男性学を学ぼう

ゆうさく

第1話 入学式(前日)

「考え直しては頂けませんか、兄さまっ!!」


顔が青く染まるほどの悲嘆の感情を示す妹、神和住小結(かみわずみこゆ)が僕、神和住新音(かみわずみあらね)に声を荒げる。


「ごめんね。それでも僕は学校というものに通ってみたいんだ。それにこれはお母さまとの約束だからね。」


そう、僕はこの春の新学期にアルマ・フィデリス学院に2学年に編入することになっているんだ。


なぜ編入なのかは、説明すると長くなるけど子供の頃から無理難題を答え続け、お母さま含めた周囲の人達から約束(言質)を取ったことで、学校に通うことを許されたのだった。


「それにフィデリス学院には小結もいるんだ。僕は小結と一緒に学校へ通えることを一番楽しみにしてるんだよ?」


「そっ、それは私も同じですっ!!むしろ兄さまより私の方が楽しみで……ってそれとこれとは話が別です!!やっぱり兄さまが学校に通うなんて危険すぎます!!」


小結も一緒に通えるのを楽しみにしてるんじゃないか。でもこれぐらいじゃあ引いてくれないのが厄介なところなんだよね。


「僕は今までにお母さま達から出された課題をクリアしてきた。その知識と経験があるから今回の学校編入の件が許されたんだ。それに何かあった際には小結は助けてくれないの?」


「っ!!助けるに決まっております!!……やはり考え直してはくださらないのですね。」


小結は今にも泣きだしそうな表情になる。僕はそっと頭を撫でながら声をかける。


「ありがとう。皆に心配や面倒をかけてしまうと思っても、それでも学校に行きたいんだ。子供頃からの考えていたことだからね。」


「あっ……兄さまのばか。学校でそのようにクラスメイトの頭を撫でてはいけませんよ!!死人が出てもおかしくありませんから。」


死人だなんて物騒な話だけど、この世の中ではそうなんだろうね。僕もこの16年間で男性がどう見られているのか勉強してきたつもりだ。


「おっと、そうだったね。今後は控えるようにするよ。」


「ですが、私は別ですからね!!いつ撫でて頂いても構いません。……むしろもっと増やしていただけても構わないのですが。」


ジト目で僕を小結が見つめてくる。それにしても、小結も昔に比べると僕に感情を向けてくれるようになったものだ。


「そうかい?僕はこれから明日の準備をするから、小結もしておいで。」


最後に小結の頭を少し強めに撫で、そっと部屋の扉まで送る。


「もうっ!!雑に頭を撫でないでください!!ですが、そうですね。私も部屋に戻って準備をしておきます。」


「……兄さま。明日楽しみですね!!」


愛らしい笑顔で僕にそう言って、小結は私の部屋の扉を閉めて出て行った。


「なんとも可愛らしい妹様だ。まあ僕も明日が楽しみで笑顔から顔が変わらなんだけどね。」


明日から新学期で僕は2学年に編入、そして小結は新入生として入学する。


今までお母さま達からの無理難題もといお勉強のおかげもあって大きな心配はしていないが、やはり女性だけの学校に編入することは大変だと思う。


世界の男女比はなんと1対100ほどの割合らしい。そして日本においても大差はないそうだ。


それゆえ、男性は非常に少なく、見かけることすら非常に稀だ。


僕自身、病院でしか他の男性を見かけたことがないぐらい珍しい存在だった。


そんな男性は、どのような生活を送っているのかというと、基本は家族に大事に守られて、家の中での生活で完結しているそうだ。


男女比が1対100だなんて、確かに男性からすると息苦しい世界なのかもしれない。


それでも普通に学校に通ったり、社会に出たりしても問題なさそうな気もするが、過去に起きたしまった大事件が原因で男性は引きこもることに、そして男性を持つ家庭の女性たちは外部からの干渉すべて遮断して守るような歪な関係性が生まれることとなったそうだ。


その大事件の名前は、黒澤事件と言われ、過去に女性から性的被害や脅迫等を受けた男性が一同に遺書を残して自殺してしまった事件だ。


当時、有名な資産家の息子であった黒澤怜(くろさわれい)を中心とし、様々な被害にあった男性がこの世に対して失望し、自殺してしまったのだった。


この事件を受けて世の女性達は多くの論争を呼び、多くの法改正が行われた。


法改正では、性的被害や脅迫等の罰則が強化され、男性に対する保障も多く生まれた。


男性に対する保障の代表的な権利が、男性を含む家庭の生活費支援及び、警備体制の強化義務及び無償化、家庭教師による義務教育の免除だった。


そんな中、女性達の主張は大体3種類に分けられ、それに対する派閥が3つ生まれた。


男性は管理すべき存在として主張する派閥、男性を尊重すべきと主張する派閥、男性を保護すべきと主張する派閥の3つとなる。


男性は管理すべき存在として主張する派閥は、自殺そのものを起こさないように男性の周囲を管理すべきとの主張であったが、その多くは24時間監視、監禁といった方法で自殺そのものを阻止するべきとの強硬な姿勢を示す派閥ではあった為、男性からの批判や倫理的な問題も多く、3派閥の中で最小の規模であり、現代にはほとんど残っていない存在となる。


男性を尊重すべきと主張する派閥は、読んで字の通り男性の意見を尊重するといったもので相違なかったのだが、時代が進むにつれ、多くは男性が信仰対象のような扱いとなってしまい、それに増長した男性から理不尽な言動や行動に対処仕切れず、多くの問題は発生させているものの、現代でもその主張を支持する声もあったり、田舎によってこの派閥が支配するところもあるそうだ。


最後に男性を保護すべきと主張する派閥では、事件発生前までの生活は維持しつつ、屋外では警備を常に警備つけ、帰宅後には精神科医の面談によるメルタルケア及び問題発生前の予兆の検出、対処に務めた。多くの男性はこの派閥を支持し、生活を続けたが、時間が経つにつれ、警備があることによる心労や度重なる面談の手間が鬱陶しく感じ始め、現代では学校や社会に出る人すらいなくなり、家に引きこもる形となってしまった。


ただ、世論も家に引きこもることを是としていないが、以前のような凄惨な事件が起こるよりは良いのではないかという消極的な姿勢となってしまった。


こんな世の中の為、他の男性と同様に僕も家族に大切に育てられ、外に出ることない生活していた。


僕は、お母さまの知り合いのおばあちゃんが家庭教師となり、お母さまと二人三脚で僕の教育をしていたが、世の中の男の子と比較すると厳しい教育だったのではないだろうか。


なぜ、男性に対する接し方が軟化した現代でありながら教育熱心に育てられたかというと、年子である妹の存在と学校に通いたいという強い思いが原因だった。

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