうかね」

「え? 大おばあちゃんも舞うの? 腰は?」

曾孫ひまごが命がけでがんばるってときに、腰や足が痛いなんて言ってられないよ」


 あたしが目を丸くすると、大おばあちゃんは急に真剣な顔をして私をみつめた。


「うずめ。『神降かみおろし』は大がかりな舞いだ。心身の浄化から始まり、神様にお帰りいただくまで手ぬきは許されない。手順をまちがえれば罰を受けるし、そしてなにより、成功しても必ず代償を払わなければいけない。それでもやるかい?」

「やるよ。美琴みこと朱里あかりを助けたいもん」


 あたしが迷わずうなずくと、大おばあちゃんは満足そうな顔をしてうなずいた。

 それを確認した午居堂ごいどう先輩が、生徒会メンバーのほうへふり返る。


「僕たちも分かれて行動しよう。秋雷しゅうらい天埜あめのさんの護衛。あと、舞いを終えるまでは冬弥とうや、きみが……」

「いや、天埜あめのの護衛は優大ゆうと秋雷しゅうらいがやるべきだろう。秋雷しゅうらい天埜あめのが指定した人物だし、おまえは生徒会の司令塔だ」

「僕も冬弥とうやに賛成~。優大ゆうとは舞いの進行状況を見ながらスマホで僕たちに指示してよ」

「じゃあ秋雷しゅうらい優大ゆうと冬弥とうやとルナ先輩、俺とそうでわかれるのはどうかな?」


 丑名波うしなみ先輩と未八万みやま先輩の意見を寅屋敷とらやしき先輩がまとめると、午居堂ごいどう先輩はわかったと答えるように頭を大きく縦にふった。


「その意見を採用するよ。高等部の生徒会長には僕から連絡を入れておく」


 それから、午居堂ごいどう先輩は加巳野かみのくんのほうにふり返った。


「僕は天埜あめのさんが舞い終えたら、そのあとは高等部と一緒に行動する。だから最終的には秋雷しゅうらい一人になる。加勢はできないと思ってくれ。……いいね?」


 それは白い着物の女への対応は、加巳野かみのくん一人でするってことだ。

 加巳野かみのくんはうつむいたまま、しばらく答えなかった。

 戦いたくないとか、あたしを守りたくないっていうんじゃなくて、『神降かみおろし』そのものに反対しているんだってことは態度でなんとなくわかる。

 どうしようと悩んでいたら、丑名波うしなみ先輩がため息をついた。


秋雷しゅうらい。おまえが嫌なら俺が天埜あめのの護衛のほうを引き受ける。自信のない人間に守ってもらうのは天埜あめのがかわいそうだ」


 どこか挑発するかのような、それでいて冷たい丑名波うしなみ先輩の言葉に、加巳野かみのくんがあごをはじかれたかのように顔を上げた。


「違っ……!」

「あのさぁ、秋雷しゅうらい。これ、僕はチャンスだと思うんだよね」


 加巳野かみのくんの反論に言葉をかぶせた未八万みやま先輩が、今まで見たことがないほどまじめな顔をして、加巳野かみのくんを真正面から見すえていた。


秋雷しゅうらいは子どもの頃に一回アイツに倒されてるじゃん? つまり、幽魔ゆうまもその記憶があるから油断すると思うんだよ。それをぶっ倒せたらスッキリしない?」

そうの言うとおりだよ、秋雷しゅうらい天埜あめのさんはつきそい一人を申し出て、幽魔ゆうまもそれを許可してる。つまり、自分の強さに自信があるんだ」

そう先輩、治日はるひ先輩……」

「それに……自分の非力さの後始末を押しつけるみたいで申し訳ないけれど、俺は天埜あめのさんの『神降かみおろし』に賭けたい。早く幽魔ゆうまを引きはなさないと美琴みことの命にかかわる。藤原ふじわらさんだって危ない」


 寅屋敷とらやしき先輩は真剣な顔をして加巳野かみのくんをみつめる。その瞳には美琴みことを心の底から案じているような感じがある。

 加巳野かみのくんは少し考えてから、今度は迷いのない顔をしてうなずいた。


「わかりました。うずめは俺が守ります」


 加巳野かみのくんのりりしい顔を見て、午居堂ごいどう先輩たちも安心したみたいだった。

 あたしも加巳野かみのくんを安心させるためにふり返る。


「大丈夫だよ、加巳野かみのくん。代償は記憶以外に出るかもしれないでしょ? でも……もしみんなのことをまた忘れたら……思い出させてくれる?」

「うずめ……」

「だいじょ~ぶ! ワタシ、思い出せるよう、いっぱい話しかけま~す!」


 明るい声で言ったルナ先輩が、あたしの背後にまわってガバッと抱きついてくる。


「ありがとう、ルナ先輩。頼りにしてます」

「もちろん、僕や冬弥とうやそう治日はるひだって、きみに思い出してもらえるように語りかけるよ。生徒会……いや、僕たちには天埜あめのさんが必要なんだ」


 いつの間にかあたしの前へ移動した午居堂ごいどう先輩が、あたしの手をとってやわらかくほほ笑んでくれた。

 先輩の王子様スマイルはなんだか癒やされるから不思議だ。

 でも、急に加巳野かみのくんが不機嫌な顔になったんだけれど……なんで?


秋雷しゅうらい、暗い顔、怖い顔、ダメで~す。女の子、不安にさせる男はダメ男、ママンが言ってました」


 ルナ先輩、ダメ男って……。どこでそんな日本語知ったの?

 でも、その無邪気な言い方がよかったのかもしれない。加巳野かみのくんがプッと吹き出すように笑ってくれた。


「じゃあ、今度こそダメ男にならないように俺もがんばらないとな」


 加巳野かみのくんが笑ってくれたことで、あたしも少し安心できた。


 よし! 美琴みこと朱里あかりを助けるためにがんばるぞ!

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